第7話 喫茶虎原にハイスペック美女がご来店



「いらっしゃいませー。お好きな席へどうぞ」



 高校生活最初の一週間が過ぎ、土曜日。


 学校はお休みだったので、俺は朝から実家の喫茶店の手伝いをしている。


 いわゆるチェーン店のファミレスではなく、昔ながらの喫茶店。


 メニューも渋い物が多いが、俺が色々提案して、若い人向けのラインナップも増えている。


 最近のオススメは、アイスが乗ったパンケーキかな。



「リューちゃん、いつものコーヒーね! あとたこ焼きも!」


「はーい、毎度ー」


 うちの喫茶店は近所の人が結構な頻度で来てくれ、俺の出すコーヒーが目当ての人もいる。


 子供の頃からの付き合いなので、もはや俺の親戚レベルのご近所さんがたくさんいる。


「リュー兄~、パンケーキが食べたいな~」


「はいよ……ってリンかよ。毎度、650円になりまーす」


「はぁ? こんなに可愛い妹からお金取るの~? リュー兄ひどーい」


 注文の流れに妹のリンが乗ってきて、自分が食べたいパンケーキを俺に作らせようとしてきた。


 あのな、家族だろうがこれは商売なの。きちんと対価を払え。


「リンちゃん、こっちおいで、私が出してあげるから」


「やった! 水戸ママ大好き~! はいリュー兄、パンケーキね、いひひ」


 常連の水戸おばさんが妹のリンを手招きし、そこにリンが遠慮もせずに乗っかっていく。


 ああもう……なんかコイツは昔から人に奢らせ体質というか、図々しいというか……。



「来ちゃった……ふふ」


「おうリュー、久しぶりにお前の手料理食わしてくれよ」


 お昼近く、見慣れたお客さんが参上。


「あらー、大人になったのねぇ二人とも」

「しばらく見なかったけど、そう、戻ったのね、良かったわぁ」


 現れたのは、モデル並みの見た目のハイスペック幼馴染み、ミナトとカレン。


 二人は子供の頃から俺と一緒だったから、お店の常連の人には当然知った顔。中学時代は俺たちが疎遠だったので、それをかなり心配していたようだ。



「あれ、どうした二人とも。約束とかしていなかったと思うが……」


 はて、今日行くからとかの連絡は来ていなかったような。


「約束とかしなくても、想いの繋がった二人は必ず出会うものなんです」


「ああ、ミナトと話してよ、今日リューが店番だから行こうぜってなって」


 ミナトとカレンが席に座っている常連さんに頭を下げ、俺の近くに歩いて来た。


 黒髪お嬢様のミナトは白いワンピースに薄いカーディガン的な物を羽織り、大きめの帽子にサングラス。決まってんなぁ……なんかどこかのお金持ちのお嬢様みたいだ。


 って、ミナトはマジのお金持ちだった。


 対して金髪ヤンキー娘カレンは、足が綺麗に見える黒いショートパンツに、大きめの水色のぶかっとしたパーカーを着ている。さらにカレンは視力が良いはずなのに、黒縁の伊達メガネとか付けているぞ。


 あれ、いつものカレンは近所のコンビニ帰りかって感じの、だらしなく着崩した黒色のジャージ上下にサンダルという出で立ちなんだが……。


 なんかちょっと気合入っているな。



「うわぁ! ミナトお姉ちゃんにカレンお姉ちゃんだ! 良かったぁ、このままじゃリュー兄、一生孤独で寂しい人生一直線だったよー」


 二人に気付いた妹のリンがパァッと明るい笑顔になり、ミナトとカレンに抱きついていく。


 ……我が妹よ、お前の中での俺って、どういう兄なんだ。


「リンちゃん久しぶり。大きくなったね、今度化粧教えてあげるね」


「悪かったな、リン、心配かけちまって。でももう大丈夫だ、リューは私が面倒みっからよ」


 おお、女性三人が仲睦まじいって……いいなぁ。



「あ、でもお店混んでますね……また出直したほうが良かったかな」


「そうだな……やっぱ連絡してから来るべきだったか」


 お店はお昼で大混雑。席はもう満席。


 これだけ混むと、両親とアルバイトさんがフル回転で当たるので、俺は用済み。


「いや大丈夫、二人とも俺の部屋で待っててくれよ。注文してくれた物、俺が作って持っていくから」


 混雑が収まるまで、俺は休憩。せっかく二人に来てもらったのに、追い返すのは申し訳ないからな。


「…………!」


「リュ、リューの部屋……!」


 俺がそう言うと、二人が驚いて赤い顔になり、ダッシュで二階にある俺の部屋へ走って行った。


 あ、おい二人とも、注文! 適当に俺セレクションでいいのか?



「ったく、食べに来たんだから注文していけっての」


 厨房のコンロを借り、二人への料理を作る。


 お昼だけど、重い物はいらないよな。よし、今オススメのパンケーキにするか。


 飲み物は、ミナトは甘い紅茶、カレンは苦めのコーヒー、と。




 よし出来た。おまけでフルーツもトッピングだ。


「……! これ……ああああ!」


「……リュー……! これがリューに抱かれる感触……」


 二階にある俺の部屋に出来上がったパンケーキセットを持ってきたが、なんだか俺の部屋の中がやかましい。


 ドタバタと暴れているようだが……何をしているのか、二人とも。



「ほいお待たせ、こちら喫茶虎原自慢のパンケーキ……」


「……あ……」


「うおおお……リューの香り……あ」


 部屋のドアを開けると、半裸の女性二人が大興奮で俺のベッドに顔をこすりつけていた。



 ん? 半裸……? 


 何事……?













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る