第24話 説明、哀れ

 青枝は怪訝な表情を浮かべながら階段を降りてゆく。

「説明の雑さが天下一品だな、アップル」

 階段は細く、明りも弱い。

「聞かされた相手が何もわからない、かつ、何も心に響かない具合がすさまじい説明だぞ」

『なによ』アップルは不機嫌そうな声で返す。『わたしに評価をくだすなんて、生意気な』

『お前』画面の向こうから、ヒトロの声が放たれた。『いたのかよ』

「うん、未成年。画面枠とっての参加はしてないけどな、アップルの音声はこっちに回してもらってる」

『盗聴かよ』

「俺だって会議には参加しない。あ、キラヒラぁ、さん、だっけ? 俺がいても大丈夫すよね、俺」

『あ、いや』不意に話をふられ、キラヒラは慌て、やがて『あのもう、消えていいですか、わたし』と、ただ願望を告げるばりだった。

 しかし、その願いが議論される前にヒトロが不機嫌を隠さない口調で言う。『つか、おい、お前は何やってんだよ、前科持ち。こっちが、その………キラヒラ、さ、さんを』

「なんだよ、おまえ、大人の女性の名前呼ぶだけでも照れる少年時代なのか」

『たわけ、その………一人で、あんなイカれた説得を、キラヒラさんところへしに行かせといて………つか、なんで、お前はいないんだよ』

「ひとりは不安だったって、うったえとんのか、未成年よ」

『ちげえ、お前も、だからー………均一労働として、一緒に現場に、こい! へんな顔め!』

「顔の愚弄は完全に侮辱罪方面の犯罪だが、ゆるそう、俺は心が優しいからな。ただ、つぎ言ったら、お前んちのポストに、真っ赤な手編みのマフラーを流し込んでやる。と、まあそんな、虚言はさておき、俺だって、お前と同じだった」

『お前とオレは違う』

「いや、お前と、同じだ、スカウトだ、スカウト」

『スカウト?』

「そこにいるキラヒラさん同様、セカイを追い出された人間をスカウトしに行ってる」

 そう発言すると、キラヒラは『いや、あ、わたしは………』と、もとより薄弱な意気をさらに、弱めた。画面の大きさは同じなのに、小さくなったような印象を放つ。

「まあ、少年、こういっちゃあ単位のでかい話になるが、俺たちゃ、いま、仲間を探しているワケで。そう、魂の戦士たちを」

すると、横からアップルが『魂の戦士って、うーわ、派手にくたばりそうなプロジェクトとかで言いそう』と、いった。『チーム内部に時限爆弾を感じるわ』

「ああ、しかも、カタカナでプロジェクト、じゃなくて、ひらがなで、ぷろじぇくと―――みたいなプロジェクトでな」と、青枝は好きにそういって続けた。「キラヒラさんみたいに、セカイを追われたセカイのユーザがいる、今回のカミの出現でな」

『お前もそうだろ』

「俺はカミが現れる前に追い出された」

『そうだった、笑える』

「だから、こうして手わけしてスカウトを活動を―――って、アップル、てめぇ、説明してねえのか」

『うん、してない。ノリでいける気がしたので』

「まあ、いけるか」

『モンスター脳同士だな』ヒトロがコメントを寄せる。『同じ老人ホームとかにはいりたくないタイプだ………』

 青枝は「若年層ながら将来にことをしっかり考えているんだな」と、コメントに対してコメントを返す。「その描いたお前が将来、ぜんぶ破滅すればいいのに」さらに、邪悪な願いを放つ。

 その間も、青枝は階段を降り続ける。狭い階段はうねりが利き、地下へ地下へとくだってゆく。入り口付近でよわかった明かりも、さらによわまり、空気も淀んでいる。

 ヒトロは『で、お前はいま』と、漠然とうながす。

「キラヒラさん以外の人材への声かけだ、かつてセカイで派手にやってたユーザのもとへ」

『スカウトって………お前はできるのかよ、うまく………オレ、けっこう、焦ったんだからな、やったことねえし………』

「いいか、少年、ネットの世界で、大暴れしてたような人材はな、たいてい、現実世界では堅実だったしする。キラヒラさんがそうだったし」

 青枝がそう発言すると、キラヒラが『う、わ、わたしを見ないで………』と、注目停止をうったえてきた。『望まない注目は………冷ややっこメンタルのわたしには………』

「俺のような人生経験が煩雑な者に任せれば、堅実な人間のスカウトなんて、たやすい、たやすい」

 ヒトロは『不愉快な種類の自信表明だ』と言い切った。『おい、で、どんなのを、引き入れるつもりなんだ、ばか』

「ばかは余計だ、ばか」

『ああ、わるかったな、ばか』

「おおう、わかればいいだよ、ばか」

 アップルは『てめぇら、不毛』と、苦言を呈した。『ありあまる不毛を停止しろ』

そこにキラヒラは『あの、わたし、もういいですか……消えて、願わくば、縁も切っていただく方向で………』と、うったえたが流された。

 そんな声、このうったえ、この世界に存在していないかのように、誰も拾わない。

「地下の最下層までついた」と、青枝が淡々とした口調で、大仰にいった。「なるほど、この店か」

『だから、どんなのを引き入れるんだよ』そこへ、ヒトロは食い下がる。『具体的に答えろよ』

「伝えたはずだ、引き入れるのは、セカイで暴れるようなキャラクターたちだって。これから会う人物もそうだった」

『いや、お前がうまく対応できる気がしない』

「何度も言わすな、向こうのセカイで、はっちゃけるようなのは、リアルでは気が弱いのが多いんだ」

『偏見だろ』

「おっと、じゃあ、通信断つぞ。ドアの向こうは、撮影禁止のようだ。こんなん持って入って、勘違いされてもアレだし」

 そういって、青枝は一方的に通信を切った。携帯端末の画面は、端末の初期設定の壁紙となる。

「まったくもって、キッズだな。女に不慣れで、おどおどスカウトになった自身の醜態のストレスを、俺にぶつけやがって」青枝は上着のポケットへ携帯端末をしまいながら言う。「哀れな」

 そして、ドアを開けた。

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