第19話
連日、大忙しの日々が続くことになる。
小判鮫との決着をつけたいという気持ちがあるが、相手の出方次第というところがある手前、こちらとしても手を考えなければならない。
それなのに、美波藩内では、連日化けカラスの被害が相次いでおり、与力が集まっては夜廻をしてくれている。
だが、化けカラスは狡猾で賢く、なかなか見つけることができない。
仕方なく、お鶴にも結界以外にも化けガラスが出没した場所に魔除けの札を施してもらって対処はしているが、なかなかに面倒な様子だ。
以蔵先生にも、ご協力を要請しているが、上手く化けカラスを捕らえられないために退治のしようもない。
「農民から米が荒らされていたと報告が来ています」
「町民より、屋根が突かれて、あのような巨大なカラスでは、自分たちでは対処できないと」
「遊郭街でも、被害報告が上がっております」
同心たちは、連日のクレームに対処しながら、被害があった場所に与力を回して対処するが、完全に後手後手になってしまっている。
人手が取られることで、どんどん忙しさが増しているのだ。
♢
《side平八》
俺は桜木様の命によって、化けカラスを追いかける日々を続けている。
これまで生きる気力がなかった俺にとって、今の生活は充実した日々だ。
町民たちと話をして、様々な問題を解決することが楽しいと思い始めていた。
美波藩の夕暮れ、薄暗い街道を不気味な鳴き声がこだましていた。
化けガラスかと村人たちは恐れおののき、戸を固く閉ざしてしまう。
連日、化けカラスという妖怪が現れて、人々を苦しめている。
俺は代官の桜木鷹之丞からこの妖怪退治の任を受けた。
「ふぅ、こちらにおられたか」
町外れにある神社へ足を運び、陰陽術師の蛙殿に助力してもらう。
その横には、剣豪の以蔵先生もこの危機に駆けつけてくださった。
蛙殿との出会いは最悪であったが、今では与力として、同じ主に仕える者同士、協力する関係になっている。
以蔵先生にも毎日のように、桜木様同様に稽古をつけてもらっているので、此度の助力には本当に感謝したい。
「蛙殿、以蔵師匠、此度の助力に感謝します。化けカラスを退治するため、どうかよろしくお願いします」
「平八殿、安心しなさい。化けガラスを退治するための策は既に用意してあります」
蛙殿は、連日桜木様と話し合って作戦を考えてくれた。
「弟子の頼みじゃ! 我が剣も、この戦いに役立てよう」
「ありがとうございます! 師匠」
二人に礼を述べれば、蛙殿が神社の奥から幾つかの道具を持ち出した。
特製の御札、神聖な塩、蛙の入った器だった。
「化けカラスは、闇夜に紛れて現れることが多いそうです。そのため、我々はまず夜になる前に罠を仕掛けます。連日の護符の影響で、化けカラスの向かう先は限定しています」
「罠を張るのですね、どのようなものですか?」
「村の中央で大きな焚き火を起こします。そこへ化けカラスを引き寄せるのです。そして、化けカラスが現れた瞬間に、この蛙を媒介にして結界をはります。その結界内で、化けカラスの力を封じ込めるので、あとは皆さんに任せます」
なるほど、化けカラスを逃がさないように蛙殿にしていただければ、退治を我々が行えばいい。
「それでは、早速準備に取り掛かりましょう。」
中央広場に大きな焚き火を焚き上げた。
平八の配下の与力たちは、広場の周囲に配置され、化けカラスを逃がさないように警戒を強めた。以蔵も剣を構えて広場の中央で目を閉じる。
夜が更けるとともに、不気味な鳴き声が再び響き渡った。
化けカラスが焚き火の光に引き寄せられて現れたのだ。
大きな翼を広げ、不気味な瞳が焚き火の明かりに照らされる。
「来たぞ、蛙殿、以蔵師匠!」
「準備は万端です。平八殿、心を強く持ってください」
化けカラスが広場に舞い降りると、お鶴は迅速に蛙を取り出して、特製の御札をその背に貼り付けた。
蛙は呪文に応じて輝きを放ち始め、次第にその光が広がり、化けカラスを捕らえるように包み込んで結界を形成した。
化けカラスは結界の外に出ようと激しく抵抗し、結界を破ろうと暴れた。
そんな化けカラスに以蔵師匠が素早く剣を構え、化けカラスが結界を破ることを防ぐために神聖な塩で周囲を強固にする。
「皆の者よ! 配置に就け! 化けカラスを退治するぞ!」
与力たちは一斉に動き、結界の周囲を固めた。
蛙は結界の外で破られないように集中して呪文を唱え続け、結界を強化し続けた。
しかし、化けカラスの力は強大で、結界が揺らぎ始めた。
「結界が危ういぞ! 皆の者よ気張れ!!」
「まずは、拙者に任せよ!」
以蔵師匠が剣を振り、化けカラスの動きを封じるためにその翼を狙った。
化けカラスは苦しみの声を上げながらも、結界の中で次第に動きが鈍くなっていった。
しかし、化けカラスの力は強大であり、結界が破られる寸前まで迫ってしまう。
まさにその瞬間、焚き火の向こうから声が響いた。
「皆の者、下がれ!」
与力たちは驚きとともにその声の方向を振り返った。
焚き火の光の中に現れたのは、代官の桜木鷹之丞様だ。
彼は一瞬にして状況を把握し、蛙殿の呪文を補完するように御札を取り出し、強力な結界を補助する。
「平八、以蔵先生、援護を頼む。化けカラスよ、今日で終わらせる!」
桜木様が用意した御札が輝き、結界は一層強固になった。
化けカラスはその力に完全に封じ込められ、動きを止める。
鷹之丞は隙を見逃さず、化けカラスの首を切り落とした。
さらに化けカラスの額に御札を貼り付けて消滅させた。
広場には静寂が戻り、与力たちが歓声を上げる。
「鷹之丞様、ありがとうございます!」
「お見事!」
以蔵師匠と俺が駆け寄ると、鷹之丞様は化けカラスの周囲に視線を走らせる。
「皆の者、ご苦労であった。これで美波藩も安泰だ。しかし、油断は禁物だ。妖怪は一度退治しても、また現れることがある。これからも貴殿らの力を貸してほしい。どうか私とともにを助力を頼む」
お偉いさんである桜木様が直々に声をかけていただき、与力たちは歓声を上げる。
さらに此度の褒美を約束してくださった。
しかし、その明け方、俺は後始末の一角で不審な動きを見つけた。
影の中に潜む人物を見つけ、その後を追った。
その人物は美波藩の家老、小判鮫松五郎の屋敷へと入ろうとして捕らえた。
「なっ! 貴様、何をする!」
「不審な行動をとった貴様が悪いのであろう」
以蔵師匠から、剣術だけでなく捕縛術も教えてもらったために不意をついて捕らえることができた。
その物の懐から、巻物が落ちて、小判鮫家の印がなされていた。
ただ、その巻物は普通の者とは違っていて、奇妙なことに化けカラスの絵が描かれていた。
「なんだこれは?」
捕縛した者と、巻物を持って桜木様の元へ戻れば、陰陽術師の蛙殿も桜木様と一緒におられた。
「桜木様、怪しい者がおりました。そのものがこれを」
「小判鮫家の家紋か?」
桜木様が巻物を確認してくれて、蛙殿が巻物を見る。
「これは!」
「うん? 知っているのか?」
「妖怪を封印するための巻物です」
「なっ! つまり、これを化けカラスを引き入れたのは、小判鮫ということか?」
「そうなりますね」
蛙殿がいてくれたことで、巻物によって化けカラスを召喚するものであることがわかった。
「小判鮫、こんな場所で尻尾を出すとはな。皆の者よ。この巻物のことは口外禁止とする。必ず、この報いは受けさせる」
こうして、俺たちは化けガラスを退治した。
さらにその背後にいた小判鮫に繋がる証拠を捕らえることに成功した。
ここからは桜木様に託すしかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます