第13話 戻る、どっちに
その発表動画を、青枝は端末画面で見る。動画が終わると、停止ボタンを押し、操作して、アップルへ通話をかけた。
『はいよ』
「偽装動画じゃなさそうだな、公式の方で言い放ってるし、このセカイを造って見守ってるのは、無生物の我なり、っと。おもしろいな、ええ、つか、だったら、このセカイの運営する人口知能ってのは、誰が造ったんだってのが気になるんだろうな、みんな」
『冷静ね』
「俺は基本の動画配信者だからな。厳密にはセカイのユーザじゃねえ」
『わたしの方は、もろ直に、ぎゅえー、って、ひっくりるかえったわ。ベッドから転げ落ちたもの』
「そんなマンガみたいな動きするやついるんだな」
『でもって、これを知ったあんたに用件があるわけ』
そのとき、青枝の背後から「Are you talking to her?」と、男の声をかけた。
青枝は「No, it's a stalker」と、返す。さらに「I'm in the process of getting rid of it now」と、続けた。
「Don't overdo it」と言い、その男は笑いながら言って遠ざかる。
『ん? なに、いまのは』
「なんでもねえ、きっと、空耳のハードなやつだろう」青枝は淡々とした口調で問いかけを跳ね返し続ける。「で、俺に用件とは」
『じゃ、冒頭に戻る、ちょっとわたしに付き合ってほしいの』
「そのこころは」
『またあの町へ行って欲しいの』
「あの町って。あの町か」
『そう、あんたが社会的に破滅するきっかけとなった町。あのビルある、あの町だ』
「いや、行って欲しいたって、お前。ここからだとすぐにはいけない」
『どこよ、そこ』
「どこというか、仕事先だ」
『なんの仕事だ』
「ドライバーだ、運送業だ。求人情報に、普通免許さえあれば、君でも出来るって書いてあってな、しかも、一攫千金も夢じゃねえ、とかも書いてあった。とても高収入であると、なんか民間警備会社の子会社だ。ま、いまでも、よくわかってないが、そんなんだ。いや、まあ、たしかに、スゲェ給料は貰えるんだが、その給料を消費して自前で装備買う、って仕組みがあってさ、装備も会社が用意してくれるのあるにがあるだが、それが、ぺらぺらの、ぺらイチ枚みらいな装備なもんで、やっぱ自前で買うしかないんだ。ゆえに、給料も手取りにするとアレなんだよなあ、やせ細るだよなぁ、金額。ちゅーか、高いんだよ、防弾のやつって、どれも、おお、やすいぜ、これでいいや、って思って選んだら、すぐ貫通したし、なにも守る気がねえ、貫くチカラに負けすぎなんだよ、商品開発のとき、品質判定会議とかしてねえと思うんだ。ああ、あと、ときどき、自前で護衛の人とか雇う場合もあるし、そうなると出費が増えて俺の手取りはやっぱ。細ってガリガリよ。なにしろ、一応、俺は民間人なんでな、走る以外はできんし」
『まじ、なんのビジネスなのよ』
「なんかさ、運送しているのが民間人扱いだと、軍的にはやられても、兵士の戦死者扱いカウントされないんで、政治的に、アレな塩梅なんだとさ」
『聞かされるわたしに特殊な神経の消耗させる話すんなよ。なんで、んな仕事しとんのさ』
「いや、あの時期、国内じゃさ、俺、逮捕の件で、顔と名前と、住所と友だち関係は、みんなにバレてて」と、青枝はいった。「あのコンディションじゃあ、職の面接も、ややこしくなりそうだろうな、って思ってたとこ、この求人をみつけたってシナリオさ」
そこまで話し、青枝はため息を吐く。
アップルはしばらく間をあけていった。
『あんたのことなんぞ、もう誰も覚えてないさ』
「だろうね」
『あんたのアカウント停止は、わたしが問い合わせフォームに頼んで解除しといた』
「おっと」青枝はおどけてみせる。「まてまて、俺のパスワードも教えてないに、どうやって」
『手段はいろいろある。そのいろいろな手段の説明はめんどいから割愛。とにかく、あんたの配信アウントは生き返った。ねえ、知ってるかい? 一度、死んで生き返ったものは――――うんにゃ、まあ、そういうのはとにかく』
「すぐにそっちに戻る」
青枝はそう告げた。
『戻るって、セカイに? 大陸に? どっちにだ』
アップルがそう問い返した。
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