第50話
《side 桜木鷹之丞》
俺は遊び人の風貌をした遠山様と、一緒に酒を飲み交わす。
今回の潜入を協力してくれたお礼は何がいいかと聞けば、酒を奢って欲しいと言われたからだ。
「なぁ、鷹さん」
「はい? どうしました銀次殿」
「あんたは、どこか生き急いでいるように感じるんだ。どうしてそんなにも手柄を欲する?」
「……銀次殿には、死んでも助けたいと思った人はいますか?」
「えっ?」
俺は少々酒を飲み過ぎたかもしれない。
これまで自分の推しに対して、全力で過ごしてきた。
だけど、彼女の生きる環境を整え、生活を築き、仲間を作った。
それは彼女を守り、育てるためだった。
推しを育てるのがファンだ。
だけど、もしも推しから求められることがあるなら、それは全力で応えたい。
「俺は命を何度失っても、守りたいと思う女性がいます。彼女の求めに答えるためならば、どんなことでもするつもりです」
「はっ、若いねぇ〜。だが、嫌いじゃねぇよ。今回の一件、おいらも前々から目をつけていた案件だ。鷹さんにおいらの方で、集めていた情報も渡すぜ」
銀次殿には本当に世話になるな。
♢
江戸の町奉行所での生活が始まり、日々の業務に追われながらも、賭博場の不正行為に関する情報を集めていった。
ゲンタが集めてくれた九鬼影衛門についての情報の中に、天野権三郎が関与しているという情報が入っていた。
旗本の重鎮である天野家は、かなりの厄介な相手だ。
この大捕物を成功させるためには慎重な計画が必要になる。
「新之助、ゲンタ、両方を同時に捉えることはできない。それに手を組まれると面倒だ」
裏の重鎮である九鬼影衛門。
旗本の重鎮である、天野家。
「鷹之丞様。既にいくつかの目撃情報が入っています。これを基に、さらに深掘りして調査を進めます」
新之助は冷静に答え、ゲンタも同様に気を引き締めていた。
「まずは彼らの活動拠点を特定し、関係者を洗い出すことが重要だ。その上で、どのタイミングでどのように動くかを決める」
九鬼と天野の関係者を一人ずつ探り出していった。
♢
《side ゲンタ》
おいらは小狸の姿を隠し、人間の姿で情報を集める役割を果たしていた。
鷹之丞様に認められるために、全力を尽くす。
「まずは九鬼影衛門の動きを探るんだ。あの男は江戸の裏社会で暗躍しているに違いない」
おいらは酒場や賭博場で耳を立て、九鬼に関する情報を収集する。
江戸の裏社会は複雑で、信頼できる情報を得るのは容易ではないが、一歩一歩進めるしかない。
「おい、最近九鬼影衛門を見かけたか?」
「九鬼? あの男か…確か浅草のあたりで見かけたな」
「浅草か…」
おいらは浅草の周辺を重点的に調査し、九鬼の隠れ家や活動拠点を探り出すために動いた。
♢
《side 新之助》
九鬼についてはゲンタに任せることにして、私は天野権三郎に関する情報を集める役割を担っていた。
天野は旗本の息子でありながら、裏社会での活動も盛んだという。
「天野権三郎はどこで活動しているんだ?」
天野家の嫡男の調査を開始すれば、すぐに奴の行方を掴むことができた。
それほどまでに派手に遊び回っている人物であり、天野権三郎の名前を出せばすぐに突き止められた。
「天野様か…あの方は最近、吉原で見かけたという噂がある」
「吉原か…」
私は吉原の周辺を調査し、天野の動きを追跡する。
彼の行動パターンを把握することが、捕らえるための鍵となるだろう。
♢
《side 桜木鷹之丞》
新之助からもたらされた吉原という言葉に、俺は顔を顰めてしまうが、どうにも天野のことを掴むためには必要なことだ。
「わかった。新之助はゲンタと共に九鬼影衛門の調査をしてくれ。天野は俺の方でやろう」
「了解しました。それでは九鬼の調査に参ります」
新之助とゲンタに九鬼を任せ、俺は遊び人の銀次殿に助力していただいて、吉原のお座敷を紹介してもらう。
「お客さん、初めてどすな〜」
お座敷のお上に、からかわれながら部屋に通された俺を出迎えたのは、吉原の美しい花魁……。
「どうしてここにいるんだ? アゲハ」
「ふふ、鷹様。お久しゅうございます。いややわ、ウチ以外の女子を鷹様につけるなんて」
「ハァ〜、アゲハがいてくれて助かる」
「へっ?」
「実は俺も緊張していたんだ」
久しぶりに会う美波藩の同郷に会えて、気持ちが緩んでしまう。
だが、何よりも美波藩よりも遥に規模の大きな吉原の大遊郭の中で、知り合いに会えたことがどうしようもないほどに嬉しく思えた。
「ふふ、いややわ。鷹様がこんなところに来るってことが目的があるってことやろ?」
「さすがだな。アゲハ、お前に探って欲しいことがある」
「ぶっきらぼうやね。それに花には水をあげんとちゃうか?」
そう言ってそっぽを向いたアゲハに、俺は確かに急いでいたことを思い知らされる。
何よりも、久しぶりに会うアゲハに頼み事だけをするなど、確かに最低なことだ。
「そうだな。ならば、今宵は相手を頼めるか?」
「へぇ、ゆっくりと過ごしていってくださいませ」
「ああ、酒も頼む。たまにはゆっくりしよう」
花魁に貢ぐことは、ステータスであり、彼女たちを輝かせることで、多くの恩恵を授けてくれる。
俺は昔馴染みと飲む酒を楽しんだ。
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