俺の左右がハイスペック天使達に占拠されたんだが

影木とふ@「犬」書籍化

1 俺の左右がハイスペック天使達に占拠されたんだが

第1話 三年ぶりのハイスペック天使達




「ああああー俺のコスモがー!」


「……チッ、相変わらず無駄に歌うめぇのな、リュー。それよりよぉ、久しぶりに二人きりになれたんだからよ、もっとこう肉体的に接近とかしていいんじゃねぇの?」


「ああ、ちょっとカレン、二人きりって私もいるんですよ! それよりリュー君の歌ちゃんと聞きましょうよ。私たちの為に想いを込めて歌ってくれているんですよ? 肉体的接近って……じゃ、じゃあ私はこっちから……!」


 俺がアニソンを魂込めて熱唱するも、幼馴染みの女性二人はそれを聞きもせず左右から密着してくる。


 二人への想い? そんなんじゃねぇよ、この歌は主人公がピンチに覚醒するシーンで使われる、心が震えるほど熱いソング、だよ。


 ──さて、なんで俺がこんな美人の女性二人に両側からサンドされているのかというと、そうだな、まずは俺の生い立ちから……冗談だ。


 少し、少しだけ過去の話をしてみよう。






 スクールカーストという言葉を知っているだろうか。


 学校という密室の中で自然発生的に起こるアレだ。


 幸い俺はそういうのには無縁で、中間にいる無害君、という立ち位置をキープした。


 まぁ言ってしまえばその他大勢のモブの一人、特徴のない、普通の中学生といった感じだろうか。


 もちろんモテたことなど、無い。


 自信満々に言うことではないが、事実なのだから仕方がない。


 だがそんな俺でも、子供の頃は幼馴染みの可愛い女の子二人に懐かれていたりもしたんだぞ。


 ああ、もうあれだな、それが俺の唯一の自慢だな。



 小学校を卒業すると、俺と女の子二人の仲良し三人組は段々疎遠になり、中学三年生ともなると会って話すこともなくなった。


 学校の中で見かけて俺から挨拶をしたりしたが、二人の女性は無言か、逃げるように走っていってしまった。


 思春期、多分そういうやつだろう。


 幼馴染み二人は成長するにつれ出るところは出て、みるみる魅力的な女性へと変貌。中学のときなんかほぼ毎日なんじゃないかと思える頻度で、同級生などから告白されている状況だった。


 他校の男子生徒からもよく話しかけられていたが、ヤンキー風体のカレンなんか舌打ちかましていたな。


 毎日男に言い寄られ、それはそれは面倒で大変だったらしく、多分俺もその『下心見え見えで言い寄ってくる男』に分類されたのだろう。


 中学時代は学校でみかけるぐらい、で話さなかったし。


 まぁ気持ちは分かる。


 俺だって毎日女の子に告白なんてされた日には、それはそれは舞い上がって毎日ハッピー……うん、こんな考えだから幼馴染みの女性二人に嫌われたのかな。


 嫌われてはいるだろうが、それでも俺はいまだに幼馴染みの二人のことは大切な友達だと思っているし、幸せになってもらいたいと思っている。


 俺たち三人は学力成績が全然違って、俺は中間、ミナトは学年一番の才女、カレンは……ちょっとヤンキー系の道に進み、スポーツ万能だが学力は残念な子、という感じ。


 なので、進学する高校は全員違うのだろう。


 来年度からは通う高校も別になり、それぞれにやることが増え、部活や勉強、その先の進学就職まで見据えた行動を取り、すれ違いの時間が重なり、いつしか二人の女性の記憶からも俺という存在は消える。


 二人とは幼稚園時代から一緒だったが、それもここまでなのだ。


 ──そう思っていた。




 中学校を卒業後、俺は無事、家の近くの普通の高校に合格し、登校初日。


 学力がちょうどよかったのと、やはり家から近いというのは正義。通学で無駄に消費される時間が少ないというのは、学業以外の私生活にゆとりが出来るってものだ。


 その時間でアルバイトなどをしてお金を稼ぎ、夏休みには子供時代からの夢を叶えたい。



 俺の夢? それはフェリーでの旅。


 動画サイトで見かけて憧れたのだが、船から見える大海原の景色を楽しんだり、船内で食事、そして寝ると目的地に着いている。


 これ最高の休日の過ごし方だろ。


 子供のころからお金は貯めていたので、とりあえず行けるお金はあるが、ランクアップの為にアルバイトも考えている。


 ああ、早く夏休みにならないか、と登校初日から思うほどだ。



「なんだよ、佐吉、またお前と一緒かよ」


「ひひっ、腐れ縁腐れ縁。多分俺とお前って前世からの繋がりなんだよ。諦めろ」


 振り分けされた高校の教室に入ると、そこには見慣れた男の顔があった。


 ひひっと特徴的な言葉を漏らし、キツネみたいな糸目の男が俺の席の前に座っていた。


 こいつは四ツ原佐吉、中学からの付き合いで、俺の親友とも呼べる男だ。話が上手く、よく俺をイジってくる。


 言葉がポンポン出てきて頭の回転が早いから、てっきり学力高いのかと思ったら、俺と同じ高校なのかよ。ガッカリだぜ。


「腐れ縁といえばあれだぞ虎原リューイチ、あの二人も一緒の高校だぞ」


「うわ、やめろよフルネームで呼ぶの。あの二人? 誰だよそれ……」


「おおおおお、すっげぇ美人!」

「モデルさん? 髪きれーい」


 いつもは俺のことをリューイチ呼びなのに、なんでフルネームなんだよ、と不満顔で詰め寄ろうとしたら、教室の雰囲気が一気に変化した。


「おはようございます、皆さん」


「チッ、ウザ……散れよガキども」


 正反対のセリフを言い、二人の華やかな女性が教室に入って来る。


 その途端巻き起こる歓声と称賛。


 丁寧に頭を下げ、にこやかに微笑んだお嬢様みたいな黒髪ロングの美女の女性が『川瀬ミナト』。


 そして辺りに攻撃的な視線を向け、舌打ちをしながら教室に入って来た金髪ヤンキーが『双葉カレン』。


 そう、この二人こそ俺の幼稚園時代からの幼馴染みの女性で、見ての通り、とんでもないお美人さん。


「……は? なんで二人がここに……」


「ひひっ、なんでって……アレに決まってるだろ?」


 俺が漫画のキャラみたく大口をあんぐり開けて驚いていたら、佐吉がニヤニヤ笑い俺を小突いてくる。


 アレ? なんだよアレって。


 しかしすごいなこの二人は。


 ただ教室に入ってくるだけで騒ぎが起こるんだぜ。


 もう二人の放つオーラが凡人の俺とは違うというか、さっきクラスの女性が言っていたが、そこにいるだけで空間が華やかになるモデルさんとか、芸能人クラスの存在感。


「ヒュー、イケてるじゃん。よぉ、俺たちと放課後遊びに行かない? 良いカラオケ店、知っててさー」


 うわ、もうクラスのカースト上位のイケメン男たちが色目を使って近付き始めたぞ。


 あの二人は中学時代、それに悩まされていたんだぞ。


 ったく……


「あ、マジ? 行く行く、俺絶対盛り上がるアニソン得意でさ、レパートリーなんて数百あるんだよ」


「ああ? 誰だよお前。キモ、一人で歌ってろよ。あ、ねぇ二人とも、俺たちと……」


「お前ら席につけー。俺は担任の佐藤な。まずは一人一人自己紹介から始めような」


 イケメン五人がミナトとカレンに強引に迫ろうとするが、俺が陽気な勘違い君を演じ間に入る。


 タイミング良く担任の先生が入って来たので、イケメンたちは不満そうに席に座る。


「……」


「……チッ」


 その様子をじーっと見ていたミナトとカレン。


 まぁ余計なお世話だったかもしれないが、同じクラスにいるのなら俺は二人を陰ながら守ってみようかな。



 俺の席は一番後ろ。そして左に黒髪ロングお嬢様ミナト、右に金髪ヤンキーカレンという配置。


 そしてさっきから二人に怖いぐらいじーっと見られているんですけど、何?


 やはり昔のように三人仲良くってのは、無理なのかなぁ。




 高校初日の授業も終わり放課後。


「初日から授業ダルかったぁ。さ、帰って昨日のアニメチェックしてゲームでも……」


「……おいリュー。今日いいんだろ。歌」


 長時間椅子に座っていたので固くなった体を伸ばしていたら、右側から超不機嫌そうなヤンキーボイスが聞こえた。


 俺が何事かと思って見ると、カレンが長くて綺麗な足をちょっとエロい感じで組み、真っすぐ俺の目を見てくる。


 え、嘘だろ、カレンに話しかけられるのなんていつぶりだ? 少なくとも中学時代はゼロだったから三年ぶりか? どうしたんだ急に。


 今日いいんだろ? 歌? 


 俺はカレンの言葉の意味が分からず固まるばかり。


「ずるい、私も久しぶりにリュー君の歌が聞きたいな。今日リュー君の家にお邪魔してもいい?」


 左側からも声が聞こえ、黒髪ロングお嬢様、ミナトが俺の左腕を掴んでくる。


 え、え、何これ。一体俺に何が起きているんだ?


 ミナトは子供のころから髪が綺麗だったが、高校生になってスタイルも良くなったから相乗効果がやばいな。本当にモデルさんみたい。


「チッ、お前も来んのかよ……。お嬢様はお嬢様らしく迎えの車で帰って豪邸で暮らしとけよ」


「だって久しぶりにリュー君に誘われたんですよ? 行くに決まっています。もう中学のときのような想いはしたくない。真っすぐ、迷わず行動するって決めたのです。それはあなただって同じなのでしょう?」


 ミナトとカレンが俺を挟んで睨み合っているが、どういうこと。


 状況が理解できねぇ。


 美女二人がいきなり三年の沈黙を破り、俺に言い寄ってきたぞ。


 イケメン軍団の誘いには乗らず、クラスに必ず一人は配置されるモブみたいな男、俺にモデル級美女二人が迫っているという状況にクラスがザワめいているし、助けを求めた悪友佐吉は面白いことが起きた、とニヤニヤ顔。


「ま、待て、さっきから何の話をしているんだ。歌だの誘っただの」


「はぁ? リューが言い出したんだろ。アニソン歌いてぇとか」


 とりあえず二人を制し、状況を整理しようとしたが、カレンが不満そうに言ってくる。


 いつ俺がそんな宣言をしたのか。


「ええ、朝に悪漢から華麗に私たちを救い、その流れで誘われました。さすが私のリュー君、格好良かったなぁ……。カラオケに行くんですよね? ほら、早くリュー君の家に行きましょう。ふふ」


 黒髪美女のミナトが俺の左腕に絡み、ぐいぐい引っ張ってくる。


「リューは必ず私たちを守ってくれる、昔からそういう男だ。覚悟が決まっていて格好良かったぜ、リュー。あはは!」


 金髪ヤンキー娘カレンが爆笑しながら俺の肩をバンバン叩いてくる。


 あの二人とも、ちょっとボディタッチが強すぎなので、その辺で……。脳が揺れる。


 朝の悪漢? カラオケ? ああ、それはイケメン軍団が二人を無理矢理誘おうとしていたから、俺が間に入って止めたって話だよな。


 そして俺の実家は喫茶店を営んでいて、カラオケも出来るけど、二人を誘ったって話はどこから来たんだよ。


「え、あの俺二人に嫌われてたんじゃ……」


「はぁ? っざけんなよリュー。誰がそんなこと言ったんだよ、私はずっと……」


「リュー君、さすがの私も怒りますよ? 私の想いは子供のころから募るいっぽうです」


 俺のセリフに二人が間髪入れずガチギレ。


 なんか怒られているんだけど、俺が悪いのか、これ。




 ……よく分からないが、どうにも中学のときとは二人の雰囲気が違うようだ。


 もしかしたら、昔のように三人仲良く出来るのかもしれない。


 そんなことを思った、高校生活第一日目だった──








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