第8話 影を堕としたい
体育倉庫の扉を蹴破って乗り込んだ俺は、不舞の取り巻きの女子生徒たちに取り囲まれていた。
周囲が唖然とした様子で見つめる中、不舞は俺をまじまじと観察する。
「あなたは..確か....」
「
「あぁ、思い出しました。こともあろうに琴原様に不埒を働こうとした殿方でしたか。特に気にする必要はないと持っていましたが....。」
不舞はチラッと取り巻きの一人に目配する。
すると俺を取り囲んでいた女子生徒から間髪入れずに蹴りがとんでくる。
「ぐッッ!?」
横腹に激痛が走る。
勢いで乗り込んだとはいえ、話も聞かずにすぐに実力行使に移ってくるとは思っていなかった。
なんとか倒れ伏さないように耐えるが膝を付いてしまう。
「その楳本さんが何しにここに来られたのですか?」
問いかけと同時に再び蹴りが俺の腹部に直撃する。
痛みに抗いながら跪く姿勢で不舞を睨む俺に対して、不舞は興味がなさように問いかける。
その目は弱者を蔑むような色彩が含まれている。
「ッ、そいつは、俺の派閥の人間だ。あまり乱暴なことはやめてもらおうか。」
息がうまくできない。なんとか腹に力を入れ絞り出すようにして言葉を放つ。
「派閥?この学園では男子生徒の派閥など存在しないはずですが?」
「し、調べは付いてるんだろう?なら、知っているはずだ俺が生徒会の前条原派閥と俺は関わりがあることもッ」
「ええ。派閥のトップに手を出そうとした愚か者に「警告」またはなんらかの「沙汰」が生徒会から下されたと思っていましたが。何か別のお話でもあったんですか?」
喰いついた。
続けて蹴りを繰り出そうとする取り巻きの女子生徒を手で制して、不舞は興味深そうに俺を見つめなおす。
「話だけでも聞いてくれないか。前条原派閥と関わりある人間に手を出すのはそっちの陣営としても本位じゃないはずだ。」
ハッタリだ。前条原生徒会長と密約を交わしたとはいえ、俺は前条原派閥の下部組織でもなんでもない。俺が手を下されても前条原生徒会長は動くことさえしないだろう。だが、生徒会室での詳細を知らない不舞はそうはいかない。
仮に前条原派閥の人間に安易に手を出し、琴原派閥と前条原派閥の対立になればその責任は幹部補佐の不舞にまわってくる。そのリスクをこの女は許容できないはずだ。
「....いいでしょう。聞きましょうか。」
「その前に待ってくれ。この話は他言無用で頼みたい。この話をしたことが前条原生徒会長にバレれば俺の学園生活は終わりだ。退学どころじゃ済まないかもしれんない。琴原派閥の幹部補佐であるあんたにしか話すことはできない、無理を承知で頼みたいんだが、人払いを..お願いしたいんだ。」
チラッと不舞の取り巻き達に目を向ける。
この話はそれだけ機密性が高く、一人の人間の人生が懸かっている。それを強調しつつ懇願するように俺は頼み込む。
「...そのお願いを私が易々と聞いてあげる必要がありますか?」
「頼む!いや、お願いします!必ず琴原派閥の役に立つ話の筈だ。俺の身柄はもうあんたにあるようなものだ、俺のことは好きにしてもらって構わない。信用できないなら、俺の手足を拘束してくれても構わない!だが、この話は幹部補佐である不舞さんにしかどうしても話せないんだ!」
隷属に近い姿勢を見せながら縋るように頼み込む。琴原派閥の利と幹部補佐という役職の重要性を前面に押し出す。
最悪、この男は情報を抜き取ったあと捨て駒にしても問題はない。必死に自身の保身に走る哀れな男の最後の頼みと思ってくれればそれでいい。
ここさえ突破すればなんとかこの状況から勝機はある。少し強引な手にはなってしまうがなりふり構っていられない。
あとはこの女次第だ。顎に手を当て考える不舞に一筋の望みを賭ける。
さぁどうだ。乗れ、乗ってこい。
不舞は
「...あなた達は聖園さんを連れて外に出てなさい。あとこの男の手足を縛りなさい。」
かかったッ!!
未だ圧倒的弱者の立場でありながら
女の子のピンチに颯爽と現れた男はヒーローではなかった。
愚かな凡人であり、自己満足の塊である。
道化を演じ、嘘と明確な悪意を持って現状を打破せんとするその目には確かな野心が宿っている。
―――その姿には魔王の影が落ちている。
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拙い文ではございますがこれからもよろしくお願いいたします。
きりきりまい
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