第11話 あの果実、から

 携帯端末を操作し、検索結果一覧を眺めていると、通話の着信で画面が暗転した。

 着信相手の名前は『あの果実』と、表示されている。

 青枝はしばらく、無表情で画面を見ていた。

 ひどく顔が焼けている、頭にはタオルを巻き、服装も半そでだが、妙にやぼったい。

 頭上では、太陽がつよく発光している。吹く風には赤い細かな砂粒がまじり、汗をかいた肌にはりついた。

 青枝は通話ボタンをおさなかった。しかし、着信は続く、音はなり続ける。

「舌打ちしてから出るか」と、いって、青枝は「ふが」と、舌打ちとは思えない音を口から発す。

 ナチュラルな舌打ちの経験がないため、舌打ち成らざるものを放ってから、着信ボタンを押した。携帯端末を口元に寄せ、水平に保つ。

「はい、俺だ」

 雑な応対をする。

『おう、わたしである』

「アップルか」

『青枝』

「ひさしぶりだな」抑揚のない口調で言う。「ひさしぶりに声がきこえて、うれしさのあまり、涙がとまらない」

『涙がとまらないなら目の異常だ、眼科へ飛び込め』

「涙がとまったよ。で、心臓もとまるまえに、なんの用事だ、言え」

『あんた、いま何してるの』

「何って、仕事だ、ビズネス中だ」青枝は遠くを見る。雲一つない青い空がある。「チャンネル、停止になったしな」

『自販機ぶっこわして、ちょっとした逮捕になったのは、完全にあんたの自爆でしょ、挙動の雑さがアダになったわね。犯罪者は、動画のアカウントは停止。きびしい掟が発動したまでじゃないの』

「監視カメラが設置されているとはな」

『一年ぶりよね、話すの』

「ああ、おかけでお前のことはすっかり忘れて、新しい自分を生きているよ。ときどき、思い出したように過去の自分に固執しながらもな」

『複雑不整合な発言だ』

「で、急にどうした」

『ちょっとさ、付き合ってほしいんだよね』

「桃色遊戯方面の交際は無理だぞ、俺はお前の実物を見てもねえし。心だけで好きになれるタイプじゃないんだ」

『冗談はさておき』

「ああ、冗談はさておき」

『セカイの件、しってるよね』

「セカイ」

『知らんのか、まさか』

「いや、昨日、今日と白熱してて、ビジネスが」

『セカイの運営は生の人間が関与していなかったとさ』アップルは、なにかの文面をなぞるような口調でいった。『仮想世界提供サービス、セカイは、完全に、自動で人工知能が運営していたと発表されたんよ』

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