第15話 さとりの佐吉とリンのお弁当



「おはようございます、みなさん。あ、リュー君、昨日は楽しかったですね、ふふ」


「ふわぁ、ねむ……。お、リュー、昨日は激しかったなぁ。でも気持ち良かっただろ」



 翌日、高校。


 さすがに疲労で全身が重い。大あくびをしながらストレッチをしていたら、教室に入って来た幼馴染み二人に挨拶をされた。



 黒髪お嬢様ミナトと金髪ヤンキー娘のカレン、二人の俺への言葉を聞き、前の席に座っていた悪友佐吉が眉をひそめる。


 そしてゆっくり俺に顔を近付けてきて、小声で一言。


「………………おいお前ら……ヤったろ」


「……はぁ? なワケねぇだろ」


 朝の挨拶をされただけでどういう妄想してんだよ、佐吉。


「いや、あれは肉体関係アリの男女の会話だ」


 佐吉がなお食い下がってくるが、実際何も起きてねぇよ。


 確かに三人でホテルに泊まったけども。


「あとお前から女の香りがする。これは川瀬ミナトと双葉カレンだ」


 え、お前そういうの分かるの? 怖っ。


 一応制服はファブリーズ的なやつで誤魔化したんだけど……。


 佐吉がガタンと立ち上がり、友人たちと談笑していたミナト、そして窓から外を見ているカレンに近付き衛星のように周回。


 最後にもう一回俺に近付き、何か答えを得た顔をして小声で言う。


「三人から同じ海の香りがする」


 こ、こいつ……! 何かの特殊能力持ちか!


「……というのは嘘だ。嘘だけど、お前のその顔で何となく答えでたわ」


 佐吉がペロっと舌を出し、嫌な笑顔をする。


 ぐ……しまった、つい表情に出てしまったのか。


「皆さま、昨日私用で海のほうへ行きましたので、お土産があります。クラス全員分御座いますので、どうぞお受け取り下さい」


 黒髪お嬢様ミナトが大きな紙袋を教壇の上に乗せ、ニッコリ笑顔で言う。


 おっと、さすがミナト。気が利くこの感じ、元の性格もあるだろうが、大企業の娘さんムーブだなぁ。


「さっき近付いたら、あの紙袋が見えてさ。あのホテルは海の側にあるやつだろ。だからちょっとお前をからかったのさ、ひひ。川瀬さーん、ありがとー」


 佐吉がネタばらしをし、お土産を配っているミナトに大きな声でお礼を言う。


 やられた、まんまと引っかかってしまった……こいつ、中学のときからこういう感じなんだよな。心理戦が上手いというか、相手の表情から心を読んでくる。


 味方だと心強いけど、敵に回したらおっそろしい……こいつの取り扱いには今後気を付けないとな……。


「でも良かったよ。中学のときのお前ら、マジで見てらんなかった。俺、お前ら三人が好きだから、仲が良かったっていう子供の頃の状態に戻ってもらいたくてさ。……なんとかなったみたいだな、おめでとう」


「え、あ、ああ、ありがとう……」


 佐吉が急に真面目な顔で言う。


 そういやこいつ、中学の時、ミナトとカレンにちょこちょこ話しかけていたな。


 もしかして何か画策してくれていたのか?




 お昼休み、今日はなぜか妹のリンが母親に習って俺の弁当を作ってくれたので、それを頂く。


 リンは中一なのだが、料理は結構出来る。まぁ俺もそうだが、実家が喫茶店ってのは料理スキルの早期英才教育ってやつだよな。


 冷凍食品を上手く使い、野菜や果物多めのカラフルお弁当。ご飯のほうには海苔を使って棒人間が三人肩を組んでいるような象形文字になっている。


 なんだこれ。


「……よく分からんが、ありがとうリン。いただきます」


「あら、可愛らしいお弁当ですね、リュー君。これは妹のリンちゃん作、かしら」


 うん、美味い。さすが喫茶店の娘だ。しかもキチンと俺好みの味付けになっている。


 パクパク食べていたら、左隣の黒髪お嬢様ミナトがサンドイッチを食べながら俺のお弁当を覗き込んできた。


 今日は学食じゃあないのか。


「ああ、リンが朝から頑張ってくれてさ。良かったね、とか言って渡してくれたんだ。意味は分からないけど」


「リンはお兄ちゃん子だからな。ああこれ、私たちじゃね? ほら、真ん中がリューで左がミナト、右が私だな。あはは」


 右隣の席でジャムパンを食べていた金髪ヤンキー娘、カレンも俺のお弁当を覗き込んでくる。そして謎の棒人間アートライス部分を指し笑顔になる。


 え? 俺たち? これ象形文字じゃあないの?


「本当ですね、ふふ、三人仲良く肩なんて組んでいますね。リンちゃんの想いが伝わってきます」


 ……ミナトも何か読み取ったのか? 


 確かに三つの棒人間が並んでいるが、俺はこれに性別の差を見つけられないのだが……


「あ、いたいた双葉さん、バレー部なんだけど、入る気ない?」


 俺が首をひねりながらアートライスを見ていたら、上級生、二年生と思われる女性の集団がカレンに話しかけてくる。


 部活の勧誘か。


 まぁカレンは運動神経がズバ抜けているからなぁ。誘いたくなる気持ちも分かる。


 カレンは上級生の勧誘に目も向けず、首を振り続ける。


 高校に入って一週間経つが、こんな感じで毎日ずっと上級生がカレンやミナトを勧誘しに来ていた。


 二人とも興味がないらしく、今みたく全て断っているけど。



「……部活、入らないのか、カレン」


 上級生が諦めて帰ったあと、カレンに聞いてみる。


「ああ? 興味ねぇ。身体動かしたきゃあ、その辺走るし。あと部活なんてやったら時間が無くなる」


「その通りです。私たちにとって、放課後の時間はとっっても貴重なんです。部活に打ち込む青春も、それはそれは素晴らしいと思います。ですが私にはそれよりも大事なことがあるのです。ね、リュー君?」


 カレンに続き、ミナトも答えてくれる。


 大事なこと?


「昨日みたいなやつだよ、リュー。部活とかやってたら、リューとの思い出が作れなくなる。それは嫌だ。私にとって、優先度はリューだ」


「ふふ、そういうことです」


 二人が俺をじーっと見てくる。


 俺と遊びたいってことか? まぁ俺も昨日二人と過ごした海でのイベントは、最高に楽しかった。



 ……ふむ。


 部活をやるつもりが無いのであれば、二人は夏休み期間は時間があるってことだろうか。


 実は俺にはちょっとした夢があって、夏休みにはそれを実行しようとコソコソ動いていたりする。


 こないだまでは俺の夢だし、一人での計画の予定だったが……三人だと、とんでもなく面白くなりそうなんだよな。



 誘って……みようか。













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