第34話
弥一にミタたち小狸を預けたことで、忍びの育成を頼みながら、俺はもう一つの疑念を晴らすために動き始めていた。
最近になって頻発している結界の綻び、それは偶然ではない。
何者かが意図的にこの地に混乱を招こうとしている。
それに関係している人物として狐介のことが気になっていた。
奴の動きが怪しく感じると同時に、何かを隠しているように思える。
狐介はこの町の商人として活動してくれている。
発展する前の美波藩を支えてくれた商人として、信頼はしている。
だからこそ、俺の裏をかける人物がいるとするなら、その一人であろうと思える。
「新之助、狐介の動きはどうだ?」
「はっ! 足軽をつけておりますが、前回の港の廃屋に造られた酒場に出入りしているだけだと報告が上がっています。ですが、堺の商人と、唐物の商人と話をしているだけなので、商人同士が話しているのを怪しいとは」
「そうだな」
情報交換をしていただけだと言われれば、それまでだ。
結局は、証拠を提示しなければ、わからないというわけだ。
「わかった。今日は付き合え、新之助」
「はっ! かしこまりました」
その夜、俺は久しぶりに盗人の姿をして、暗闇に身を潜めた。
狐介の後を追って、自らの目と耳で確かめるために狐介が足繁く通う町外れの薄暗い廃屋へ潜伏する。
廃屋の中には狐介と数名の仲間たちが集まっていた。
俺は陰からその会話を盗み聞きした。
♢
《side狐介》
いよいよ一週間後に盆踊りが迫り、こちらの作戦も大詰めに入ろうとしていた。
「結界の綻びをもっと広げる必要があるんだどうにかならんか?。次はどこを狙えば良い?」
唐物の商人をしている張家永は焦った様子で問いかけてくる。
だが、お鶴さんの頑張りと、桜木鷹之丞様が、小狸を使役したことで妖力が注がれて結界は強化された。
穴を探すのが至難の技になりつつある。
「次は町の中心部に近い場所などいかがですか? 盆踊りを開く場所です。本末転倒という言葉もあるでしょ?」
「ふむ。そこは最後だと思っていたが、一週間前なのでありかもしれませんね」
「そうだぜ! そこで大きな混乱を引き起こせば、俺らの目的を達成できるだろうぜ」
堺の商人である坂本勘兵衛が、張家永の背中を押すように言葉を発する。
「いいねぇ、それで行こうか、なら準備を進めようねぇ〜」
どんな作戦なのかはわからないが、次に狙われる場所はわかった。
「そろそろ計画の全貌を私にも教えていただいても良いのではないですか? ここまでご協力してきたのは、かなり危険な橋を渡ってきたのですから」
彼らに近づくために桜木様と距離を置いて、彼らに協力したのだ。
私は全貌を知らないまま、協力している。
だが、今回の結界の綻びを意図的に生み出してたのは私です。
「おうおう、何でも屋にはかなり世話になったからな。俺たちちは商人や」
「ええ、そうですね」
「商人が考えることは、もちろん商売の成功やろ?」
堺の商人である坂本勘兵衛が主軸となって会話を進める。
唐物の商人の張家永は、坂本の話に頷くだけだ。
「もちろん、それはわかっております。それでお声かけをいただきましたからね」
「そうやろ? それでや。商売を成功させるためには需要が大切や」
「需要ですか?」
「そうや、商売は需要と供給。必要な者に必要な物を売るそれが商売人や。だが、裕福で満たされている者は、高い物を買ってくれるが、需要があるかと言えばそうやない。裕福な物も混乱して、必要な者が多くなれば、物資を求めるんや」
私は坂本の考え方を理解できた。
店の奥で物音がしましたが、私は坂本の話に耳を傾けました。
♢
《side桜木鷹之丞》
そっと、廃屋から静かに離れる。
狐介が何のために動いているかは、ある程度予測はできていたが、確信に変えることができた。
そこで、俺はお鶴の元へ向かう。
今回の情報によって準備する場所が決まった。
彼女にこの情報を伝え、対策を講じる必要がある。
「お鶴、狐介たちが結界の綻びを意図的に生み出している。彼らの次の狙いは町の中心部だ」
「……鷹之丞様、その姿は?」
「気にするな」
「かしこまりました。すぐに対策を講じます」
お鶴は驚きながらも冷静に対処に動いてくれる。
「新之助、残りは足軽たちに堺の商人である坂本勘兵衛と、唐物の商人をしている張家永の監視。そして、その配下も全てだ」
「はっ! すぐに手配します!」
「その間はお鶴、妖怪を中に入れないように頼む」
「承知しました」
二人が動き出して、平八は新之助に付き従っていく。
街道の妖怪は、負担はかかるが以蔵先生に任せるしかない。
「さて、こちらとしても狐介が用意してくれた準備を生かすための準備を進めるとしようか、そのためにも相手には油断してもらう必要がありそうだな。アゲハに協力してもらうとしよう」
俺は狐介の邪魔をしないために、遊郭へ足を向ける。
「本日はどうされはったん?」
「酒に付き合ってくれ」
「珍しいなぁ〜、いつもはお茶やのに」
「そういう気分もあるんだ」
「なんやそれ」
酒を飲み、ゴロリとアゲハの膝に頭を預ける。
「今日は見た目だけやのうて、態度まで歌舞伎者ですなぁ〜」
「それがいい」
俺は目を閉じて、この部屋を覗く忍びの気配を感じ取る。
今はまだ小狸たちの成長は成し遂げられていない。
だが、いつか彼らを第一段階として、成功できれば、他藩の忍びに好き勝手される未来を絶対に変えてみせる。
「ウチは嬉しいどすえ〜」
そっと、アゲハが俺の頭を撫でる。
俺はそれに身を任せて、腑抜けた様子を忍びたちに見せつける。
今に見ているがいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます