第7話 勇者(メインヒロイン)を堕としたい
夏の足音を感じさせない茜色差す放課後のこの時間に
「
不舞の声に聖園はなんの反応も示さないただ黙って聞いているだけだ。
その様子を見て不舞は満足したように頷いている。
「置かれている状況と立場を理解いただけたようで何よりです。別に何もあなたに私怨があってこのような事をおこなっているわけではありませんよ?多少の
淡々と説明する不舞の口調はどこか喜々としている。
「では、なぜこのような状況になっているかと先程申し上げました。見せしめなのです。派閥の勧誘を断ることはさして問題ではありません。家柄もあれば個人的な事情もそれぞれあります、たとえ派閥を断ったからといって少し目を付けられる程度です。」
それでも少し目を付けられはするのかよ。
「ですが、あなたあろう事か4大派閥の琴原派閥の顔役である私の顔に泥を塗った。」
「塗ったのはバナナの皮だ。」
ピクッと不舞の眉間が上がったのが扉越しでもわかった。
んんっと咳払いしながら続ける。
「これは明確に派閥に対する敵対行為に他なりません。私共としても琴原派閥がこのような仕打ちを受けても黙っている軟弱派閥であると他の派閥に知られれば、人員の引き抜きや組織力の低さを認めてしまうことに繋がります。ですので聖園さん、私たちも自らを守るために必死なのですお許しください。」
その言葉とは裏腹に不舞は
「男性が相手なら見せしめの方法は肉体的恐怖が一番の見せしめになります。男性は単純でいいですね。最近、うちのトップである琴原さんに恋慕の告白をしてきた輩がいたらしいんですよ。」
ドクンと心臓が早音を上げる。
「琴原さんが大丈夫だよなんて言われますし、その男子生徒はなにやら生徒会に長時間滞在してたらしいので何もできなかったですけど。」
フフフと笑う不舞さんに軽い安堵と恐怖を覚える。
「話がずれましたね。男性は単純な『暴力』がよく効くんですよ。女性にもよく効くんですけで女性にはもっと効果的なものがあって♪」
そういって取り巻きの女子生徒に目配せで合図すると。
聖園の服が力づくで破かれる。
強気な聖園もこの人数相手に抵抗すること自体が無意味だと理解しているようでなすがまま、制服は破け下着姿同然の恰好になる。
「女性にはこのような品位を貶める行為の方が効果的なんです。」
不舞は写真や動画を周りの女子生徒に撮らせながら言う。
「こんなことをして警察が黙っていると?」
下着姿になんの恥じらいもなく堂々と聖園は噛みつく。
「女の子はこの手の被害を打ち明けにくいですから♪でも、聖園さんはすぐにでも通報しそうな顔してますね。安心してください私の父は警察のお偉いさんなのでこの程度のことは問題になりません。」
それとコツは身近なSNSではなく、匿名性が高く狭いコミュニティツールで拡散することで充分見せしめとして効力を発揮しますと付け加えて。
「風俗や出会い系関連の掲示板に情報を流してみましょうか?すごく人気が出ると思いますよ!」
聖園の反応が面白くないのか下卑た策を口に出すがそれでも聖園の反応は変わらない。
「好きにして」
「どっちにしろ、退学に近い沙汰になるでしょう早めに自主退学をお勧めします。安易に4大派閥に喧嘩を売るべきじゃなかったですね。残念です。」
「用件はわかった。私の処遇は好きにすればいい。でも...。」
「―――私はお前をぶっ飛ばす」
踏み込みと言の葉は同時だった。言の葉が不舞に届くと同時に聖園の拳が不舞の眉間を捉える。
その速さに取り巻きはワンテンポ遅れて反応するが、その時には不舞は聖園に殴り飛ばされた後だった。
「こいつッ!後悔せてやる!!!退学なんて生温いものじゃない!今後の社会でまともに生きていくことができるなんて思うなよ!!!」
そんな言葉を体育倉庫の外で聞いてた俺は、事の顛末を察してその場から離れようとした。
物語の主人公ならばなんて言うだろうか「人を助ける理由なんていらない」なんて言いながら助けるんだろうな。
助ける理由は必要だ。
誰も彼もヒーローになれるわけじゃない。
無駄に介入することで事態が悪化する場合もある。
行ったところで何ができる。
漫画に憧れて安易な行為をするのは社会に出たことのない人間だけだ。
そんな自分も嫌いじじゃないし間違いじゃない。
派閥をこれから作っていくんだ。
派閥を敵に回した愚かな少女の顛末を教訓にするんだ。
自分は同じ轍は踏むまいと誓いながら。
体育倉庫を背に歩き始めた時、不意に立ち止まった。
―――声がした。
ハァハァと息を切らしながら睨みつける不舞に反して、聖園はすべてあきらめて語り掛けるような優しい口調で話し始めた。
さっきまでの乱暴な少女はそこにはおらず、ひどく年相応に見えた。
思い出すみたいに、ゆっくりと。
「好きだったんだ。親にも、学校にも、弱い私でさえも縛ることができない自分が。」
やめろ。
「この学校を卒業して、叶えたい夢があった。」
なんでだ。
「でも夢のために、飲み込まなければいけないことを素直に飲み込めなかった。」
なんで俺はさっきから...
「どうしても叶えたい夢なのに、私は私であることを否定できなかった。」
なんでなんだ...なんで...
「私らしくないことをして、叶えた夢は本当に私の夢なの?」
なんで俺は―――
「だから私は私のままで手を伸ばした。」
――――――――助けない理由ばっか探してんだ!!!!
気づけば駆け出していた。
こいつのためなんかじゃない。
自己中心的な俺が俺に対して許せないこと。
どうしても悔しくて、ムカついて自分を許せなかった。
誰かを助けるのに理由は必要だ。
それを求めることは許せるしむしろ当然だと思う。
『可哀想だから、暴力はいけないと思ったから、社会的に問題になると思ったから。』
そんな簡単なことを考えるよりも先に思いついたのはあいつを助けない理由。
つらつらとべらべらと。
助けないための理由を考えて、助ける理由を考えるのを放棄した。わが身可愛さに。
生徒会長にでかい事言われておかしくなったか?
こんなに俺は弱気で腑抜けているのか。
そんな腑抜けた男が四天王を落とす?派閥を作って全員取り込む?ふざけるな。
俺は俺のままですべて手に入れてやる。
四天王を倒すことができるやつはきっと、辺鄙な村の生意気なクソガキのピンチだって迷わず助けてしまうはずだ。
生徒会長は言った「――
扉を自らの力で叩かなければ、道が開かれることはない。
だが、それでも開かない扉の方が多いはずだ。
扉の前で立ちすくむ、白銀の少女は重く固い扉をたった一人でありのままでこじ開けようとしていた。
そんな扉。
ひとりぼっちで...
叩くぐらいじゃ開かねぇなら―――――
「俺が蹴っ飛ばして、開けてやる!!!!」
鍵のかかった体育倉庫の扉を力任せに蹴り飛ばして突き破った。
取り巻きたちが俺を睨み騒ぎたてる。なんだこいつは!なんて言ってるがそんなのは無視だ。
俺は何が起こったかわからずぱちくりしている少女を見た。
「おい、その女は―――」
辺鄙な村の生意気なクソガキは独りぼっちだった。
真っすぐすぎて、そいつはついに折れることはなかった。
でも、そんなガキが勇者に選ばれて四天王どころか魔王だって倒しちまうかもしれない。
四天王を倒すために必要な人間。
なら、そいつは――――
「そいつは、俺のもんだ」
俺は勇者じゃなかった。
自己中心的で、欲しいものがたくさんあって。
自分で自分が情けなくなるほどの愚か者で。
そんな自分じゃ決して欲しいものには手が届かないと思った。
だから俺は...
―――勇者に手を伸ばした。
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お読みいただきありがとうございます!
序章もう少しで終わります!
今後の展開も序章の倍以上考えているのですがどのようにすれば面白くお伝えできるか考えだすとまったく進まなくて申し訳ない気持ちでいっぱいです。
応援、コメント、いいねめちゃくちゃ励みになります!
もしお時間ありましたらお願いいたします。300pv達成感謝!!!
きりきりまい♡
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