第2話 二人の三年間の想いと、暴かれる俺がモテなかった理由




「私の恋の砂漠に足りないものは~、あなたの愛という雨~♪」



 高校初日の授業が終わり、放課後。


 よく分からないが、三年以上疎遠だった幼馴染みの美少女二人が俺の家にいる。


 俺の実家は喫茶店をやっていて個室のほうでカラオケが出来るのだが、なぜ俺は黒髪ロングのお嬢様ミナトと、金髪ヤンキー娘カレンと個室で密着をしているのか。



 俺が歌い終わったら黒髪お嬢様ミナトが歌いだしたのだが、相変わらず綺麗な声で上手いな。


 歌う仕草も子供の頃から変わらず、可愛い踊り、合間に入れてくるウインクなど見惚れるレベル。高校生になってスタイルも良くなり、本当に目の前にアイドルがいるような感覚になる。


 お嬢様とかさっきから言っているが、彼女は本当に大企業の経営者のお嬢さんなんだぞ。


 川瀬グループとか知らないだろうか。証券会社とかホテルとかで有名な。それ、そこのお嬢さん。


「あなたの~♪」


 歌詞にある「あなた」の部分で一々俺を見てくる演技をするのだが、そこまでキャラ作って歌わんでも。



「チッ、ほっそい歌ばっか歌いやがって。時代は演歌だよな演歌。リュー、あれ入れてくれ」


 ミナトが歌い終わるとカレンがマイクを奪い取り、俺に機械の操作を顎で指示してくる。


「へいへい、いつもの演歌ね。分かってますよ」


「……そう、これこれ、この腹にドカーンと来るイントロ、最高だぜぇ! いくぜ『女の未練日本海』」


 ミナトの恋の歌をほっそいと表現したカレン。彼女は見た目とは裏腹にこぶしの効いた演歌が大好物で、小学生のころから、年齢から考えたら渋いと思える演歌を歌いまくっていた。


「凍える海風恋未練~ああ~あああ~、私の想いよ日本海ぃぃ~」


 そしてプロレベルに上手いという始末。


 カレンは子供のころから運動神経抜群でスポーツ少女。中学になってヤンキー系に行ってしまったが、その長くて綺麗な足は健在。


 いや、高校生になってさらに魅力が増した、と言える。


 動きはミナトと違い、まるで空手の型でもやっているような武闘派の踊り。


 突き出す拳の早さとか、風切り音が聞こえるレベル。


 ……あとカレンはちょっとガサツで、演歌で気持ちが盛り上がると蹴りとかの振り付けも入れてくるのだが、子供の頃と違って高校の制服でスカートなのに普通に足を上げてくる。


 ……うん、これ見えます。



 演歌を歌い終えると、ミナトとカレンが二人でデュエット曲を熱唱。


 まぁ二人とも、俺の家で昔から歌っていたもんだから、上手いのなんの。パートの振り分けも暗黙の了解で出来るし、息の合った振り付けも完璧。


 ……なんか中学のときの三年間の疎遠時代が嘘のような空間。


 まるで小学校低学年時代から、高校までワープしたかのようだ。


「はーい、リュー君見てる~? スカートひら~、なんて、うふふ~」


「あ、おいテメェ……! 一々あざといんだよお前! リューもさっきからだらしない顔して見てんじゃねぇよ! ま、まぁ私のならいいけど……」


 なんかミナトが制服のスカートを歌に合わせてヒラヒラさせているが、それ以上すると……見えるぞ? いいのか? 


 俺は止めないからなって、カレンにはさっきのガン見、バレてたのか。


「……二人とも、綺麗になったなぁ……」


 なんだか夢でも見ているかのような光景に、俺はボソっと本音を漏らしてしまった。


「……」


「……」


 すると突然二人がビタっと歌と動きを止め、俺の目の前にゆっくり歩いてくる。


 げ、マズイ、女性に対してちょっと無神経な言葉だったか。


「……どっち? ねぇリュー君。リュー君はどっちを選ぶの? 私は……いいよ。中学のときは年頃の男の子とどう接していいのか悩んで、周りの視線とかも気にしてリュー君のこと避けちゃったけど、もう……決めた。迷わない。周りの視線とか、どうでもいい。三年間、ずっと辛かった。隣にリュー君がいない生活は……もう嫌」


 黒髪ロングのミナトが俺の目の前にしゃがみ、真剣な表情で俺を見てくる。

 

 あ、もうちょっと足をこう開いてくれると見えそうでベストアングルなのですが、顔には……出さないぞ。


 だってミナト、超真剣な顔だし。


 そうか、ミナトはミナトで悩んでいたのか。


 俺を避けていたのは、思春期になり、色々気になり始めてしまったってことだったのか。



「……悪かったな、リュー。私、中学入ってから見ての通りヤンキーになってしまって。髪とかも染めて悪い友人作ったりして、そいつらとつるんで遊んでたんだけどよ、最初は意気投合して楽しかったんだけど……段々つまんなくなって。でも気付いたら私の周りにはそういう奴等ばっかりで、この状態で普通に真面目に生きてるリューに近付いたら、迷惑かけるんじゃないかと思って……。でも無理だった。私にはリューがいない生活は考えられねぇ。あいつらとはもう縁を切った。高校からの時間は全てリューに使う。覚悟も決めた。リューが私のことを綺麗って言うなら……いいぞ、しても」


 金髪ヤンキーのカレンが申し訳なさそうに呟く。


 カレンって結構流されやすい性格だからな。ついつい刺激的な方へ行ってしまった。


 別に人を傷付けたりはしていなかったし、見た目だけのコスプレヤンキーで満足してしまったのだろう。


 しかしミナトもカレンも、久しぶりに間近で見たら、出るとこ出て超エロいな。


 携帯端末でお写真とか、ダメっすか?


「あ……? なんだよリュー、あれか……私の服を脱がして、その写真を撮って脅して支配するとかいうやつか……! お前そんな特殊性癖だったのかよ! チッ、どうりでお前に彼女が出来ないわけだ……そんなの、私しか理解者いねぇぞ!」


 俺がこっそり二人のエロいお姿を至近距離で撮ろうとしたら、目ざとくカレンに気付かれてしまった。いや、俺はただ幼馴染み二人の成長記録を撮ろうと……。


 特殊性癖? いや俺、ノーマル。エロけりゃなんでもいける派です。


 ってなんで俺の性癖暴露せにゃあならんのだ。


「大丈夫、リュー君に彼女は出来ないですよ? だって……言い寄ろうとした女、全部お金で頬叩いて諦めさせましたから……うふふふふふ?」


 黒髪ミナトの目が怪しく光る。


 ……ん? ミナトさん今なんて言いました?


 俺今までモテたことないですけど……え、どういうこと?


 川瀬ミナトさんさ、あれだよね、お金で頬を叩くとか、よくあるお金持ちネタであって、架空の物語だよね?


「……チッ、おっそろしい。もはや悪魔だな。まぁ私もリューに近付こうとした女、本気で睨んだら逃げて行ったな。ははっ、その程度で私のリューに近付こうとか、覚悟が足りねぇ。ダメだ、あんな女。リューには私ぐらいの覚悟が決まった女じゃねぇとよ」


 金髪ヤンキー娘カレンが握り拳を作り、悪い顔をする。


 ……ん? カレンさん今なんて言いました?


 俺に近付こうとした女を本気で睨んだ? え、もしかして俺って中学の時、女性とそういうチャンス、あったの? 双葉カレンさん? あれれ?


 それを二人が潰してた? 


 んん?







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