第32話 魂、手応え

 アップルはいった。

『まず、わたしのセカイに、カミを呼び寄せることに成功した、いや、げんみつには、青枝のアカウントでつくったセカイだけど。カミのブロックを外した瞬間、カミはわたしのセカイへやってきて。でもって、セカイを破壊しようとした、月から隕石を投げて』

 ヒトロは設置されたスピーカーを見上げる。いっぽうで、アムは冷蔵庫からエナジードリンクを取り出し、ソファへ戻って、飲み始める。

『隕石攻撃をくらったヒトロンのアカウントは消えた。よって、カミからの隕石にあたったら、アカウントが消えてなくなることもわかった、きっと攻撃されたら。で、もうひとつ重要なことがわかった。青枝がカミのブロックを再開したら、わたしのセカイからカミを追い出せた』

 そこまで聞き、アムが「カミは、セカイってシステムを造った存在なんでしょ、本当に、サービスの既存機能のブロック設定で、入れないようにできてるの」と、いった。

『でも、現実、昨日、出来たし』

 すると、キラヒラが『あの』と、声をかけた。『カミ………をブロックできたって………でも、セカイは、その………ふつー………そういうポジションのなにかって、なんでもかんでも操作可能な特権をもってて………システムにルール無視で、なでもできたりするのー………は?』

『けど、出来たじゃん』アップルが断言した。『青枝が設定を変えたら、わたしのセカイからカミを追い出せた』

 それを聞かされたヒトロは、いまひとつ、話の内容を理解できていない様子だった。

 アムは床に飲みかけの缶を置き、ソファのひじ掛けによりかかり、頬杖をついている。

『で、これはおそらく、って話なんだけど』アップルがそう前置した。『カミは、亡くなったミチカちゃんのアカウントを―――そのまま使ってる。仮想身体もそのまま使ってるだけじゃなくて』

 アムが口をひらく。「なに? そのヘンな状況」

『そう、ヘンなの。でも、使ってる。ちなみに、あたらしくダミーでアカウントつくって、カミをブロックとかできるのか試したけど、無理だった。ブロック対象のユーザに表示されない。もしかしたら、ミチカちゃんが、あのアカウントで、一度、わたしのセカイに来たから、ブロックできるのかも』

『やっぱり、それってバグ………』キラヒラがった。『ですかね?』

『確たるものは何もない』そう前置して、アップルは言う。『しかし、楽観力を最大出力に噴射して考えれば、システム管理の特権をもってしてもメンテできなそうなパターンのバグかも』

 アムが「なんで、メンテ不可なの」と、いった。

『わたしにもわからない。でも、アムさん、そして、キラヒラさん。あなたたちのような、ちょいとアレなアカウントとセカイを、カミは反省、弁護の機会も与えないまま、せい、って、消した。消せた。でも、カミが、わたしのセカイを消せてない』

 キラヒラが『あの、正確には、あのアップルさんのセカイって、青枝さん………のアカウントで造ったセカイ、なんですよね?』と、確認した。

『うん、実質はね。配信三世のアカウントで造ったセカイにわたしがいて、わたしのセカイとして、いわば、征服した状態』

ヒトロがはあまり状況を把握できてい様子ながら「セカイのまた貸し?」と、つぶやく。

 青枝は何も言わないままだった。

 アップルは続ける。

『まあ、三世は、もともと使ってた動画配信サイトのアカウントを使えば、セカイと連携できるからって、おためしでやっただけだし。そうやって、タコのように足を広げれば、再生回数があがるんじゃないかって、浅はかな思想で。ゆえに、こいつは、セカイづくりには興味なかったので、わたしが有効活用してる、対価として、配信の下準備とか、動画編集の雑務をわたしがやる。わたしはそう、このセカイでいえば、そう、いわば出入の業者ね』

 キラヒラが『どういう流れでそんなことに』と、問いかけた。

『なんとなくそうなった、なし崩し的に。その話は、長くなる』

 アムが「割愛で」と、一言。

『割愛、採用します。ほいでね、本題に帰還して、カミはなんらかの理由で、配信三世のセカイは消せない。けど、ヒトロンのアカウントは消せた』

 アムは腕を組み、言った。「セカイは消せないけど、アカウントは消せない」

『―――と、仮定した場合、もし、配信三世が仮想身体でセカイにいて、カミに消されたアカウントは消える可能性はある。消えないかもしれないけど、ヒトロンの実例があるから、消える気がするけど』

「やっぱ、おれを人体実験につかったんです」

『そうさ、君の生まれたてのかりそめの命をもてあそんだワケよ』アップルは悪びれもなくいった。『なにもしらない、無垢なヒトロンを利用した、オトナってのは、そういうものさー、実社会ってのは、そういうものさー』

 すると、アムが「ひきこもりなのよね?」と、言った。

『んんー、わたしの柔らかい部分をつくな、アムアム。いいか、いじめると泣くぞ、ぐわんぐわん泣くぞ、わたしは』

アムは注意部分より、勝手につけられたあだ名にひっかかったらしく。「アムアム」と、つぶやいた。

 そして、アムが深追いする間を与えず、アップルは話す。

『でもって、あのとき、ヒトロンを犠牲にして実行した実験の他に、じつはもうひとつ、実験してわかったことがある』

「こうげき」キラヒラが即座に察した。「ラストにカミへやった………こうげき」

『キラさん、きらきら正解』

『キラさん………きらきら………正解』

『あのとき、わたしはカミへ攻撃した。攻撃したら、手応えがあった』

「手応え」アムが言う。「とは」

『魂を感じるにも似た、手応え』

 アップルの歪な表現は、聞かされた者たちに、奇妙な静寂をあたえる。

 そのうえで、続けた。

『壊せる気がする、カミ』

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