第14話 初夏、不快
二週間後、青枝はディスプレイが罅割れた自動販売機を背に立っていた。
上は青いジャージ、下は黒いズボン、スニーカーはボロボロだった。
青枝の頭上には、真昼の曇った空が広がっていた。その空を、大型飛行機が通り過ぎてゆく、西へ向かって飛んで行く。
青枝の向かいには、学生服を来た少年が立っていた。
高校一年生になった、ヒトロだった。
ふたりは無表情のまま、向かい合う。
やがて、ヒトロがいった。
「不愉快」
対して、青枝は少し時間を置いてから言う。「春だね」と。
「もう初夏だ。季節も把握できないのか、てめぇは」
不機嫌そうに言う。
「愛想というものがねえな、お前」青枝は苛立つでもなく告げた。「愛想ってのは、お前、いいぞ、いいもんだ、タダで使える万能ツールだし、ちょいと、己の心を完全に殺して、他人にへらへら接するだけで、相手を思い通りにコントロールできるんだぞ」
「くだらねえんだよ」
「あーあ、よく聞きゃ、声変わりも果しちゃってから、まあ」青枝は肩をすくめた。「あの頃が、なつかしいよ」
青枝は体重をかけない発言を重ねる。大きく息を捨て吐き、自動販売機を見る。罅割れたディスプレイには、透明なテープが張って補修がしてあった。それを見つめ、自動販売機で缶のブラックコーヒーを買い、あけて一口飲んで、ふたたび自動販売機を見る。
残された皹を見て「弁償したのに」と、こぼした。
「姉さんは死んだ」
唐突に告げられた。
青枝は缶コーヒーを手にしたまま、ヒトロを見た。やがて「キツいな」といった。
「半年前だ」
ヒトロは、また、放り投げるように言う。
「その話を、なぜ、俺に」
青枝が問いかける。すると、ヒトロは「うっせぇ、この話をしなきゃ、この先の話できないからだ」と、いった。
「俺は、アップルからは何も聞いていない。戻ってこい、って言われて、今日、ここに来た。お前と待ち合わせだってことも聞いてなかった」
「なにも知らないで来たのか」ヒトロは驚き、すぐに不信そうに見た。「どういう神経だよ、なにも聞いてないで、なんで」
詰問するヒトロの前で、青枝は携帯端末を取り出し、操作しながら言った。
「なにしてんだよ、おまえ」
「タクシーをお願いしている」
言って、顔を向けた。
「墓、参ろうぜ、お前の姉さんの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます