第19話 盗んだ、ものは

 青枝はカミが話す動画を見終わり、画面を閉じた。

 顔をあげる。向かうには、じっと、こちらを見ているヒトロがいた。無表情と、複雑そうな顔でしばらく見合い、やがて、青枝が動画を見ていた携帯端末をテーブルへ置いた。

「どういうことか、全然みえてこねえけど」青枝は立てある別端末の画面の中にいるアップルへ向けて言う。「どういうにも、狂い咲いている、って印象だけは受けた」

『カミ』アップルは、まず、ただ発音しただけみたいに言った。『人の似姿からつくられたカミ。そのカミは、そっくりなの』

「俺の姉さんだ」

 ヒトロは断言した。

「死んだ姉さんに、うりふたつだ」

ヒトロは目を反らさず、また断言した。

「カミの姿が、おまえの姉さんそっくり」青枝はテーブルへ頬杖をつく。「いや、俺は、お前の姉さんの実物にも、仮想身体の姿でも見てねえから、わかんねえけど、そういうことなのか?」

「カミ」ヒトロが言う。「あれは姉さん、そのままだ」

『そうね』アップルが捕捉する。『そのままだった』

青枝が「そのまま」と、復唱し、問いを投げる。「そのまま、ってなによ」

『わたしは会ったし、知ってる、ミチカちゃんの仮想身体そのままだった。カミの、顔も、声も、服装も。しゃべり方以外は、すべてミチカちゃん本人』

アップルが沈んだ声で語る。青枝は「ミチカ、ちゃん、か」といった。

 すると、ちゃんづけが、気に障ったのか、ヒトロが不快そうな顔をした。それを見て、青枝は「感情の芸が細かいなあ、お前は」と、いった。「だから、そういう瑞々しい感性とか、青春時代にちゃんと置いてこいよ」

 そう伝えて、パフェの残った容器を掴み、スプーンでほじり、口の中へかきこむ。

「よーし、脳への糖質補給は完了したぜ。これで複雑ハードな内容を聞いても持ちこたえられるはず。で、なんだよ、お前ら、じゃあ、ミチカつー、その亡くなった乙女さんが、カミになったとでもいうのか」

『違うと思う』

 純然たる直感。それによるらしき回答を返す。

『カミが盗んだ』

 そして、ひらたくそういった。

 青枝が目を細めると、次にヒトロがいった。

「カミに姉さんのカタチと声が盗られた」

 そう言われ、青枝は黙っていたが、やがて何かいいかけたものの、とりやめて、自分の左ほおを、かるく、さすった。

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