第36話
蘭姫様からいただいた幸福の力は額であったが、胸が熱くなる。
俺は巨大な妖怪が現れた場所へ足を向けると、配下の者たちが顔を揃えていく。
「新之助、足軽部隊はどうなっている」
「各自、すでに」
「うむ、弥一、ミタ以外の小狸たちはお鶴につけて、妖力で援護を」
「承知!」
隠す気があるのか、弥一は農民ではあり得ない速度で姿を消してしまう。
「以蔵師匠に第一部隊、第二部隊を預けて、侵入してくる妖怪退治を命じる」
「はい!」
新之助が指示を飛ばして、第二部隊が以蔵先生の元へ向かっていく。
以蔵先生には目配せだけだが、全てをわかってくれている。
「第三部隊、第五部隊は平八指示の元で民の避難と守護を」
「はっ!」
平八が指示を聞いて、すぐに動き始める。
現場にいる者たちをまとめ上げなければならないが、平八には頼りになる仲間がいるからこそできるだろう。
「陰陽術師の蛙様が、足止めを行ってくれています。第四部隊もそこに」
「ああ、俺たちはそこに向かうぞ」
「はい!」
町の中央には、見たこともないほど大きな妖怪が立ちはだかっていた。
その姿は鬼の形相に巨人の姿だった。
周囲の人々は恐怖に震えて混乱が起きていた。
「皆の者よ!」
俺は陰陽術によって拡張した声で美波藩全土に響かせる。
「妖怪は、この代官桜木鷹之丞が成敗してくれよう。盆の祭りを荒らす不届きな妖怪を成敗する大捕物である!」
妖怪の姿は巨大な鬼だ。鋭い爪と牙を持ち、鋭いツノが頭から生えている。
赤く光る目は憎悪と狂気に満ちており、その圧倒的な存在感に一瞬気圧されたが、俺は刀を抜き、戦いの準備を整えた。
「鷹之丞様、あれは何ですか!?」
新之助が指摘した場所は、太鼓台の下にできた大きな穴だった。
「おそらく、商人たちが結界の綻びを利用して召喚する際に生じたのだろう。奴らの目的は美波藩を混乱に陥れることだ」
妖怪は咆哮を上げ、巨大な爪を振り下ろし、地面に深い傷を刻んだ。
俺はその攻撃をかわしながら、妖怪の動きを見つめる。
巨大な体は鈍重だが、一撃一撃が致命的な威力を持っている。
「新之助、どう思う?」
「動きは鈍足ですが一撃が重いです。ただ、人の形をしている以上は弱点も同じかと」
「くくく、ならやるぞ」
「はい!」
俺は新之助と左右に分かれて巨大な鬼のアキレス腱を切った。
陰陽術によって、それぞれの刀だけでなく、肉体を強化して巨大な鬼すらも切り裂く。
これが俺たちが学んできた無極流剣術だ。
「鷹之丞様!」
「新之助、腕を上げたな」
「鷹之丞様も素晴らしい剣術です」
「任せろ!」
以蔵先生の剣技には及ばないかもしれない。
だが、一撃一撃が妖怪の体に深く切り裂いていく。
お鶴が陰陽術で補助して、小狸たちもやってきて、巨大な鬼を足止めする。
「ここだ!」
俺は巨大な鬼が揺らめいたのを確認して、体を駆け上がっていく。
「続きます!」
後に続く新之助と共に、鬼の上半身にたどり着いて、俺は胸元に深く刀を突き刺した。
妖怪は痛みに叫び、咆哮を上げて暴れるが、俺よりもさらに高く登った新之助が、鬼の首に刀を振るう。
「無極流剣術、奥義、風神一刀」
雷鳴が鳴り響き、風が通り過ぎれば、巨大な鬼の首が落とされる。
新之助が技を放つ瞬間、鬼の動きが鈍くなった。
お鶴が護符を使い、鬼の動きを封じていてくれていた。
「勝鬨をあげよ!」
俺はトドメを刺すために、最後の一撃を加えるために力を込めた。
刀が妖怪の心臓を貫いて、頭だけでなく体も機能を停止する。
歓声を上げる民衆に高々と手をあげながら、俺の視線は別の場所に向けられる。
安心するのはまだ早い。
鬼を出現させた者たちがいる。
だが、今度は以蔵先生たちが向かった方角から妖怪が現れる。
「何だ…!?また別の妖怪が現れたのか!」
俺は空中からの攻撃に対応するため、必死に動き回ったが、鳥頭にライオンの体を持つ化物から攻撃を受ける。
鋭い爪と翼の打撃を避けるのは至難の業だった。
「鷹之丞様、避けてください!」
新之助が声を上げた瞬間、化物の一撃が俺を直撃し、地面に叩きつけられた。
痛みが全身を走り、意識が一瞬遠のいた。
「鷹之丞様!」
新之助が駆け寄ってきたが、俺は手で制した。
「大丈夫だ、新之助。俺はまだ戦える。」
立ち上がろうとしたが、身体が思うように動かない。
新之助の支えを借りて、どうにか立ち上がった。
「すまぬ。取り逃した」
「ここで退くわけにはいかない。みんなで力を合わせるぞ!」
駆けつけた以蔵先生が前に出る。
「ここは我が秘技、無我の極地を持って相手をする!」
以蔵先生の刀が納刀されて、化物と対峙する。
勝負は一瞬だった。高速で斬りかかった以蔵先生の一撃は化け物の体を切り裂いた。
「さすがは、以蔵先生!」
「グハッ!」
どうやら相当に無理を重ねていたようだ。
化物を切り裂いたが、以蔵先生も相当にダメージを受けている。
「我が必殺技、地裂斬!」
巨大な剣を振り上げ、平八が化物を殴りつけた。
地面を砕く勢いで化物に一撃を加える。
地面が揺れ、立ちあがろうとした化物にトドメを刺す。
「よくやった!」」
「ここにいる方が安全と判断しました」
強者が集まり、妖怪たちも数が完全に減ってきている。
「お鶴、今だ! 結界の修復を!」
「はい!」
「私たちも手伝うの!」
ミタたちが、お鶴の補助をして、結界を修復していく。
「終わりだ…!」
混乱が治まり始め、民衆はさらに歓声を上げる。
「やったぞ…」
だが、俺は新之助の肩を借りてその場を離れた。
「お鶴、よくやった。後を頼む」
「はい! 鷹之丞様もお気をつけて」
以蔵先生の傷も、民衆の歓声も全てを置き去りにして、俺たちは闇に紛れる。
その時、影から狐介が姿を現した。
「桜木鷹之丞様、話があります」
「狐介、最後の決め手はお前だ」
「やはりお気づきだったのですね」
「ああ、お前が美波藩に入り込んだ面倒な商人を自ら監視していたことはわかっている。お前がここに店を出す際に、俺はお前に潰して欲しい商人リストを渡していた。お前はそれを今も実行してくれていたんだな」
もう三年も前の約束だが、狐介は俺のために動いてくれていた。
酒場に行った際に、狐介は俺の存在に気づいて情報を聞き出してくれていたのだ。
「罪を犯したことについては、全てが終わった後に受けまする! 今は」
「うむ、商人たちの真の計画を知っているのだろう? 奴らはまだ裏で動いているのか?」
「はい!」
狐介の話を聞いていると、新たな危機が迫っていることを知らされる。
「奴らは、次の攻撃で城を狙っております!」
蘭姫様が危ないことを知り、俺はかけだした。
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