第68話

《side 桜木鷹之丞》


 蘭姫様との結婚、俺は夢を叶えたんだ。


 推しと結婚するなんて、本当はありえないと思っていた。

 ただ、幸せになってほしいと願って彼女を育てた。


 その結果、彼女自身から結婚を申し込まれ、それに足る男になれと背中を押された。


 そして美波藩の藩主として任命されるところまで俺はやってきた。


 新たな使命に胸を躍らせて、気持ちが浮き足立っているのがわかる。


 江戸を守り抜いたことで得たこの褒美は、俺にとって大きな喜びであり、また新たな責任でもある。


 だが、その喜びの裏側には、さらに大きな試練が待ち受けていた。


 水戸様から呼び出しがかかった。


 水戸様が俺を呼び出すというのは、何か重大な任務があるに違いない。そう感じつつも、俺は身を引き締めて彼の屋敷へと向かった。


 茶室に通され、そこで水戸様と向き合った。


「桜木よ、よく来てくれた」


 水戸様は厳かな表情を崩さず、俺に向けて静かに話しかけてきた。その声には、ただならぬ緊張感が含まれていた。


「はっ! 水戸様、何用でございましょうか?」


 俺は丁寧に頭を下げ、彼の意図を伺った。


「桜木、貴殿は今回、美波藩の藩主となるにあたり、幕府からの信頼も厚くなった。しかし、ここで話すことは外に漏らしてはならぬ。良いな?」


 水戸様の言葉に、俺はただ頷くしかなかった。


「はい、かしこまりました」


 水戸様は頷き、続けて話を始めた。


「実は、最近、幕府に対して不穏な動きを見せる者たちがいるとの情報が入っておる。反乱分子と呼ばれる者たちだ。彼らは表向きは従順だが、裏では幕府を転覆させようと画策しておる」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の胸に冷たい緊張が走った。幕府に反抗する者たち…それは、江戸の平和を揺るがす重大な脅威だ。


 そして、漫遊記において最終段階に訪れる。


 幕府転覆。


「その反乱分子たちは、具体的にはどのような動きを?」


 俺は慎重に問いかけた。


「表向きは商人や侍として活動しておるが、裏では密かに兵を集め、幕府に対して反抗の準備を進めておるらしい。彼らを炙り出し、幕府に逆らおうとする者たちを一掃せねばならん」


 水戸様の言葉は重く、俺はその責任の重大さを感じた。


「私に、その任を?」

「そうだ。貴殿は江戸の平和を守った功績もあり、幕府からの信頼も厚い。だからこそ、この任務を託したい。反乱分子を見極め、幕府に報告し、彼らを一掃することだ」


 俺はその場で深く頭を下げた。水戸様からの信頼が重くのしかかる。

 

 本来であれば、美波藩がお取り潰しになった後に展開する話を俺が調査する。


「お任せください。反乱分子を必ず炙り出し、幕府を守り抜きます」


 水戸様は俺の言葉に満足げに頷いた。


「貴殿ならば、必ずや成し遂げられるだろう。だが、注意せよ。彼らは狡猾で、誰が敵か味方か、見極めるのは容易ではない」


 水戸様の言葉には、深い洞察力と警戒心が込められていた。


「はい、全力で任務を遂行いたします」


 水戸様は再び頷き、話を締めくくった。


「これから美波藩の藩主としての務めも待っておるが、この任務を完遂することが、貴殿が真に幕府に認められる証となるだろう。期待しておるぞ、桜木」


 俺は再び頭を下げ、その言葉を胸に刻み込んだ。


 美波藩の領主として、蘭姫様との未来を築きながら、同時に幕府を守るために反乱分子を炙り出すという二重の責任が俺に課された。


 この重い任務を果たすために、俺は心を一層引き締め、行動を開始することを決意した。


「貴殿には信頼を置いておる。決して期待を裏切らぬよう頼むぞ」


 水戸様の厳かな言葉に、俺は深く頷き、再び頭を下げた。江戸と美波藩、そして幕府を守るため、俺は新たな試練に挑む準備を整えていた。



《side 水戸様》


 桜木鷹之丞が茶室を去った後、一息つきながら静かに茶を飲んだ。だが、心の中にはまだ重い責任がのしかかっている。この国を守るためには、彼のような若者の力がどうしても必要だ。


 その時、静かに障子が開かれ、忍びの風車弥一が姿を現した。彼は私の前に跪き、静かに頭を下げた。


「御老公、お呼びですか?」


 弥一の言葉には、いつもと変わらぬ冷静さがあった。私は彼に向かって静かに頷いた。


「うむ、弥一。桜木鷹之丞に反乱分子の件を任せた。しかし、彼が一人で背負うには重すぎるかもしれぬ。お前に、その動きを陰から支えてもらいたい」


 弥一は私の言葉を受け止め、しばらく考え込むような表情を見せたが、すぐに意を決したように頷いた。


「桜木殿は、確かに力のある若者です。しかし、まだ経験が浅い部分もあり、この任務は非常に危険です。彼を補佐するために、陰から動くことを約束いたします」


 弥一の冷静な分析に、どこか弾んだ声をしているのは気のせいであろうか? 桜木鷹之丞は若く、強い心を持っているが、反乱分子を相手にする任務は、彼にとって試練となることは間違いない。


「お前が桜木を補佐することで、彼は確実にこの任務を遂行できるだろう。しかし、弥一よ、この任務は単に反乱分子を炙り出すだけではない」


 私は茶を飲み干し、慎重に言葉を選んで続けた。


「炙り出すだけではない?」

「そうじゃ、反乱分子の中には、幕府内部にも影響を及ぼす者たちがいる。彼らは表向きは忠義を尽くしているように見せかけ、裏では不穏な動きをしている。この動きを見極め、必要ならば断じてもらいたい」


 弥一の目が鋭く光った。彼はすぐに理解したようだ。


「承知いたしました。幕府の安寧を脅かす者たちがいれば、私の手で排除いたします」


 私はその言葉に、深く信頼を寄せた。弥一は言葉通り、冷酷なまでに任務を遂行する男だ。彼に任せれば、桜木鷹之丞も任務を成功させることができるだろう。


「頼んだぞ、弥一。桜木には知らせるな。ただし、必要な時には彼を助けてやってくれ」

「心得ております。桜木殿には一切の疑念を抱かせることなく、彼を補佐いたします」


 その言葉に、私は安堵の息を吐いた。桜木鷹之丞の成長を見守りつつ、この国の未来を守るための準備が整ったことを確信した。


「この国を守るため、今後とも尽力を頼む」

「はっ、命に代えても」


 弥一は静かに立ち上がり、再び姿を消した。私の心の中には、桜木鷹之丞の将来への期待と、彼に課せられた重責に対する不安が入り混じっていた。


 だが、彼がこの任務を乗り越え、さらに強く成長することを願ってやまない。


「この国の未来は、若者たちの手にかかっている…頼んだぞ、桜木」


 そう静かに呟き、私は再び茶碗を手に取り、今後の行く末を見つめた。

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