第40話
《side桜木鷹之丞》
美波藩の復興が進み、再び平穏を取り戻した。
しかし、このままでは蘭姫様から求められた未来を築くことができない。
俺は出世の道を歩むことを決め、まずは美波藩の発展を目指すことにした。
そのために朝早く、城の会議室で皆を集めた。
新之助、平八、以蔵先生、お鶴、弥一、狐介、座敷童のサエと小狸の妖怪であるミタが顔を揃えた。
「皆の者、今日は集まってくれて感謝する。忙しい中ではあるが重大な発表がある」
盆踊りを終えて、美波藩では巨大な鬼が現れたことで、街全体の復興作業に追われている。
俺は皆の視線を集め、深く息を吸い込んで話し始めた。
「この美波藩の発展を最優先に考え、出世を目指すことを決意した」
俺の発言にざわざわと声が漏れ聞こえる。
その中で、新之助が真剣な表情で頷く。
すでに新之助には全てを話し、今後の方針を聞いている。
「桜木様、全力でお仕えいたします。何があろうとも、共に進んで参ります」
新之助の言葉に、他の者たちも頷いてくれる。
「うむ。それでは今後の方針として、平八、お前には与力として足軽のまとめ役を任せる。美波藩の治安維持を一手に任せることになる。民の安全を守るため、巡回を強化してくれ」
「承知しました。足軽たちと共に尽力いたします」
平八も成長して、仕事を任せられるほどに成長を遂げている。
「以蔵先生、先生には道場を作らせていただきました。引き続き剣術指南役として、足軽たちの指導をお願いしたい」
「うむ、任せておけ」
今回の妖怪討伐に関して、以蔵先生の無極流剣術が有効的であることは証明された。足軽たちに指導して損はないだろう。
「お鶴、お前には陰陽術師として、結界の守護を続けてもらいながら、蘭姫様の守護をお玉と共に頼む。結界の維持や妖怪の対処もお願いする」
「はい、全力で蘭姫様をお守りいたします」
完全に陰陽術師と頼れる存在になったお鶴は、初めて会った時に比べてとても美しい女性として、ゆとりを持てるようになった。
彼女が頼りになる存在になってくれて、蘭姫様の側にいてくれるのはありがたい。
「そして、狐介。先の乱では貴殿の行動が美波藩を救ってくれた。本当に感謝している」
「はは!」
「そこで貴殿には、美波藩お抱え商人として代官御用達商人から出世してもらいたい。今後は美波藩のことを優先してもらうがいいか?」
「もちろんでございます」
「うむ。頼んだ」
狐介が裏切り者ではないかと疑心暗鬼になった者もいるが、此度の一件は狐介がいなければもっと酷い被害が出ていたことだろう。
「サエ殿、君も蘭姫様の側にいて、彼女を守って欲しい」
「主様の命令ならば、仕方ないのぅ〜」
そう言いながらも楽しそうに笑う座敷童のサエは、後で控える小狸のミタを従えて、蘭姫様の元へ向かった。
「弥一さん、あなたには後で話がある時間をもらえるか?」
「承知しました」
此度の一件で、それぞれに褒美を与え、また今後の方針を伝えたことで評議は終わりを迎える。
井上玄斎様に此度の一件を報告して、家老として美波藩に承知もしてもらう。
同心たちにも、褒美を与え、足軽たちには特別手当を出した。
「皆、それぞれの役目を果たしてくれ。美波藩を発展させるために、全力を尽くそう」
「「「「おう!!!!!!」」」
俺は優秀な配下を持てたことを誇りに思う。
♢
その日の夜、俺は弥一を呼び二人で差し迎えに茶を飲む。
すでに高名な老人が美波藩に現れたということは、弥一の役目は終わったことを意味しているはずだ。
だが、弥一は姿を消すことなく美波藩に残ってくれている。
「弥一殿」
「はっ!」
「あの方が盆踊りの際に、俺の前に現れた」
「……」
「これまでは其方の立場を考え正体について追求することはなかった。だが、あの方が現れ、其方はいつこの美波藩を去ってしまうのかわからない」
桜木家の庭は、静けさに包まれ、他の者に聞かれることはない。
「弥一、その前に、俺は高名な老人と連絡を取りたいと考えている」
「……」
「無言を貫くか。高名な老人の出世に興味があるかと いうものだった。どのようなことをさせられるのかわからないが、繋がりを強化することで、俺は出世の道を歩むつもりだ。そのため、美波藩を離れなければならないならその準備をしておきたいのだ」
弥一は真剣な表情で俺を見つめた。
「桜木様、何を言われているのか分かりませぬが、前向きに拙者も考えまする」
「俺は蘭姫様のためにもっと高い地位に就かなければならない。君の助けが必要だ」
俺は両手をついて、弥一に頭を下げた。
「……かしこまりました」
「ありがとう、弥一。君の支えがあれば、どんな困難も乗り越えられるだろう」
弥一の顔には表情はない。
「一つ質問してもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ」
「桜木様が考える出世の道とは、具体的にはどのようなものですか?」
俺はしばらく考え、答えをまとめた。
「まずは美波藩の発展を目指す。農業の生産性向上や商業の発展、新しい技術の導入など、美波藩で成果を出し、幕府を潤わせる。それを明確に俺の成果だと高名なお方に認めてもらうのだ」
「なるほど!」
「それだけでは足らぬ。他の藩にも広めることで我々だけの利益ではなく信頼を得る。また、その準備として、小狸たちを忍びとして育て、美波藩の防衛と情報収集を強化する」
弥一は真剣に聞き入っていた。
「理解しました。その道を共に歩むこと、拙者も出来る限りのお手伝いをいたしましょう」
「これからもよろしく頼む、弥一殿」
「はっ!」
弥一は話が終わると音もなく消えていく。
すでに高名な老人の忍びであることを隠す意味もないということだろう。
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