第16話 チョコレートパフェ、フライドポテト
「ファミリーレストラン」
ボックス席に座りながら言う。
「に、ファミリーじゃないものと来た」
「なにいってんだ、おまえ」すかさず、ヒトロが言う。席の向かいに座っていた。目の前にはドリンクバーから持って来たホットコーヒーが置かれ、湯気立っている。
ふたりは、窓際の席で対面していた。陽は沈みかけている。
店内には学生服の客が多く、談笑する者たち、黙々と勉強する者たち、集団で携帯端末をいじる者たち、ペンタブレットで何を描いている者たちなど、店内での過ごし方は多岐にわたる。
一方で、青地のジャージに、学生服のヒトロとの組み合わせは、はたから見ると、反社会組織の末端と、事件に巻き込まれている未成年にも見える。
なにしろ、青枝の目が、あまり、社会性を感じない。無情に、よくない目をしている、と言われてしまえば、そうとしか見えない目つきだった。
そして、青枝の店内での構えは、足を組んで、目の前に、チョコレートパフェと、フライドポテトのコーラだった。
ヒトロが「子どもの夢、叶えたみたいなオーダーだな」と、いった。
青枝は相手の言及に対しては答えず、代わりに「よし、ここなら、ふりー、わいふぁいだ」と、食べながらいった。
片手でスプーンを握り、片手で端末を操作すると、窓際へそれを立てておく。縦長の画面に、白いシルエットがうつる。耳には林檎のイヤリングが揺れていた
「アップル」
呼びかけると、画面の向こうから『青枝』と、返して来た。
「接触したぞ、この―――名前なんだったけ? ああ、ヒトロか」
「おまっ………下の名前で! しかも呼び捨てすんな、不愉快だ」
「そうか、じゃあ、まあ、フユカイくんに会ったぞ、でー、このフユカイくんが、だ」
「まて、勝手に命名とかもすんな。なんだと、フユカイくん、って、レトロマンガのタイトルみたいに呼ぶな」ヒトロは言って続ける。「わかったよ、ヒトロでいいさ、ごみ人間が」
『仲が悪そうね』
「悪のチームって感じがするだろ」
『ううん、わかんねえ』アップルは顔を左右に振る。画面上で、白く長い髪と、林檎のイヤリングも揺れた。『そういったあんたとわたしの上質なセンスの不一致って、奇声あげたくなるぐらいストレスになるから、その種の発言は二度としないで』
「約束しよう」
『守られる気が、ゼロだ』
ふたりが話していると、ヒトロが「無駄話ばっかしてんじゃねえよ」と、いった。「あんたら、ガキだな」
青枝はいった。「おお、プロフェッショナル会話に圧倒されんだな、少年よ」
「脳のどの部分を使えばそんな発想になんだよ」
「義務教育ってのは懐が深いんだ、よって、こういった俺らのような人間も育つ」
『まあ、社会が悪い』アップルが追随して言い放つ。
ヒトロはなにひとつ、感心することもなかった。「いい加減にしろよ」
「アップル」
と、青枝が画面を見ずに呼びかけた。
『あいよ』
「俺を復活させた理由、そろそろ聞くよ」
『ようやくね』画面のアップルはただ揺れているのみだった。だが、仮想身体の向こう側で、ため息を吐く気配があった。『じゃ、話す』
「まてよ、お前、マジでなにも話を聞いてないのか。なにも話を聞いてないまま、ここに来たのか?」
「アップルを信用しているんでね」青枝はチョコレートパフェの容器の底を右手で掴み、スプーンは使わず、その先端を齧った。「きっと、事前に聞かされたら、まずここにすらこないよ、俺は。ここに来るために、あえて聞いてないパターンを選んだ。ああ、そもそも信用ってのは、こいつは確実に、俺へひどい目に合わせるって決まってるって、闇色の信用な」
「それがわかってて来るってのも、なんなんだよ」
「よし、さあ、話せ」
チョコレートパフェをテーブルへ置き、フライドポテトをつまみ、それをコーラで流し込む。
「さあ、アップル」
『うん、話す話す』
画面の向こうから、アップルがそう応じた。
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