第49話
《side ゲンタ》
オイラの名はゲンタ。
美波藩で桜木鷹之丞様に仕える小狸の妖怪忍だ。
鷹之丞様と新之助様と共に江戸へとやって来たが、雅な街並みにオイラの心は踊るってもんよ。
オイラは昔から、人間の里で暮らしてみたいと思った。
妹のミタのおかげで、桜木様の下で働けるようになって、嬉しくて仕方ねぇ。
桜木様は野心家で、頭が良くて、どんな困難にも立ち向かう度胸もある。
しかし、これだけ大きな江戸の街だ。
裏社会は一筋縄ではいかない。
そんな中で、オイラの役目は影で情報を集める忍びって一等イカす働きを求められる。
オイラが集めた情報や、聞いた話が、桜木様の助けになるってことだ。
「桜木様のためなら、どんな危険にも立ち向かうぞ!」
オイラは小さな体を活かして、江戸の町を駆け巡り、桜木様が潜入した賭博にいた者たちを調査した。
あいつらの陰謀を暴き、桜木様の手助けをするんだ。
江戸の賑わいの中、オイラは人混みに紛れ込み、ゴロツキたちの会話を盗み聞きした。
彼らの言葉から、
「九鬼の屋敷に忍び込んでやる!」
夜の闇に紛れ、俺は九鬼影衛門の屋敷に潜入した。
九鬼影衛門の部屋の天井裏に隠れ、やつと手下たちの会話を聞き逃さないように耳をそば立てた。
「天野権三郎との連携は進んでいるのか?」
「はい、影衛門様。天野権三郎と手を組むことで、賭博場の元締めとして、こちらでゴロツキたちを支配しております」
「よし、ならば良い。くれぐれも町奉行所如きに遅れをとるなよ」
九鬼影衛門の声が響く中、オイラは緊張感を覚えながらも冷静に情報を収集に励んだ。
この情報を鷹之丞様に伝えなければならない。
「誰だ?!」
ヤバい見つかった! オイラは変化の術でネズミに化けて、屋敷を後にする。
「ふん、ネズミか」
危なかったぜ。
急ぎ、オイラは桜木様の下へ戻った。
「桜木様、九鬼影衛門と天野権三郎が手を組もうとしています。奴らの陰謀を暴くための情報を集めてきました!」
桜木様は俺の報告を聞いて、険しい表情を浮かべた。
「よくやった、ゲンタ。この情報は貴重だ。九鬼影衛門と天野権三郎……どのような者たちが調べる必要があるな」
オイラは桜木様の頼もしい言葉に胸を熱くする…
また、オイラの出番だ。どんな困難にも役に立ってみせるぜ。
「桜木様、オイラも全力でお手伝いします」
桜木様は微笑みながらオイラの肩を叩き、その熱意を受け止めてくれた。
「ありがとう、ゲンタ。君の力を頼りにしている」
こうして、オイラの新たな仕事を任される。
♢
《side 江戸の悪党》
賭博場の裏手にある薄暗い部屋で、江戸の裏社会を牛耳るワシは不機嫌に煙管を咥えていた。
表の顔は豪商だが、賭博場や悪徳商売を取り仕切る裏社会をもう少しで手に入れられる。このようなタイミングで邪魔が入るわけにはいかないというのに、遊び人風情が、我が賭博場を荒らしたことに腑が煮え繰り返る思いがした。
「どこぞの遊び人風情に負けるとは何事だ!?」
手下から受けた報告を聞いて蹴り飛ばす。
怒りに体や声が震えてくる。
「はっ、はい! 申し訳ありません。影衛門様。あの遊び人風の男が突然、大金をかけて壺振りの兄貴が勝負を仕掛けたのですが。ハメる前に引き上げてしまって、賭博場を荒らすだけ荒らして、立ち去っていったんです」
「ふん、侮れないねぇ。最近は、新しい町奉行が来たという噂もある。こっちが顔を知らないっていうのが腹立たしい」
ワシは手下に冷たい視線を向けた。
「で、あいつはどこに捕まったんだ?」
「それが、皆のされて、誰もみていないんです」
「この大馬鹿者が!? 逃げられただけでなく、こっちの手までばれちまうだろうが?」
持っていたセンスで何度も手下を打った。
「ハァハァハァ、もういい。使えねぇ連中だな。今は大事な時だっていうのに」
そうだ。今は大事な時だ。
「旗本の息子である天野権三郎(あまの ごんざぶろう)が町奉行と対立しているらしい」
「天野権三郎…あの傲慢な旗本の息子ですか?」
「そうだ。奴自身は大したことはないが、あいつの天野家は今後のためになる。あいつの父親の力を借りれば、町奉行に新たな者が来ていたとしても簡単には動けまい。よし、手筈を整えて、天野権三郎に連絡を取れ」
「はっ、はい!」
手下はすぐに動き、指示を実行に移した。
♢
《side 天野権三郎》
江戸の一角にある飲み屋で、俺様は酒をあおっていた。
俺様は人生の勝ち組だ。
父親の力を借りて好き勝手に振る舞うことができる。
「町奉行がどうしたって? あんな奴ら、俺のやり方に口出しできるわけがねぇだろうが」
ゴロツキが話しかけてきて、俺と町奉行所はどっちが偉いんだと聞いてきた。
これだからバカの相手は面倒だ。
俺様は天野家の嫡男だぞ。
「ですが、権三郎様、最近の町奉行は少し手強いようで…」
ゴロツキが恐る恐る問いかけてくる。
「ふん、九鬼影衛門が弱いだけではないのか?」
九鬼には何かと便宜を図ってもらっている。
その手下であるゴロツキに対して、俺様は笑みを浮かべ、酒を飲み干した。
「よし、九鬼に連絡を取れ。その遊び人と、町奉行所の新人は俺が潰してやろう」
つまらない相手ならば、殺してしまえばいい。
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