第4話 想い出の桜並木で謎の記念写真を



 高校からの帰り道、俺はちょっと足を伸ばし近くの川まで来てみた。



「おお、咲いてる咲いてる」

 

 ここは川に沿って桜が植えられている場所で、地元の観光スポットになっている。



 基本毎年見に来ているのだが、今年は例年以上に桜の花が生い茂りピンク一色。

 

 まるで絵葉書のような光景。


 青空の下の桜も最高だが、夕方の桜並木、これも絶品である。


 俺は携帯端末を構え、映えるポイントを探し数枚の写真を撮る。


「いいねぇ、綺麗だ」


 自分で撮った写真を確認してみると、カメラの性能が良いせいか、俺程度の腕でも充分映えるものになっている。


 そこにはご家族連れや近隣の仲良し学生グループが写っていて、皆笑顔で桜を楽しんでいる瞬間が撮れていた。


「そういや、小学生ぐらいまでは三人で毎年見に来ていたよなぁ……」


 今でこそ一人だが、子供のころは幼馴染み三人でこの川に来て、桜を見ていた。


 そのときは携帯端末なんて持っていなかったので写真は無いが、今なら撮れるか。


「……」


 少し悩んだが、俺は端末に入っている幼馴染み二人に連絡を取ってみた。


 この連絡先も、昨日やっと教えてもらえたんだよな。中学の時は、連絡先すら知らなかった。


 佐吉がニヤニヤ顔で急に連絡先交換たいかーい、とか言い出して、俺、ミナト、カレンそして佐吉で連絡先を交換し合った。


 ミナトとカレンは軽く佐吉を睨み、俺の端末にクラスの女子の名前が無いことを確認し、満足したかのように連絡先を教えてくれたが、それは一体何の確認なのか。


 俺に女友達がいるわけないだろうに。


 そして何で佐吉がこのグループに所属したのか分からないが、言い出したのが佐吉だし、まぁいいか。




「はぁはぁ……お待たせリュー君! 全力で走ってきちゃった」


 一番に現れたのは黒髪お嬢様ミナト。


 高校の帰りに近くで友達とショッピングを楽しんでいたみたいだが、それを抜けてこっちに来てくれた。大丈夫なのか、それ。


「来てくれてありがとうミナト。でもよかったのか? 友達との付き合いも大事なのに」


「ううん、ううん! 私にはリュー君との時間のほうが大事。中学時代に積み重ねることが出来なかった思い出を、高校からは一個でも多く作りたいの」


 なんか思い付きで呼び出して申し訳ないな、と頭を下げて謝るが、ミナトが笑顔で答えてくれた。


 夕方の桜並木、そこに成長したミナトの制服姿、まるでドラマのワンシーンのようだ。


 風で美しく長い黒髪が舞い、同時に桜の花びらも舞う。


 これはすごい、桜の木を見上げて微笑むミナトの横顔は、とても絵になるなぁ。



「来たぜぇリュー。二人きりで花見ってことは、このあとアレな展開が……ってミナトも一緒かよ……」


 一番大きな桜の下で待っていたら、金髪ヤンキー娘カレンが現れた。


 制服のブレザーとシャツの首元を大きく開け、ポケットに手を突っ込み、ニヤァと笑い俺を見てくる。


 夕日に照らされたその姿は、なんとなく果し合いに来た武闘家に見える……。夕方の河原の決闘編とか、そういうの。


「いや、ちゃんと三人でって書いたはずだが……」


「チッ、そこまで見なかったんだよ。一行以上は読めねぇよ」


 俺はちゃんと『今時間あるかな。良かったら桜を見ないか。三人で』と送ったはずだ。そしてそこまで長文じゃあないだろ、こんなの。


「カレンが来なければリュー君と二人きりだったのに。あーあ、残念」


「テメェ、このままリュー抱っこして走ってミナトが追いつけない場所に行ったっていいんだぞ?」


 美女二人が睨み合うが、なんでカレンは俺を抱っこしたがるのか。謎。


「ほらやめとけ。ミナトはわざわざ三人分の飲み物を用意してくれているんだぞ」


 俺はミナトから預かっていた買い物袋から、甘い紅茶のペットボトルを取り出しカレンに渡す。


 そう、ミナトはあんなことを言ってカレンを挑発しているが、来るときにきちんと三人分の飲み物を買ってきてくれたのだ。


「チッ、甘い紅茶かよ。私は苦いコーヒーが好きなんだけどよ」


 カレンが文句を言いつつも、紅茶を受け取る。


 そういや、ミナトは昔から甘い紅茶が好きで、カレンは子供のころからなぜか苦いコーヒー好きだったな。


「ミナトが奢ってくれるっていうんだから、言うのは文句じゃなくてお礼だろ。ミナト、ありがとう」


「……チッ、悪かったよ」


「ふふ、はい。では三人で花見を楽しみましょうか」



 それから三人でどうでもいい会話をし、笑いながら夕方の桜並木を歩いた。


 さっきの俺のように、桜を撮っている人が多くいる。もしかしたら、その写真には俺たち三人が笑い合っている姿が紛れ込んでいるのかもしれない。


 誰かの端末に、その写真が何年残るのか分からない。余計な物が写っていたと、明日消されるかもしれない。


 でも、久しぶりに三人で楽しんだ夕方の花見という一瞬の光景は、俺の記憶に一生残ると思う。


 三年近く疎遠だった三人。もう会うこともないのだろうと思っていた。


 それがこうして高校で再会し、再び仲良く桜を見に来れた。


 やばいな、珍しく感傷的になっている。このままじゃ泣きそうだ。


 よし、写真を撮ろう。


「せっかくだし、三人で写真撮ろうか。子供のころは携帯端末を持っていなかったから写真を撮れなかったけど、今ならあるし」


「おお、それいいな。そういや子供のころ毎年来てたけど、写真撮らなかったもんな。でもどうやって三人で撮るんだ?」


「撮りましょう。こういうのは記録に残すべきです。ってそうですね、自撮り用のアイテムとか持っていませんし……」


 俺が写真を撮ることをカレンとミナト、二人が承諾してくれたが、そういや俺は自撮りアイテムを持っていない。


 さてどうしたもんか。通りがかりの人に頼むというのもなぁ。


 最悪、携帯端末をどこかに置いて、カウントダウン機能で撮るか?



「──ひひっ、お困りのようですね、お三人方」



 三人で困っていたら、桜の木の後ろから不気味な声が聞こえ、糸目の男が夕日に照らされニヤァと笑っていた。


「うわっ!」


「四ツ原君?」


「うぉ、なんだコイツ……!」


 俺たちがいきなり現れた男に驚き、声を上げる。


 って佐吉か!


 なんでタイミング良くここにいるんだ……怖っ。登場の仕方が怖っ。ゴーストか何かかよ、お前。


「つまらん、お前のデートはホントつまらん。ずっと見ていたが、お美しい女性二人が期待していることを一つも叶えてあげられないとか、男の風上にも置けない野郎だぜ。ホラ貸せ、せめて俺が三人の花見の思い出を撮ってやるからよ」


 佐吉が不満そうに俺を小突き、携帯端末を取り上げる。


 え、ずっと見ていた? んん?


 女性二人の期待? いや、高校一年生の花見ってこういうものじゃないの?



「はい笑って笑って」


 急に湧いて現れたカメラマン佐吉に指示されるが、俺たち三人は驚きでポカンとした顔を崩せず。


 佐吉は写真を撮ったらそれを手慣れた感じで全員に共有し、意味深な笑みを浮かべ、沈みかけた夕日に向かって消えていった。



 一体何の最終回なの……アイツ。



 一応撮ってもらった写真を見たら、見事に呆けた顔の三人でした。


 正直、なんの記念写真だか分からないレベル。













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