第10話 露天風呂付き個室で二匹の恐竜をステイ!



 お昼まで実家の喫茶店のお手伝いをしてたはずなのだが、気が付いたら高級ホテルに着いていた。


 海のすぐ横にあるリゾートホテルで、プールやアスレチック施設などが併設されている、巨大な施設。


 まぁ普段ゲームしかしてない高校生の俺なんかが来れる場所ではない。



 夕食は砂浜で豪華なバーベキューイベントが開かれ、大満足の俺たちはミナトに誘導さるがままホテルに入って来た。


 ロビーの吹き抜けすご、装飾がいちいち豪華、レストランの値段高っ、お客さん全員身なりが良い。


 ……こんな高級タワー型ホテルに、俺みたいな一般的高校生が存在していていいのだろうか。正直、居心地は悪い。高級すぎて。


 そして日帰りかと思っていたら、なんとこのホテルにお泊り出来るらしいぞ。


 お値段いくらなんだろ、ここ……




「さぁ、こちらが私たちの初めての思い出の地となるスイートなルームです」


 黒髪ロングヘアーのお嬢様、ミナトが大げさな演技で豪華な客室を指す。


 そう、ミナト、彼女は巨大企業、川瀬グループのお嬢様。ここまでかかったお金は全てミナトが支払ってくれている。


 マジのお金持ちって……すげぇのな。


 いやまぁお金、いつかは返すよ。きっと、多分。


 かなり上階なので、窓からの景色がすごいな。


「おおお、見ろよリュー、ベッドが丸くてでかいぞ! すっげぇ!」

 

 金髪ヤンキー娘カレンが部屋にある巨大なベッドを見て驚き、大興奮で荷物を投げ捨てダイブ。


「お、おい、子供じゃないんだから」


 はしゃぐ気持ちは分かるが、ここの部屋の物、ちょっとでも破損させようものなら高額請求待ったなしだぞ。


 確かにこんな巨大なサイズの丸ベッド、見たことないけどさ。


 天蓋付きで、なんかムーディーな紫とかピンクのライトが付いている。なんだこれ。


「もちろんです、リュー君。私たちはもう子供ではありません」


 ミナトが綺麗な黒髪を後ろに手で払い、優しく俺の両肩に手を乗せてくる。


「私たちはもう……子供ではないのです。ね、リュー君、分かりますよね?」


 俺を正面から真っすぐ見てきて、同じことを二回言うミナト。


「子供では……ないのです……!」


 三回目。ミナトの声が段々大きくなっている。


 何でそこを何度も繰り返すんだ。記憶が音飛びでもしたのか。


「おおすっげぇ、風呂もでけぇぞリュー!」


 巨大なベッドに興奮してゴロゴロと転がっていたカレンだが、今度はベランダにある大きな露天風呂を見つけピョンピョン飛び跳ねる。


 ホテルには大浴場があるのに、部屋にプライベート露天風呂が付いているクラス……この部屋、やべぇぞ。


「……はぁ、もうカレンってば、あと一押しだったのに……」


 ミナトがはしゃぐカレンに溜息。


 あと一押し?  


 もしかして同じことを四回言うつもりだったのか? 何のために……。


「まぁまずは身を清めてから、ですし、カレンの案を採用しましょう」


 ミナトが何かを諦めたようだが、頼むから説明をしてくれ。さっきからさっぱり分からん。


「うひゃあ! 夜の海見ながらの露天風呂とか初めてだぜ! ほら来いよリュー、景色最高だぜ!」


 気付いたら金髪ヤンキー娘カレンが服を全部脱ぎ捨て、ガラス張りで部屋から丸見えの露天風呂にドボン。


 ちょ、おい……! いきなり真っ裸になるなよ! 


 もしかして、カレンは興奮してミナトと女二人旅だと勘違いしているのか?


 あの、実は一名、男の俺がいるって忘れないで。


「カレンは積極的ですね。覚悟が決まっているから、もあるのでしょうが、リュー君の前では隠し事をせずに全てをさらけ出す。結果を求めるのなら、私も出し惜しんでいる場合ではないですね」


 興奮するカレンとは対照的に、ミナトは冷静で落ち着いた口調。


 良かった、こういうときミナトは頼りになる。


 早くカレンにバスタオルを巻くように言って……


「……せぇぇぇい! 見てくださいリュー君! 私の覚悟を……!」


 急にミナトが聞いたことがない声で叫んだと思ったら、着ていたお高そうな服を乱暴に脱ぎ捨てる。


 ちょっ……! おいこらミナト、風呂に入るのは構わないけど、せめて脱衣所とかあるんだし、利用して……!


 まずいぞこれ、一番冷静だと思っていたミナトが誰よりも混乱している。


 露天風呂って、こんなに人が狂うぐらいテンション上がる施設だっけ? 


「お、俺ホテルの中散策してくるから、どうぞごゆっくり……!」


 幼馴染み二人が露天風呂に大興奮で人の道を外れてしまったので、俺は慌てて部屋から出ようとする。


 さっきも言ったが、部屋に付いている露天風呂はガラス張りで部屋から丸見え。


 そこに幼馴染みのハイスペック美女が裸で入るというのなら、俺は至急部屋からロケットのごとく飛び出さなくてはならない。


 逃げずに美女二人の入浴シーンを実況しろ? 無茶を言うな。


 それに俺の語彙力は『ホォォ! すっご、エッロ、写真撮ろ』ぐらいものだぞ!


 あっと、写真は撮っちゃいけないな、それはダメだ。



「ダメですリュー君……! 私が露天風呂が付いている部屋を選んだ理由を考えて下さい!」


「ここまで来て逃げんじゃねぇリュー! こっちはとっくに覚悟決まってんだよ!」


 俺が転びそうになりながらも部屋を脱出しようとしたが、美女二人がとんでもない速度で先回りをし、ドアへの道を塞いでくる。裸で。


 ああああああ……! だからそれをやめろって言ってんだよ!


 子供の頃と違って、俺にだって女性へのそういう欲はあるんだぞ!


 いくら仲良し幼馴染みだろうが、魅力的な女性が裸でいたら、それはそれは大興奮で、俺だって人の道を外れてしまうかもなんだぞ!


「お、落ち着け二人とも……!」


 ステイッ! ステイッ……!

 

 くそ、まるで恐竜を落ち着かせようとする、あのシーンみたいだぜ……


 俺はゆっくり後ろに下がり、二枚のバスタオルを両手に装備する。


「……なんなのリュー君、そのタオルは……って、あ、そうか、目隠しね。私たちの視界を奪って、どこを触られるか分からないという興奮をスパイスとして加えることで、より大きな刺激を……」


「はは、そういやリューは特殊性癖の持ち主だったな。いいぜぇ、いきなりハードモードとか、実に私好みだ」


 くそ、二人が何を言っているのかさっぱり分からないが、俺は特殊な性癖持ちじゃあないって、多分。



「くらえ……! 秘儀バスタオルロール!」


 俺は裸の美女二人へ、渾身の一撃を放つ──











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