第29話
元々多かったのか、それとも近年になって頻発するようになったのか、妖怪の出没にする回数が増えている。
そのため対処するのに、百五十人の足軽部隊を編成することを決意した。
その日の朝、城下町の広場には新たに雇い入れられた足軽たちが整列していた。
「皆の者、今日よりこの百五十人の足軽を五部隊に分け、交代制で街道と藩全体の安全を守ることとする!」
俺の声が広場に響き渡る。
各部隊は三十人ずつ編成され、旗印と同じ羽織を纏っている。
第一部隊の隊長は以蔵先生にお願いした。
剣豪として足軽たちに剣術の訓練を行ってももらっている。
「妖怪に対して恐れず、勇敢に立ち向かうのだ。剣を信じ、仲間を信じるとしよう」
「第一部隊は、最も多く妖怪と対峙します。夜明け前に持ち場に着き、準備を整えてくれ」
第二部隊の隊長は新之助だ。
以蔵先生の下で、この一年、実力を示した結果だ。
以蔵先生と対となる攻撃隊として、街道で妖怪退治をしてもらう。
第三部隊の隊長は平八だ。
第三部隊は、基本は美波藩の街並みを守ることに中心に動いてもらう。
これまで通り見回りを中心に正式な部隊として、これからは足軽を引き連れて警備を行う。
訓練と警備が主な仕事ということになる。
第四部隊の隊長はお鶴で、この部隊は、第三部隊と似た性質を持つが、大きく違うのは妖怪の結界術を操る陰陽師である蛙の警護がメインの仕事になる。
そのため第三部隊の手伝いにまわってもらうことも増える。
「これらの護符は、妖怪の動きを封じるために使うのです。決して恐れてはいけません、我々の力を信じてください」
お鶴の部隊には護符が配られて使い方のレクチャーもしているようだ。
最後に第五部隊は、俺の直轄部隊として、普段は第一から第四部隊の補助要員とした。
数名は俺の手元に残って伝令や雑用をしてもらう。
俺が出陣する際には専属となって動かすつもりだ。
交代制での任務は、昼間の守りは比較的静かであったが、夜になると妖怪の活動が活発になる。
第一から第三部隊の足軽たちは、交代制で戦いの緊張感を味わうことになる。
「わっ、私が副隊長でありますか?」
そして、危険人物として、最重要マークしなければいけない弥一は、俺の手元に置くことにした。
正直に言えば以蔵先生の下で、ビシビシと鍛えられて欲しいが、外に出して過酷な状況を高名な老人に曲解されて報告されても困る。
だから、俺の手元に置いて監視することにした。
何よりも美波藩の現状を正しく知ってもらうためには、この方が良いと判断した。
現在は発展途上であり、皆が力を合わせて頑張っていることを理解してもらいたい。
「ああ、俺自身は代官の仕事もあり、自由に動くことが難しい。それを弥一さんに補ってもらいたいのだ。そして、第一から第四部隊を弥一さんの目で見てもらいたい」
第一部隊、第二部隊は最前線で妖怪と戦うため、怪我や病気などが出れば他の足軽部隊から交代することもある。
それらの確認を弥一にお願いした。
「かっ、かしこまりました」
「多めの給金を用意するから頑張ってもらいたい」
「はは!」
美波藩の抱える問題を一つ一つ解決していくことで、将来の憂いを取り払う。
♢
《side弥一》
拙者の名は風車弥一。
長らく高名な方に仕えて参った。
その方は天下泰平を誰よりも願っており、天下取りをなされた徳川家の世を守るために奔走しておられる。
そのお手伝いをしたいと、これまで頑張って参った。
此度も美波藩に潜伏して、桜木鷹之丞を見極めるための仕事についている。
だが、奴は私の存在に気づいているのではないかと思わせる態度を取る時がある。
そんなはずはない。これまで拙者の正体を見破れた者などおらぬのだ。
五番隊副隊長という大任を任され、今日も城下町を巡回していた。
桜木鷹之丞は代官の仕事を午前中に終わらせて、鋭い目をして、城下町の細かな変化を見逃さない。
そんな鷹之丞に対し、拙者は冷静な態度を保ちながらも、内心では奴の動きを注視していた。
「鷹之丞様、何かありましたか?」
表向きは信頼関係を築いているように見えるだろうが、こちらは鷹之丞の動きを警戒している。
だがこちらが見ているはずなのに、あちらから見極められているような不可解な違和感を覚える。
鷹之丞の能力と知識はかなり高く評価している。
だからこそ自分の正体がバレないように細心の注意を払う必要があり、精神をすり減らしている。
「弥一さん、この書簡を見てくれ」
屋敷に戻った鷹之丞は、早速代官の仕事に戻り、拙者に一枚の書簡を差し出した。
書簡を受け取り、中身を確認すれば。
最近の妖怪出没の報告書であり、詳細な情報が記されている。
「これは興味深いですね。妖怪の出没が増えているのは確かですが、このパターンには何かしらの規則性があるように見えます。」
拙者は見たままの情報を言葉にして、冷静に答えた。
「そうか……。一つ聞いても良いか? 農民の弥一さんはどこで文字を覚えたんだ?」
ギクッ!!! 此奴! 謀ったな!!!
「あっ、いえ、独学でござる。全ては分かりませぬが、地図を添えてくれていたので、妖怪の分布だと……」
「そうか。弥一さんは地頭が良いのだな」
クゥー!!! 誤魔化せたのか? 今のは危なかった。
鷹之丞はこちらに意見を求めて、耳を傾けてくる。
為政者としては素晴らしいことだが、こちらはどの程度本音で語れば良いのかわからぬ。
ここまで風車の弥一を翻弄した御仁はいない。
「ところで、弥一さん。昨夜、町の東側で不審な動きがあったと聞いているが、何か心当たりはないか?」
東側と言われて、昨夜お館様に密書を送った場所が確か……。
冷や汗が流れる。もしかして鷹之丞にバレているのか?
「いえ、昨夜は第三部隊の巡回を監視を手伝っておりましたが、特に異常は見受けられませんでした。」
不審な動きを私は知らぬと即座にせねばならぬ。
「そうか。では、もう少し詳しく調べてみることにする」
鷹之丞は拙者の意見を聞いて一歩引きつつも、こちらの表情を見ているような気がする。
気が休まらぬ。
♢
《side桜木鷹之丞》
日が暮れると、弥一を連れて街道の見回りに出かけた。
俺は弥一の行動を観察しながら、何を目的に美波藩にやってきたのか見極めなければならない。
「弥一さん、あの影は妖怪か?」
街道を指差して黒い影を目で追った。
「そうかもしれません。用心して接近しましょう」
弥一は落ち着いて答えたが、その視線は鋭く、何かを見逃さないようにしている。
さすがは最強の男だ。
俺の暗殺を目論んでいるのでないのなら、これほど心強い味方はいない。
影に近づき、慎重に観察したが、すでに逃げたようだ。
弥一の冷静さに感心しつつも、その正体を見破るためにさらなる策を練る必要があるな。
「今日はこれで終わりだが、明日も同じ時間に会おう。昨日は夜も見回りの手伝いをしたようだが、今日は休んでくれ」
「はっ! わかりました。お心遣いありがとうございます」
人の良さそうな顔を見せる弥一と、今は騙し合いを続けるしかないようだ。
互いの知恵と技術が試される日常であり、その均衡がいつ崩れるかは弥一次第だろう
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