第17話 新システム、新サービス
『私がいる、このセカイのすべてが生の人間じゃなく、ぜんぶコンピューターで運営されてるって件、この前、発表されたやつ』
「ああ、あれな」青枝はパフェ用のスプーンでフライドポテトを、不安定にすくいあげつつ、反応する。「刺激あるよなぁ、そのセカイ、全部、AI? が、運用とか、メンテしてるんなんて。人間界に、激震だわ」
青枝は使用する単語に反して、微塵も驚嘆した様子を見せない。
「だって、電気代も自力で稼いでるんだろ、AIくん。どういう仕組みなんだろな、サーバーとか」
『このセカイの仕組みを造ったのは、誰かってのもわかってないけどね。でも、セカイの運営には、人間がまったくいないのは、どうもホントみたい。そりゃあ、末端の物理的な作業があるけど、でも非物理的な部分、新規システムの追加とか、バグの修正とかも自力でやってるみたい。もう、世界中で、それを裏どりした動画が溢れてるし』
「血が沸く話しではあるよな、真実はさておき」
ふたたびフライドポテトをスプーンですくいあげ、口へ放り込みつつ言う。
ヒトロはそんな青枝を睨むように見ていた。青枝は「敵を見る目が止らないな、お前」と、言い返す。
『ま、人間が造ったものじゃないSNS―――セカイを、私たちは長年、そうとは知らないでやってたワケよ、うかれ、ポンポン気分でね。楽園づくりに依存していた、わたしだって、さーぱり、気づかんかったよ。まさに、一本とられたぜ、人類』
アカウントさえ取得すれば、誰でも無料で仮想空間上に、自身の世界を所有することができる。無論、無料では所有できる世界の大きさには制限があり、セカイ内の構築も限界がある。しかし、それでもセカイは人々に充分な自由意識、情報取得、娯楽教授を提供している。
セカイ自体は、後発のサービスだった。同様に、アカウントを取得すれば、仮想空間に、自身の領域を所有できるネット上のサービスはいくつかある。同種のサービスで、セカイだけが、突出しているわけでもなかった。同様のサービスでいえば、業界四位くらいに位置する。それでもサービス利用者は、一億人に迫る。
『つっても』アップルが肩をすくめてみせた。『それが発表されて、人間どもに知れわたっても、いまんところ、サービスに問題が発生はしていないのよね。いや、カブとお金の方面はよくわかんないけど、わたしには。でも、なにやら、そのへんも、ゴチャゴチャ調整されてるようで』
話を聞きつつ、青枝はヒトロを見た。
この話に、ヒトロの姉のことがどうかかわってくるのか、まったく見えていない様子だった。かかわる気が、微塵もしていない。
「きっと、人間よりかしこいんだろ」青枝はパフェを食べながら言う。さらにコーラで流し込む。「うまいな、ああー、食いもの食えるの、人間でよかった、俺」
『けっきょく、発表後はとくに致命的な問題は起きてないよの。いや、AIが用意した、こんなセカイいられるかー、って、叫んで、やめてった人たちもいたけど、サービスに致命傷を与えるほどの数じゃ全然ないし。このセカイで名をあげた有名ユーザはまずやめてない、ほれ、誰が運営しようと、その人の人気はこのセカイにここにあるし、じゃぶじゃぶ儲かってんだろうしね。ああー、ま、ちょっとスポンサー関係は減ったけど、でも、増えたのもあるから、規模は変わらんそうや』
「よく知ってんな、お前」
『説明したでしょ、いまや、その種の解説、考察動画の市場が盛り上がってるの。わたしもずっと見まくりさ、もう、あやしげ情報博士になったね、こりゃあ』
「自由時間の多い人生の勝利って、感じだな」
『余裕多めの生涯なだけよ。言い方気を付けて』
そのやり取りを聞き、ヒトロは頬杖をつき「どっちの言い方も屈辱フレーム内じゃないのか」と、指摘した。
すると、青枝と、アップルは、同時にヒトロへ顔を向けた。無言のまま、数秒ほど見て、今度は、青枝とアップルが見合い。やがて、お互い視線を外した。
「なんだよ、いまの間は」
『屈辱フレーム、って、センスが虹色なのね、ヒトロくん、ってば』
「妙なお褒めの言葉を送りつけてくんな………」
「あ、こいつ、女に照れてるのかな」
青枝がそういうと、ヒトロは「この表情は迷惑を表現した表情だ」と、言い返した。
『つまり、このセカイが』画面の中のアップルが右手をあげて示す。『AIの造ったもんだと、わかった後でも、現時点で壊滅的な混乱は起こってない。細々のはあるけど。だって、いままで通りのサービスは受けられるんだもの、人気セカイは人気のまま、儲かる人は儲かるまま、セカイを手に入れたい人は、今日からでも自分のセカイを手に入れられる、そして、手に入れたセカイは自由自在。自分のセカイで歌でも動画でも自己表現したい放題。自分のセカイへ誰でも招きたい放題。なにもかも、そのまま、真実が明かされたあとも、セカイは変わらずよ』
「問題なさそうだな。聞いた感じだ、そういうもんだろうな、って思えるわ」
『というか、あんた、セカイを造ったのが人間じゃないって、ホントにニュース見てなかったの?』
「最近のニュースだろ、俺は時代を後から追い駆けるタイプなんだ」
『ふざけやがって』
「まじめになろうか」
『それはそれで、接しにくくなるデメリットがあるわね』
「ずっと、ネットは触れないようにしていた」
『うそつけ』
「でも、セカイの件は、知らなかった」
『で』
アップルは一区切りを入れた。
『セカイを造ったのは人間じゃなかった、って、カミングアウトの後、既存サービスはオール維持して、新システムは導入してきた』
「新システム」青枝はその部分を切り取り、言った。「新サービスじゃなく」
『そう、新サービスではなく、新システム』
「というと」
『セカイは、セカイにカミを配置した』
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