第09話 無名、十九歳
たとえ大量とはいえ、市販の花火から取り出した火薬をあつめてつくった爆弾もどきのしろものに引火させただけでは、とうていコンクリートでつくられたビルを吹き飛ばすことはできない。結果、つよい発光と、小爆発を起こしたものの、ビル内の各所をわずかに焦げさせるだけの損害に留なり、すべての火薬がはじけ飛んでも、ビルがグラつくことは微塵もなかった。
しかし、静かな夜の町の中で起こったそれは、消防車がかけつる大きな騒ぎとなった。翌日には全国的な三面記事的になり、テレビニュースとして報道された。とうぜん、ネット上でもニュースになった。怪我人は誰もおらず、愉快犯、ならず者の蛮行として、書きただされる。町の中に十七年もつくるかけで放置されたビルについても、書かれたが、その箇所は、まったくといっていいほど、注目されず、翌日にもう、ビルがある町で生きる人々以外、誰も話題にしなかった。
ましてや、ビルのある同じ町で、別件で逮捕者された者のことなど気にもされない。
動画配信者の逮捕。
しかも、無名の動画配信者の逮捕。
無名であり、逮捕され、小さな報道記事になって、名前も書かれたにもかかわらず、悪名より、有名になることもなかった。
『青枝 感矢(ゆざき かんや)』容疑者。
十九歳。
自称動画配信者。
自動販売機の損壊で、逮捕。
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