第52話
《side 桜木鷹之丞》
アゲハからの情報は、賭博場が開催される場所と日時だった。
どうやら、アゲハが参加をしたいと言ったのだろうか? 天野はそれに対して、丁寧に説明してくれた? とりあえずアゲハが手に入れてくれた報告を受け、俺は新之助とゲンタに集めてもらった情報と合わせて大捕物の最終段階へ入る。
天野権三郎と九鬼影衛門の二人を追い詰めることはできないかもしれないが、此度の一件で不正に執り行われている賭博場の人間を捕まえることになる。
ついに大捕物の準備が整った。
「天野権三郎が完全に賭博場の不正に関与しているかは未だに不明ではあるが、九鬼影衛門が賭博場の背後で糸を引いている証拠は掴んだ」
「それは大変な情報ですね、鷹之丞様」
新之助が冷静に言葉を紡ぐ。
「九鬼に関しては前々から、銀次殿が情報を集めていてくれたようなのだ。証拠も銀次殿にいただいた」
「遠山様が!」
「そうだ。これで彼らを捕らえるための準備が整った。だが、慎重に進めなければならない」
俺たちはまず、賭博場の周辺を徹底的に調査し、九鬼影衛門の拠点を特定することから始めた。
大捕物になるため、大勢の人員を集める必要もある。
ゲンタには、九鬼の手下として潜入して、大捕物が行われる際には、居場所を教えてもらう手筈になっている。
「おいらに任せてください。必ず九鬼の動きを掴んでみせます」
ゲンタは自信に満ちた表情で言い残し、影のように姿を消した。
一方、新之助は天野権三郎の動きを監視するために、吉原の周辺を巡回して情報を集め続けた。
「天野権三郎は吉原からの帰りに賭博場に出入りしているのを目撃されています。警戒心も強く、周囲に手下を配置しているようです」
新之助の報告に、俺は頷いた。
彼らの動きを把握することが、今回の大捕物の成功に繋がる。
「いいだろう。次は、彼らが一堂に会する場所とタイミングを見極める必要がある」
そのためには、彼らの行動パターンを徹底的に分析し、決定的な瞬間を狙う必要があった。
ある晩、ゲンタが九鬼影衛門が賭博場を回る日があることを突き止めて戻ってきた。
「鷹之丞様、九鬼は浅草の外れにある小さな屋敷に何かを隠していました。周囲には警備が配置されていますが、隙間を見つけることはできそうです」
ゲンタの報告に、俺は計画を練り始めた。
もしも、賭博場で捕まっても観念しない場合には、九鬼影衛門の隠れ家を襲撃することで、彼の関与を証拠として掴むことができる。
「次に、天野権三郎をどうやって捕らえるかだな。新之助、お前の方はどうだ?」
「天野権三郎は、吉原以外にも何やら怪しい動きをしていました。どうやら誰かと密会を行っているようです」
俺はその情報に基づいて、二つの同時作戦を立てることにした。
「分かった。まずは九鬼の身柄を取り押さえ、隠れ家を探る。さらに、天野が賭博場に入ったところで、そちらも抑えよ」
新之助とゲンタは驚いた表情を見せたが、すぐに覚悟を決めた。
「承知しました。万全の準備を整え、同時作戦を成功させましょう」
俺たちは詳細な計画を立て、各々の役割を確認した。
九鬼影衛門の襲撃と天野権三郎の急襲、その二つの作戦を同時に成功させるために、全力を尽くす覚悟ができていた。
そして迎えた夜、俺たちはそれぞれの持ち場に配置した。
俺は大捕物の指揮を取るために、ゲンタに探らせ、九鬼影衛門の動きに合わせて命令を下した
「行くぞ、皆の者!」
「鷹之丞様。ご武運を」
俺たちは一斉に賭博場へ雪崩れ込ませた。
「神妙にせよ! 御用改である!」
俺は九鬼がいる場所の指揮をとり、天野の入った場所には銀次殿にお願いした。
他にも、新之助や町奉行所の方々に力を借りて一斉検挙に行った。
九鬼は一瞬の動揺を見せたが、すぐに冷静さを取り戻し、抵抗しようとした。
「おやおや、これは町奉行所の方々ではありませんか? 今宵はどうされました?」
「しらばっくれるなよ! 九鬼影衛門! 貴様の悪事全てお見通しだ!」
「なっ?!」
俺は確固たる意志で彼を追い詰め、ついに九鬼を捕らえることに成功した。
「これで終わりだ」
大捕物の成功に、俺たちは一息ついた。しかし、これはまだ始まりに過ぎない。
これから彼らは裁判にかけられて、沙汰を言い渡される。
しかし、簡単に口を割る相手ではないだろう。
俺は次の一手を考えなければならないため、どうしたものかと考えていると…。
「鷹之丞様!」
「なんだ?」
「九鬼が!」
新之助の声に、九鬼を見れば、それは泥人形のように体を消滅させて姿を消してしまう。
「なっ!」
「これは、陰陽術師が使う身代わりです。こいつは元々本物ではなかったようです!」
「なんだと! くっ、こちらが踊らされていたというわけか? ゲンタが見つけた隠れ家だ! そちらへ迎え!」
俺たちはすぐに賭博場で捕らえた者たちを連行するように命令を出して、浅草の隠れ家へ向かった。
しかし、浅草は火の海に包まれていた。
江戸の名物である大火事が、浅草の街を襲っていた。
「なっ!?」
「火消しだ! 火消しを呼べ!」
こちらが全ての証拠を掴もうとした日、九鬼影衛門は江戸の大火事の中で姿を消した。
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