第58話

《side美波蘭》


 江戸に旅立った鷹之丞様のことが、日々気にかかる。


「ハァ…」


 美波藩に残る妾には、彼の無事を祈ることしかできない。

 桜木鷹之丞という名を胸に秘め、その勇姿を思い描く。


 彼の強さと優しさを知るからこそ、彼の旅が危険に満ちていることも理解している。


「姫様」

「なんじゃ?」

「桜木鷹之丞様の無事を占って見ませんか?」

「占い?」

「そうです。私は陰陽術師、祈祷や占いなども行えます」

「むっ、そうか。ならば頼む」


 お鶴は静かに頷き、占いの道具を手に取った。

 彼女の眼差しは鋭くも温かく、妾の不安を受け止めてくれるようであった。


「蘭姫様、少しお待ちくださいませ。鷹之丞様の運命を探りましょう」


 お鶴が呪文を唱え、占いの道具が光を放ち始める。

 心臓が高鳴り、胸の奥が苦しくなる。

 鷹之丞様が無事であることを願う気持ちが、ますます強くなる。


「…これは…」


 お鶴の顔に不穏な表情が浮かんだ。


「鷹之丞様に何かが迫っている…。不穏な気配が…」


 その言葉に、私は震えが止まらなかった。


「どういうことじゃ!?」

「鷹之丞様の周りに、暗い影が広がっているようです。妖怪の気配が増しており、その影響が江戸だけでなく、美波藩にも広がりつつあります」

「なっ! 妖怪の気配が…美波藩にもじゃと!」


 お鶴の言葉に、妾は恐怖を感じる同時に心配になった。


 妖怪の存在が、鷹に暗雲をもたらしておる。

 それが美波藩にまで影響を及ぼしているなんて。


「鷹之丞様は強いお方です。きっとその影響を乗り越えることでしょう。しかし、油断は禁物です。彼の無事を祈り、我々も備える必要があります」


 お鶴の言葉に、妾は決意を新たにした。


「お鶴、ありがとう。妾も鷹の無事を祈り、そして美波藩を守るために力を尽くすぞ」

「蘭姫様、どうかご自身も大切に。鷹之丞様はあなたの存在を心の支えにしていることでしょう」


 その言葉に、妾は少しだけ安堵を感じた。

 鷹が妾の存在を思い出してくれているならば、彼も強くいられるだろう。


 美波藩だけでなく、全国に妖怪の気配が増え始めているという報告が相次いでいた。


「蘭姫様、前回の占いの通り、各地で妖怪の出現が増えております。このままでは、我々の美波藩も危険に晒される恐れがあります」


 お鶴と井上玄斎たちが緊張した面持ちで報告をする。


 妾はその話を聞きながら、鷹のことを思い出していた。

 鷹が江戸で何をしているのか、どのような危険に立ち向かっているのか…。


 ならば、美波藩を守るのは妾の役目じゃ。


「妖怪の出現が増えている原因は何か分かっているのか?」

「未だに詳細は分かりませんが、何か大きな力が働いているようです。これまでにない規模の妖怪の活動が見られます」

「そうか…。我々も対策を講じる必要があるな。妖怪退治の専門家を雇うことは可能か? それまでは備えを固めることとしよう」


 妾の決断に、家臣たちが動き始める。何かできることはないかと考えた。


 鷹が江戸で戦っているように、妾もここで戦わなければならない。

 家を守ることこそが、妾の喜びであり、そして美波藩のためになる。


「蘭姫様、どうかお気を確かに。我々は皆でこの危機を乗り越えましょう」

「わかっておる!」


 家臣たちの言葉に、妾は力強く頷いた。

 鷹の無事を祈りつつ、私もこの藩を守るために全力を尽くすことを誓った。


「鷹之丞様、どうか無事でいてください…」


 心の中でそう祈りながら、妾は美波藩の未来を守るために立ち上がった。

 鷹の強さと勇気を信じて、妾もまた強く生きていく覚悟を固めた。


 ♢


 お鶴の占いの結果が出たその夜、妾は親友のお玉とミタの二人を呼び寄せ、話をすることにした。


 二人は妾と同じく、美波藩の屋敷に住んでおり、鷹のことを心から案じている。


「お玉、ミタ、鷹之丞様が江戸で危険な状況にいることが分かったわ。お鶴様の占いによると、不穏な気配が彼を取り囲んでいるの」


 お玉は心配そうな表情で私を見つめ、ミタもその眉間に皺を寄せていた。


「蘭姫様、それは一大事です。鷹之丞様が危険に晒されているなんて…」

「そうよ、お玉。だからこそ、私たちもできる限りのことをしなければならない。お鶴様の言う通り、妖怪たちの動きが活発になっているのも気になるわ」


 ミタが口を開いた。


「蘭姫様、私たちにできることは何でしょうか? 鷹之丞様のために、何か力になれることがあれば…」

「まずは美波藩を守るために協力しましょう。鷹之丞様が無事であるよう祈りながら、私たちもここで備えを固めるのです」


 三人で話し合い、美波藩の守りを強化するための計画を立て始めた。


「藩主様にも協力を仰ぎましょう。妖怪退治の専門家を呼び寄せることが決まったわ。私たちもその準備を手伝うの」

「了解しました、蘭姫様。すぐに動きます」


 お玉とミタが頼もしく応じる。その姿に、妾は少しだけ安心感を覚えた。


「鷹は強い男じゃ。きっと無事に戻ってきてくれるじゃろう。妾たちもここで頑張るのじゃ」


 翌日、妾たちは、妖怪退治の専門家を迎える準備を始めた。

 藩内では緊張感が漂い、家臣たちも警戒を強めている。


「蘭姫様、妖怪退治の専門家が到着しました」


 家臣の一人が報告に来る。私はすぐにその場へ向かった。現れた専門家は、年老いた陰陽師で、その顔には深い知恵と経験が刻まれていた。


「初めまして、蘭姫様。私は陰陽師の斎藤と申します。妖怪退治の件、承りました」

「斎藤様、ありがとうございます。どうかよろしくお願いいたします」

「まずは妖怪の出現が増えている地域を特定し、その原因を探ることから始めましょう。妖怪たちの動きには必ず何かしらの法則があるはずです」


 斎藤は地図を広げ、美波藩内での妖怪の出現地点を示した。


「ここ最近の妖怪の出現は、不可解です。何が起きるのかわかりかねます」

「つまりその度に対策を立てることが急務ということね」


 妾を含めた重鎮たちが、地図を見ながら、斎藤の説明に耳を傾けていた。


「結界はすでに蛙殿が強化を終えてくれております。ワシは妖怪の出現を予測して、以蔵殿や平八殿に討伐を促す役目を負いましょう」

「頼むのじゃ!」

「はっ! 美波藩の未来を守るために、全力を尽くします」


 斎藤の指導の下、妾たちは妖怪の動きを監視し、対策を講じるための準備を進めた。


 鷹が江戸で戦っているように、妾たちもここで戦わなければならない。


「鷹、どうか無事でいてください…」


 心の中でそう祈りながら、妾は美波藩の未来を守るために立ち上がった。


 鷹が守ってくれていたこの場所を妾も守るのじゃ。


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