第16話 俺の夢と三人の夏休みの計画




「俺、夏休みにはフェリーでの旅を予定しているんだけど……ミナト、カレン、二人も一緒にどうかな」


 

 どうやら幼馴染みのハイスペック美女二人は、部活には入らないらしい。


 ならば夏休みは多少、遊ぶ時間も確保出来るのでは。


 少し迷ったが、俺個人の夢だったフェリーでの旅に、二人を誘ってみた。



「……!」


「……!!」


 俺がそう言うと、二人がガタンと立ち上がり、黒髪お嬢様ミナトが俺の左手を、そして金髪ヤンキー娘カレンが俺の右手をガッツリ掴み、とんでもパワーで廊下に連れ出される。


 な、なんだ? お、怒ったのか? 


 さすがに年頃の女性二人をお泊りアリの旅に誘うのは、デリカシーヤバかったか……すまん、ゆ、許して……。


 廊下を引きずられ、階段の横にある『資料室』と書かれた狭い部屋に連れ込まれ、ガチャンと中から鍵をかけられる。


 ちょ……おい、閉じ込め……! 何されんの、俺。


「うふふふふふふ……分かりました、リュー君の言いたいことはもう百まで分かっちゃいました……」


「ああ……ようするにリュー、お前は私たちを抱きたい。そういうことだよな? だったらもうここでヤりゃあいい……!」


 幼馴染み二人が黒いオーラを放ち、ギランと目を光らせる。


 え? 何? ヤ……?


 な、何で船の旅に誘ったら『二人を抱きたい』、の極論になるんだよ。


「ち、違う……! 俺は昨日の海でのイベントみたく、夏休みに三人での思い出を作りたいと思って……」


 俺が必死に二人を抑えつつ叫ぶと、二人の動きがピタリと止まる。


「……なるほど、思い出を作ってから抱きたい、というわけですね?」


「そっか、焦らし、か。そういやリューは特殊性癖だったな。まぁ夏に確定でヤれんなら……許してやっか」


 ゆ、許された……。


 なんだかすごい誤解を生んでいるようなので、キチンと説明が必要か。




「ふぅん、フェリーでの旅の動画ですか。そういえば見かけたことがあります。いいですね、それ」


「私見たことあんぞ。あれ、確かに楽しそうだったな。なるほど……」


 幼馴染みの美女二人に説明をしてみる。


 動画サイトで見かけた、フェリーでの旅。それに俺は憧れていて、夏休みに貯めたお金を使って行こうと計画していたこと。そして昨日までの三人の海でのイベントがとても楽しかったことを伝え、今度は三人でフェリーに乗れたら最高に楽しそうなんだ、という想いを言う。


 二人が俺の説明を聞き静かになり、興味ありそうな顔になる。


「誰であろう、リュー君にお泊りイベントに誘われて、私が断るはずがありません。分かりました、それではうちの旅行会社の者に問い合わせて豪華に……」


「ミナト、ありがてぇけどよ、それじゃあリューの夢は叶わねぇだろ。リューはずっとコツコツと貯めたお金で、自分で稼ぎ得たお金だけで夢を叶えたい、そう言ってんだ」


 ミナトがうんうん頷き、携帯端末を操作し始めるが、それをカレンが止める。


「……あっと……そうですね、夢を叶えるにも、その過程が大事ですものね。私が間違っていました。ごめんなさい、リュー君」


 カレンの言葉にハッとした顔になり、ミナトが俺に頭を下げてくる。


「いやいや……謝るようなことじゃあないよ、ミナト。その気持ちはすごく嬉しい。でも今回のは俺のワガママで、カレンが言うように、掛かる費用は出来たら自分たちで、高校生の俺たちが得られる手段でやってみたいんだ」


 確かにミナトはお金があるのだろう。でもそれを頼るのは違うと思うんだ。


「ならよ、全員でアルバイトして稼ごうぜ。子供の頃、三人で少ないお金持ち寄ってスーパーで安い手持ち花火のセット買ってよ、リューの喫茶店の前で花火やったろ。私さ、あれがいまだに心の中に残っていてさ、それ以降見た、どんな豪華で大きな花火よりも、あのときの手持ち花火が一番記憶の中で輝いているんだ。リューが言いたいのは、多分そういうことだろ」


 カレンが言うが、そういえば昨日のホテルで見た豪華な打ち上げ花火。その時にもそう言っていたな。


 子供の頃、三人でやった花火。


 カレンには、とても大きな思い出として残っているようだ。


 うん、多分そういうことだと思う。



「……分かりました。ではまずはいくら費用が掛かるのか調べ三人で話し合い、目標金額を決めましょう。アルバイトは……正直今までしたことがないので、少し不安ですが……」


 黒髪お嬢様ミナトが携帯端末を操作し、調べ始める。このあたりの行動の速さは、さすがミナト。


 アルバイトか。まぁミナトの家はお金持ちだし、お嬢様でもあるし、やったことはないだろうな。


「大丈夫、アルバイトなら俺の家でやればいいからさ」


 そう、俺の家は喫茶店をやっている。


 毎日かなりの混雑っぷりで、アルバイトさんの増員を考えていたところなんだ。


「リュー君のご実家でアルバイト……! それはつまり頼れて信頼出来るパートナーとして、ご両親へ私を紹介してくださるということですよね! やります! もう今日からすぐに……!」


「リューのとこでアルバイトか。いいぜ、泊まり込みなんだろ? ヤるに決まっている」


 俺の案に二人が乗ってくるが、なんか言っている内容が違っているような……?


 まぁ細かいことはいいか。



 つかこの部屋、狭くてクーラー無いのかよ。


 ……くそ暑い。


 ミナトとカレンも暑かったらしく、上着を脱ぎ始める。


 俺も上着を脱ぎ、とりあえず話がまとまったので鍵を開け廊下へ出る。


 はぁ涼しい。すぐに汗は引かないが、まぁいいか。


 三人が汗ばみ、暑さで紅潮した顔で教室に戻ると、悪友佐吉が目を見開き驚く。



「……確定だ」


 佐吉が謎の言葉を発した。


















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