第37話
《side 蘭姫様》
鷹が、城を飛び出してから、護衛の者たちに加えてミタが寄り添ってくれておった。
「ミタよ。鷹は大丈夫じゃろうか?」
「主人様は、めちゃくちゃお強いのです!」
「そうじゃな! 鷹は昔から鍛錬をしておる。妾が信じてやらねばらなぬな」
「そうですよ!」
それに鷹は妾のためにミタを側に置いてくれたのだ。
大丈夫じゃ。ミタのもふもふが妾の気持ちを癒してくれる。
突然、城に衝撃が走り、大きな音がして窓が破壊された。
海からの風が吹き込んできて、外に巨大な鬼がいた。
鬼の姿は恐ろしく、その赤い目がこちらをギョロリと見る。
「なんじゃ、この鬼は…」
護衛の者たちが妾を守るために必死に鬼に立ち向かおうとするが、鬼の力は圧倒的で、次々と倒されていく。
「蘭姫様、ここは私が食い止めます。お逃げください!」
「ミタ! しかし、妾が城から逃げるわけにはいかぬ」
「ふむふむ、良き女子になられましたなぁ〜」
「サエ!」
「ここは私が引き受けます故。時間稼ぎはしてみせましょう」
座敷童のサエが、天から舞い降りて巨大な鬼を蹴飛ばしおった。
「蘭姫様、お下がりください。我々が守ります!」
ミタが妾の手を引いて城の奥へと向かわせる。
「サエ、頼んだぞ。必ず鷹が来てくれるはずじゃ!」
「主様は愛されておりますなぁ〜」
「からかうでない!」
サエが余裕な様子を見せるので、妾はお鶴が用意してくれた結界の中へと逃げ込む。
ミタが結界の強化に努めて、鬼が城を破壊するのをジッと耐える。
しかし、鬼の力は強大で、結界が次々と破壊されていく。
ミタも結界を維持することに疲弊し、次第に劣勢に立たされていった。
「サエ、ミタ、大丈夫か?」
「蘭姫様、我々はまだ戦えます。しかし、このままでは…」
その時、突然、鬼の一撃がミタに直撃し、ミタは吹き飛ばされた。
「ミタ!」
ミタは傷つきながらも、必死に立ち上がろうとする。
しかし、鬼はさらに攻撃を加えようとする。
「もうやめぬか、妾が相手をする」
妾は鬼の前に立って身を挺してミタを守るために立ちはだかる。
しかし、鬼は私の言葉に耳を貸さず、腕を振り上げる。
「鷹…」
目を閉じる妾の前で鬼の威圧が消える。
「えっ?」
目を開けた妾が見たのは、二人の侍の姿であった。
♢
《side 桜木鷹之丞》
狐介から得た情報を聞いた瞬間に、急いで蘭姫様の元へ駆けつける。
走る俺たちの前で城に巨大な鬼が出現する。
空からサエが舞い降りて鬼を蹴り上げるが、元々戦闘向きではないサエでは長くはもたない。
「新之助!」
「はっ! 急ぎます」
俺たちはさらに身体強化して速度を上げる。
すでに陰陽術に使うためのエネルギーは尽きている。
だから、ここから生命力を使う。
蘭姫様を守れるなら命を削ってもかまわない。
「蘭姫様、ご無事でございますか!」
「鷹っ!」
今まさに蘭姫様を殴ろうとする巨大な鬼へ切り掛かる。
「俺が相手だ!」
新之助も刀を抜き、俺と共に鬼に立ち向かった。
「新之助、行くぞ!」
「はい!」
俺たちは連携して鬼に攻撃を加え続けた。
鬼の動きは鈍重だが、その一撃一撃は致命的な威力を持っている。
命を削る陰陽術を使って、剣術に取り入れた無極流の技を披露する。
「無極流剣術、剛雷豪!」
俺の刀が雷のような光を帯び、鬼に向かって高速で斬りかかった。
雷の力が鬼の体に衝撃を与え、その動きを一瞬鈍らせた。
「俺も行きます!無極流剣術、秘技、風神一閃!」
新之助は俺よりも実践を重ねて秘技を生み出した。
新之助の必殺に合わせて、鬼の腕を切り落とす。
しかし、鬼の力はまだ衰えず、再び攻撃を仕掛けてきた。
「鷹っ! 勝って!!」
蘭姫様の声が背中を押してくれる。
「無極流剣術、秘技、極限一刀」
俺は自分でも驚くほどの力を持って、鬼の首を切り落としていた。
傷を負い、力を消耗した俺たちの前に、堺の商人と唐物の商人が現れた。
「これで終わりだ、桜木鷹之丞!」
「貴様ら、こんなことをしている?! 何のつもりだ!」
「美波藩を混乱に陥れ、その隙に利益を得る。それが我々の目的だったのだ。だが、貴様の存在は邪魔になる。死んでもらうぞ」
俺は鬼に振り絞った力を、もう一度使おうとするが、体が悲鳴をあげて動けない。
「主様、貴殿には幸福の女神がついておるであろう。好きに動くが良い」
そっと、サエが俺の背中を押すと体が軽くなった。
「新之助!」
「はい、無極流剣術、風刀!」
新之助が飛ぶ斬撃を放って商人たちを攻撃する。
しかし、刃が消えていく。
「くくく、我々が何も用意しないで来るはずがないじゃないですか? 桜木鷹之丞、確かにあなたはこの三年でこの藩を発展させた。だが、そちらにおられる蘭姫様を捕らえ、座敷童を捕まえれば我々でも十分に可能なことです」
どうやらこの者たちの目的は、民の混乱によって物資を売りつけるだけでなく、俺から蘭姫様を奪い、さらに座敷童を奪って裏から美波藩を乗っ取るつもりのようだ。
「お前たちが、何を求めたのか……我の宝だ。貴様らに沙汰を渡す必要もない」
俺は刀を握る手に力が籠る。
「終わりにしよう」
「まだわかっておられないようですね。我々は大陸の陰陽術を使っているのです。あなたには到底わからないのですよ」
何かを言っているが、そんなことなどどうでもいい。
「新之助」
「はっ!」
「奥義を使う」
「鷹之丞様!」
三年前に以蔵先生に見せてもらった。
奥義に全てを賭ける。
「無極流剣術、奥義、無我の極み」
三年かけて、俺はこの極地にたどり着いた。
「何が奥義だ。何も起きぬではないか!」
「すでに終わっている」
「なんだと?」
堺の商人が何かを言っているが、すでに唐物の商人は物言わぬようになっていた。
「なんだと?」
堺の商人が崩れ落ちていく。
サエが、蘭姫様の目を塞いでくれてよかった。
俺は剣についた血を払って、納刀する。
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