第63話

 全面戦争が激しくなり、緊張感が一層高まる中、俺たちは九鬼影衛門の手下たちとの最終決戦に臨んでいた。


 江戸の各所で激しい戦闘が繰り広げられ、俺たちの戦力が次々と彼らを追い詰めていく。


 しかし、九鬼の手下たちも一筋縄ではいかない。


 彼らは九鬼が用意した者たちだ。 

 妖怪たちと手を組んで、最後の抵抗を試みていた。


 あらゆる手段で俺たちに立ち向かってくる。


 そこには俺が最強だと思える人物に布陣を整えてもらった。


 江戸の中心に位置する一角。ここは九鬼影衛門の勢力が集結しているとされる場所であり、彼らを一網打尽にするための決戦の舞台だ。


「鷹之丞様、敵が攻めてきます! 奴らの数は予想以上に多い!」


 新之助の報告に俺は鋭い眼差しで前方を見据えた。


 九鬼の手下たちは、怒涛の如く押し寄せ、まるで波のように俺たちを飲み込もうとしていた。彼らの数と勢いに圧倒され、俺たちは次第に押し返され始めていた。


「やはり、九鬼影衛門の手下どもは手強い…だが、ここで引くわけにはいかん!」


 外部から侵入する妖怪や、強力な妖怪は陰陽師たちが抑えてくれるが、どうしても人に取り憑いて入り込む物たちを全てを止められない。

 

 俺は剣を振り上げ、必死に彼らを押し返すが、敵の数に圧倒され、次第に俺たちは追い詰められていった。


 まさに危機的な状況だ。俺たちの戦線が崩れ始め、敵の手下どもが次々と押し寄せてきた。


「このままでは全滅する…!」


 新之助が必死に抵抗し、ゲンタも奮闘しているが、敵の勢いは止まらない。


 俺たちの状況は絶望的だった。九鬼の手下たちは勝利を確信したかのように、不敵な笑みを浮かべながら俺たちに迫ってくる。


 その時、夜の闇を切り裂くように声が響いた。


「加勢しよう」

「なっ!」


 その声に聞き覚えがあり、突如として、江戸の街に響き渡る力強い声。俺はその声に反応し、目を見開いた。


 徳田様が自ら馬に乗って、将軍様が御自ら戦場に降り立ったのだ。


 彼の威光は絶大で、それに付き従う武士が押し寄せてきた。

 

 敵の手下たちもその場で動きを止めて、将軍様の姿に息をのむ。


 まさに光そのものであり、彼が放つ凛然とした気配に敵は恐怖を覚えた。


「成敗!」


 響くその声に、俺たちの士気は一気に高まった。


 将軍様が振るった刀は閃光の如く輝き、九鬼の手下たちを次々に斬り伏せていく。

 その動きはまさに神速であり、敵は何もできないままに倒されていった。


 お庭番衆や火消しの者たちもやってきて、九鬼の手下を押し返し始めた。


「将軍様…!」


 俺はその光景に圧倒されながらも、心の中で深く感謝した。彼の存在こそが、我々にとっての最後の希望になる。そして、俺は再び剣を握りしめ、敵に立ち向かった。


 その時、もう一つの力強い声が響いた。


「助さん、角さん、やっておしまいなさい!」


 水戸様の声が戦場に響き渡る。俺はその声に驚きながらも、すぐにその意味を理解した。水戸様が動いたのだ。彼の言葉に従い、強力な助っ人である水戸様の家臣である二人が敵の前に立ちはだかった。


「御老公の命に従い、ここでお前たちを倒す!」


 助さんが剣を構え、格さんもその横に立つ。彼らの動きはまさに強者の風格であり、九鬼の手下たちを次々に打ち倒していく。


「見よ! この紋所が目に入らぬくか!」


 助さんが声を上げ、印籠を見せつけると、妖怪に取り憑かれた者たちが平伏して、妖怪が体から飛び出していく。


「これで九鬼の手下どもは一掃された! 桜木殿、ここは我々に任されよ」

「水戸様、感謝いたします」

「うむ。江戸の平和を頼むぞ。貴殿にはまだまだやってもらいたいことがたくさんあるのじゃからな。弥一をつけましょう」


 俺は頷き、将軍様と水戸様に深く頭を下げた。


 弥一殿が現れて、俺と共に戦ってくれる。


 彼らの力によって、俺たちは窮地を脱したのだ。


 しかし、まだ戦いは終わっていない。九鬼影衛門はまだどこかに潜んでいる。


 奴を見つけ出し、この戦いに決着をつける必要がある。


「将軍様、水戸様、どうかご無事で…」


 俺は心の中で祈りながら、再び剣を握りしめて、九鬼影衛門本人との対決に向かうため戦場を任せた。


 九鬼とぬらりひょんを倒さなければ、江戸の平和は訪れない。


「さあ、次は九鬼だ!」


 俺は気持ちを奮い立たせ、再び戦場に向かう準備を整えた。


 ♢


《side九鬼影衛門》


 我の心には計り知れない焦りが渦巻いていた。


 ぬらりひょんが陰陽師たちによって封じられて江戸の街に入れないと報せが届いた。我はその報告を受けて深く眉を寄せた。


「ぬらりひょんが…動けないだと?」


 計画の大部分を担っていたぬらりひょんが動けない以上、江戸の街を支配する計画は大きく狂い始めた。しかし、それでも我には最後の切り札が残されていた。


「よかろう…夜叉丸を呼び出すしかあるまい」


 我は静かに立ち上がり、隠れ家の奥深くにある封印の間へと向かった。そこには、我が長年温めていた最終兵器、妖怪・夜叉丸が封印されている。


 封印の間に足を踏み入れると、空気は一気に冷たくなり、まるで血の匂いが漂うかのようだった。

 

 暗闇の中にひっそりと佇む青年の姿が、我の視線の先に浮かび上がる。


 その青年は、長い黒髪を肩に垂らし、片目が前髪に隠れている。


 彼の細身の体には、ちゃんちゃんこを羽織り、足元には下駄を履いている。

 その姿は一見すると普通の人間にも見えるが、その眼光には冷酷な妖気が宿っていた。彼の細身の体は、鋭利な刃物のようにしなやかで、まるで闇そのものが形を取ったかのような存在感を放っていた。


「あなたが僕を呼び出したの?」


 彼の声は静かで冷たく、それでいて、どこか不気味なほどに穏やかだった。

 夜叉丸は、まるでこの瞬間を待ちわびていたかのように、微かに笑みを浮かべた。


「そうだ。ぬらりひょんが動けぬ以上、お前の力が必要だ。妖怪たちをまとめ上げ、人間どもに恐怖を植え付けよ」


 夜叉丸は静かに頷き、封印の枷を外し始めた。


 その動作一つ一つが優雅であり、そして致命的な脅威を感じさせる。封印が完全に解かれると、彼の体から黒い霧が立ち上り、闇の力が広がり始める。


「わかりました。ですが、この力を使えば、もう後戻りはできませんよ」


 その声には、淡々とした響きがありながらも、どこか挑戦的な響きが含まれていた。彼が動き出せば、たとえ将軍や陰陽師たちがどれほどの力を持っていようとも、彼を止めることは難しいだろう。我はその力を信じていた。


「我が最後の切り札だ…」


 我は再び盃を手に取り、静かに酒を口にした。


 外では、夜叉丸の放つ妖気が江戸の街を包み込み、妖怪たちが次々と目覚め始めているのが感じられた。


 ぬらりひょんが封じられたことは誤算であったが、それでも我にはまだ希望が残されている。夜叉丸の力が江戸を混乱に陥れ、我の支配を確固たるものにするはずだ。


「江戸の者どもよ、我の力を思い知るがいい…」


 我はこの決戦に勝利する。

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