第9話 三人の再会を祝したリゾートホテルイベント



「リュー君が作ってくれたパンケーキ美味しい~。やっぱり込められた想いが強いからってことかな」


「まぁリューは喫茶店の手伝いをずっとやっていたからな。慣れたもんだろ」



 間を置いて中断セーブから再開してみたら、いつもの仲良し幼馴染みの健全空間に戻っていた。


 良かった。


 ……じゃなくて、あのあと俺はすぐに部屋を出てドアを閉じ、二人に服を着るようにお願いしたんだけどね。



「それで、二人は土曜日にわざわざ何しに来たんだ?」


 二人で連絡取りあって、時間合わせて来たってことは何か用事があるんだろ。


「ひどい……私は用事が無くてもリュー君には会いに来ますぅ」


「ああ、ミナトのグループ会社が経営しているリゾートホテルがあるんだけどよ、そこに行こうぜ、今から」


 黒髪お嬢様ミナトがちょっと膨れっ面になり拗ね、金髪ヤンキー娘カレンが笑顔でホテルのパンフレットを見せてくる。


 ……今から?


 え?




「運転手のジェイロンです。安全運転で急いで下さいね」


「はい、お任せをお嬢様」


 よく分からないが、俺の実家のちょっと古めの外観の喫茶店の前にピッカピカの黒塗り高級車が止まっていた。


 黒髪お嬢様のミナトが、ニッコニコ笑顔で運転手さんを紹介してくれる。


 背が高く、細身に見えるがかなり鍛え上げられた肉体の超イケメン金髪男。


 小さめの丸いサングラスをかけ、ニカっと俺に笑みを見せてくる。


 うっわ、映画に出てくるようなイケメンだ。日本人離れした顔だなぁと思ったら、ハーフなんだとさ。



「い、行ってきます……」


 状況が理解出来ないまま高級車に乗せられ、実家を出発。


「ふふ、事前にご両親にお話は通してあります」


 黒髪お嬢様ミナトがニッコリ笑顔で言う。


 あ、そ、そうなんだ……確かに家を出るとき両親が笑顔で見送ってくれたが、当人である俺は事後承諾なのね……。


「なんだよリュー、どうせ暇だったんだろ?」


 さすが高級車、初めて乗ったが、全然揺れないのね。


 ドラマや映画で見る黒塗り高級車ってこれかぁ、と真顔で外の景色を見ていたら、右隣のカレンに小突かれる。


 いやまぁ、ゲームするぐらいの予定しか無かったけどさ。あまりに急で頭が追いついていないんだよ。


「う、うん、ありがとう二人とも。た、楽しみだなぁリゾートホテル……」


 なんでも黒髪お嬢様ミナトが全ての費用を負担してくれ、足りないものは現地で買ってくれるらしい。


 今乗っている黒塗り高級車といい、さすがマジのお金持ち、川瀬ミナト様だ……。


 まぁ実際、高校生の俺なんかじゃあこういう機会がないと行けないような場所だし、お金を出してもらっている分、存分に楽しんでいる姿をミナトに見せるべきだな。




「な、なんだここ……すっげぇ! でっかいホテルにプール、アスレチック施設なんかも併設されてんのかよ!」


 高級車に乗ること一時間ちょい。着いたのは、海の目の前にそびえ立つ高級タワー型ホテル。


 俺は頭を切り替え、全力で楽しむ方向へシフト。


 思わず叫んでしまったが、これ、アルバイトをしている高校生の俺レベルが来ていい場所じゃあないぞ。


「ふふ、リュー君の為に建てたホテルなんですよ? 喜んでいただいてなによりです」


 黒髪お嬢様ミナトがニッコリ笑顔で言うが、それは嘘だろう。まぁミナトなりの場を和ませるためのお金持ちジョークってやつかね。


「お嬢様、準備は整っておりますのであちらに」


 運転手のジェイロンさんが、キビキビとした動きでミナトを誘導する。


「ありがとう。さぁ皆さん、夕日を見ながら砂浜バーベキューと参りましょう」


 ホテルに着いたのは夕方、日が傾き始め、辺りはオレンジ色に染まっている。夕日に染まる海が最高に綺麗だ。この景色を見れただけでも、ここに来た価値がある。


 マジでありがとうミナト。



 ミナトに案内されて着いたのは、砂浜の一部がバーベキュー施設となっている場所。ここもホテルの施設らしく、お金さえ払えば手ぶらで、気軽に楽しめるところらしい。


「すげぇ、見ろよリュー! 海鮮に肉にフルーツまであるぜ!」

 

 金髪ヤンキー娘カレンが、すでに揃えられている食材の豪華さに驚き俺の肩を叩く。


 カレンが驚くのも無理はない。うん、この食材、マジで高級なやつだぞ。

 

 でかいエビにホタテ、そして用意されてるお肉が綺麗なさしが入ったステーキときた……。スーパーで売っている物ではなくて、デパ地下の肉の専門店で扱っているクラスに見える。


 ……支払い、大丈夫なのか、これ。


 とりあえずそれぞれ食べたい物を焼いていき、良い感じになったところで黒髪お嬢様、ミナトがフルーツジュースが入ったコップを上に掲げて言う。


「それでは、川瀬ミナト、双葉カレン、そして虎原リューイチ。辛かった三年間を乗り越えた、我ら仲良し三人組の高校での再会を祝して……かんぱーい!」


「おう、色々あったけどよ、それは過去の話だ。今私たちはこうして笑顔で一緒に過ごせている。そしてそれは今日も明日も明後日も、今後ずっと変わらない。これがその誓いだ、乾杯!」


 幼馴染みの女性二人、ミナトとカレンが満面の笑顔でコップを掲げる。


 掲げられたコップはまだ接触させず、二人は俺を見て何かを待っている。この儀式の最後のピースを埋めるのは、どうやら俺のようだ。


「……ああ、俺たち、元の状態に戻れたんだよな。また二人と子供の頃のように笑顔で接することが出来るのは、本当に嬉しい。中学時代は本当に二人が両側にいないことが寂しくて、毎日心がスカスカした状態だった。辛かった……でも今は違う。俺の左側にはミナト、そして右側にはカレンが帰ってきてくれた。そう、やっと俺たちの当たり前の形に戻れたんだ。俺は嬉しい。そしてこんな素晴らしいイベントを用意してくれたミナト、そしてカレンに感謝だ、ありがとう!」


 俺も笑顔でコップを掲げる。


 いい音が鳴り、幼馴染み三人再会イベントがスタート。



「うま! なんだこの肉……生まれて初めて食べるクラスだ」


 いい感じの焼け方のステーキを食うが、香ばしくて柔らかい……なんだこれ、こんな美味い肉がこの世にあったとは……!


 そして普段は絶対に食べれないやつ! 


 ミナトのお金持ちパワーがあるからこそ味わえる極上肉……!


「楽しむことが目的だから、あんま考えちゃいけねぇと思うけどよ……かかっている費用、相当だよな、これ……」


 金髪ヤンキー娘カレンがボソっと言うが、やめるんだ、それ以上は良くない。


 ミナトが望んでいるのは、かかった費用の回収ではなく、俺たち三人の楽しい時間だ。


 お金はいつか返す、でも今は全力で楽しもうぜカレン。



「も、もう食えねぇ……」


 辺りも暗くなり、明かりが各所に灯り始める。


 砂浜付近は各所に焚火が設置され、とても良い雰囲気。


「さすがに食い過ぎだろリュー。この後大丈夫かぁ?」


 全力でバーベキューを楽しみ、俺はお腹の形が変わるぐらい食べた。も、もう動けねぇ……え、カレンさん、この後? そんなの帰るだけだろ?


「ふふ、それでは一回お部屋で休憩しましょうか。若い男女の夜は長いですし……うふふ」


 ミナトがなんだか黒い笑顔で言う。


 お部屋? ホテルのか?


 え、でもそれって宿泊者だけしか利用出来ないんじゃ?


「今日お泊りするお部屋、三人部屋ですし……ふふ、うふふふふ……」

 

 お泊り? あれ、これって日帰りバーベキューイベントじゃあないの?


 え、三人部屋?



 ミナトさんの笑顔が何か怖いんですけど……?












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