第23話 画面、向こう

『キラヒラさんは、そんなデスゲームをつぶすことでプレイヤーで有名』と、アップルは画面の向こうから言う。『だった』

 末尾には、過去形をつけくわえた。

 ヒトロは自室の床に腰をおろし、壁によりかかりながら画面を見ていた。時刻はまもなく、午後十一時を過ぎようとしている。

 ヒトロが握った携帯端末の画面は、二分割され、右はアップル、左には顔にマスクをした家電量販店の店員、紀平。

 そして、アップルが、キラヒラ、と呼んだ女性だった。

『ね、キラヒラさん』

 アップルが呼びかけると、彼女は『うっ』と、短いうめき声を放ち、やがて「がほっ、どほっ!」と、せき込んだ。

『あら、気管支が脆弱なのかしら?』

アップルがといかけると、キラヒラは「お、おっ………」と、声をつまらせた。

 わかりやすく、動揺している。マスクをしているものの、見えている目は、完全に泳いでいて、落ち着きがない。

 脅迫されて、ウェブ会議に参加させたれている様子が、濃厚濃密に画面からあふれていた。

 キラヒラは『お、おかねなら………』と、いって続けた。『な、ないぞ!』

『うん、いや、わたしもないよ、お金』アップルは回答として、適切とは評価できないものを返しつつ、言った。『っていか、ごめんなさいね、キラヒラさん、仕事終わりに。ああ、そこ自分の家?』

『そ、そ………そうさ!』キラヒラはなぜか焦って言い返す。『じ、実家暮らしが好きなのです!』

 さらに聞いてもいないこと、そして、攻めてもいないことを、跳ね返すようにいった。

『キラヒラさんって、リアルはアレなのね』

『な、なんですか』

『生まれたての怪獣みたいな迫力がある人なのね』

 そういわれて、キラヒラは黙り、数秒ほど考えるようなそぶりをみせ『よくわからないけど、きらいな表現じゃない、わたしがいるぞ?』と、独り言のようにつぶやいた。

 そこへヒトロが呼びかける。「アップルさん、キラヒラさんに本格的な説明をしないと」

『え? ああ』

「いまのところ、脅迫的な様子で、呼び出したので、ちゃんと話をしないとだめです。キラヒラさんに」ヒトロは言いにくそうにうながす。「大人なんで」

『はいはい』

 アップルはかるく、いなし、いった。

『あのんね、キラヒラさんって、有名なデスゲームクラッシャーだったじゃん? 気に食わないデスゲームとかを、システムの隙間とか突いて破壊しちゃう。えーっと、なんだっけ? なんかのときは絶対にプレイヤーがクリアできないデスゲームを用意した奴が嫌いだからって、わざとバグったキャラの状態でゲームに参加して、最終的にデスゲームをデスしたとか、やってたじゃん?』

 そういわれ、キラヒラはわかりやすく目を泳がせた。

『で、そういうことやってたから、この前、セカイに出てきた、カミにアカウント停止にされたんでしょ?』

『………いや』と、キラヒラは目を反らした。『その件につきましては………事務所を通して………』

『ん、事務所?』

『いえ、ないです、事務所なんて………そ………存在しません………防御障壁としての虚言で………すみません申し合わけありません………』

さらに、ぶつぶつ続けた。

『でね』

「なっ、なにが目的なのでしょうか………」

『一緒、カミを消し去らない』

 そう言われ、虚をつかれたような表情を浮かべた後『えっ』と、だけ反応した。

 そこへアップルは続けた。

『カミを消して、セカイの消し去り仲間にならないかい?』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る