第57話

《side 九鬼影衛門》


 江戸の夜が深まり、月明かりが薄く照らす中、俺は隠れ家の奥で酒を酌み交わしていた。隣には、江戸の妖怪たちを統べるぬらりひょんが座している。


「九鬼、お前も相変わらず策士だな。この一連の騒動も、全てお前の仕掛けか?」


 ぬらりひょんの声には軽薄さがあるが、その目には鋭い光が宿っていた。


 俺の目の前にいる男は若く聡明な色男だが、その姿は一定ではない。

 本来のぬらりひょんは、ひょろりとした体つきで、つるりとした大きな頭を持つ老人のような姿をしている。

 その頭は瓢箪のように丸く、つるりとした表面が特徴的です。


 その性格は非常に冷静で落ち着いた雰囲気と、動じない態度をとり、他の妖怪たちの頭目的の存在であり、その知恵と冷静さから多くの妖怪たちに尊敬されている。


 つまりは、この男を味方につければ、妖怪たちが協力してくれるということだ。


「戦国の世が終わって、なんともつまらない世になった。俺はもっと血沸き肉踊る。そんな心踊る世界にしたいのよ」

「くくく、人間のくせに狂ったやつよ」


 妖怪であるぬらりひょんは、人々の家に忍び込み、まるでその家の主のように振る舞うという逸話がある。

 

 どこから現れたのか気づくことができないまま家に入り込み、茶を飲んだり、くつろいだりすることができるため、「ぬらりひょんが通った家は不運が続く」とも言われている。


 その力は町奉行所が攻め入った際にも使われた。


 あれだけの大勢な人々に囲まれても、何事もなく逃げおおせたのだ。


 妖怪の世界では頭目になること男は、妖怪たちをまとめ上げる象徴的な存在とされ、その象徴言える存在感と知恵をもつ、他の妖怪たちにとっても特別な存在となっている。


「ぬらりひょん、俺たちが手を組めば、この江戸を陰から支配することができる。人間どもは表で暮らし、我ら妖怪はその影で共存する。これこそが真の理想の世だ」


 俺は酒を飲み干し、薄く笑みを浮かべた。

 妖怪たちの活発な動き、全ては俺の計画の一部だ。


 だが、ぬらりひょんが協力してくれなければ、行えなかった。


「しかし、九鬼よ、お前の真の目的は何だ? 単に江戸を支配するだけではあるまい」


 やはりこの男は賢い。ぬらりひょんの問いに、俺は目を細めた。


「確かに、江戸を支配することは一つの通過点に過ぎない。俺の本当の野望は、人間と妖怪が共存する世を築くことだ。人間は妖怪の力を借りて栄え、妖怪もまた人間の知恵を借りて生きる。そのためには、お前の力が必要なんだ、ぬらりひょん」


 俺はかつて人に裏切られ、妖怪に助けられたことがある。

 だからこそ、人間などどうでもいい。

 妖怪たちと楽しく暮らすのだ。


 ぬらりひょんは、俺の言葉に少し驚いたような表情を見せたが、すぐに笑みを浮かべた。


「ほう、そこまでの野望を抱いているとはな。面白い。俺もその夢に乗ってやろうではないか。人間と妖怪が共存する世、それは確かに魅力的だ」

「そうだ。まずは江戸を完全に掌握し、その後に徐々に影響力を広げていく。お前の妖怪たちが恐怖を振りまき、俺の手下が力で押さえつける。この二つの力が揃えば、誰も我々に逆らえない」


 そうだ。俺が人間たちの裏社会を牛耳り、ぬらりひょんが妖怪を統率すれば、江戸の街など大したことはない。


「いいだろう。九鬼、俺もお前に協力しよう。だが、その夢を実現するためには、まずはあの若者を排除しなければならないな」

「桜木鷹之丞か…確かに手強い。しかし、奴も所詮は人間だ。我々の力には到底及ばない。まずは奴を罠にかけ、動けなくする。それから一気に江戸を掌握する」


 俺は巻物を広げ、江戸中の妖怪たちの力を引き出す術を示した。


「これを使えば、我々の力はさらに増すだろう。江戸の人間どもを恐怖に陥れ、従わせるための力だ」


 ぬらりひょんは満足げに頷いた。


「面白い。では、これを使ってまずはあの若者の出方を見るとしよう。さて、その後に江戸全体を支配する計画を進めよう」

「そうだ。まずは奴の動きを封じる。そして、次は江戸の支配を行う」


 俺たちはさらに具体的な計画を練り、江戸の支配に向けた準備を進めた。


「九鬼、俺たちが手を組めば、誰も我々を止めることはできない」

「そうだ、ぬらりひょん。我々の力を見せつけてやろう」


 その時、外から忍びの報告が入った。


「九鬼様、桜木鷹之丞がこちらに向かっているとのことです」

「ふん、いい機会だ。彼奴に我々の力を見せつけてやるとしよう」


 ぬらりひょんと共に、俺は立ち上がり、隠れ家の奥へと向かった。桜木鷹之丞との対決の時が近づいていた。


「奴が来る前に、準備を整えるぞ」

「了解だ、九鬼」


 ぬらりひょんと俺は、それぞれの役割を確認し、最後の仕上げに取り掛かった。


「来い、桜木鷹之丞。お前の運命はすでに決まっている」


 俺は薄笑いを浮かべ、闇に身を沈めた。


 すでに計画は動き始めている。


 さて、町奉行所の若者よ。貴様はこの大きな波を止められるのか? 江戸幕府など、この九鬼影衛門が破壊してくれるわ。


 


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