エレメンタリーダンジョン-スコアアタック

Ep.6 -スコアアタック:01-

「お兄ちゃん!」

 自身の体力を確認する。

 …あと95、まだいける。

「…ちぇっ、倒したと思ったのに」

 僕の右手を切り落としたプレイヤーがそう呟いて後ろに下がる。

 UQMを発動してそのプレイヤーの懐に潜り込む…が、突き出したナイフは軽くいなされてしまう。

「甘いね、君」

「そりゃ、本格的なCQCなんて知りませんからね」

「ふぅん。それでこれ…。でも、やっぱ気付かない?」

 そう言って、僕の足元を指差すプレイヤー。

 スモーク―――。そう気付いたときには、周囲は爆発したスモークグレネードの煙で満たされていた。

 …でも、これなら。

「もらった!」

 そう言って振り下ろされるナイフを僕のナイフが受け止める。

 受け止めるだけ、それで十分。

 だって、僕には最高の妹がいるから。

「―――っ!そうか、もう一人は…!」

 僕から見た前方。プレイヤーの背後からスモークを掻き分け、接近する渚。僕との鍔迫り合いをしながらそれに気付いたプレイヤーは、僕か、渚か、その迷いの所為で、ほんの僅かに力が緩まる。

 どんなに緻密に計算された一分より、偶然の0.1秒が勝負を決めることは多い。

「くっ―――!」

 相手のナイフを弾き、渚の照準と合わせてナイフを突き立てる。

 直後、プレイヤーは赤い破片となって砕け散る。

「…なんでこう、初戦の引きが悪いかな」

「そうだね。でも、お兄ちゃんは強いから大丈夫だよ」

 僕でも結構押され…いや、あれは奇襲されたからかな。

「お兄ちゃん、はい。回復薬」

「ありがと、ミズ」

 渚から手渡された回復薬を飲む。切り落とされた右腕が戻り、体力も元通りとなった。

「…あ、順位上がってる」

 シルヴァさん達がやってくれたのかな?僕たちもPvPばっかりやってないで敵倒そう。

「…じゃあ、行こうミズ」

「うん、お兄ちゃん」

 中央辺りに周回してるアーミー・コンバットを渚のフェルメティが撃ち抜き、さらにそれで警戒状態になった周囲のアーミー系統の敵をナイフで斬り倒す。

「…っと、ライフルボックス」

 これもスコアになる拳銃が入っていれば、渚のフェルメティのマガジン補充もできるかもしれないし。

「…CEEAPシープ軽機関銃…」

 後で合流した時にアドラスさんにでも渡そう。

「お兄ちゃん、何かあった?」

「ん?うん。これ」

 僕がそう言ってインベントリからCEEAPシープ軽機関銃を取り出す。

「…これ、私たちじゃ扱えないよね」

「うん。アドラスさんに渡そうと思って」

「スピードは落ちたりしないの?」

「うん。インベントリの重さは考慮されないみたい」

「そうなんだ。じゃあ、この辺りの敵は大体倒したし、敵のリスポーンまで時間かかるから次進も、お兄ちゃん」

「うん」



 そうして次の階層に向かう為の転送ポート前に到達したが、転送ポートは起動していない。

 転送ポートの前に、モデルマンアーミー・マルチプルと表示されている敵がいる。その前に、盾を構えたアーミー・シールドが二体。

 僕はUQMを発動して、高速でアーミー・マルチプルの懐へと一瞬で潜り込む。流石にエリート系統の様に対応する事はできないみたいだが、せめてもの防御なのか、僕のナイフの当たる箇所の前に左腕を構えて防御姿勢を取る。

 直後、左腕から高速で形成される盾にナイフが弾かれる。

「…ナノマシン…?」

 盾は形を変え、先端が剣先の様に鋭く尖り始める。

「…お兄ちゃん」

 僕と渚が背中合わせになる。僕はアーミー・マルチプル、渚はアーミー・シールド2体の方を向いている。

 僕はUQMを解除して、渚と同時に、渚と逆方向に走り始める。

 アーミー・マルチプルはそれに合わせて左腕の盾の剣先の様な先端を僕に突き付けてくる。僕はそれを右手で受け流し、左手に持ち替えたナイフで胴体部に突き刺す。そして、アーミー・マルチプルの後頭部目掛けて渚がフェルメティを撃ち込む。

「お兄ちゃん!」

 …そして、そのままの勢いで僕に飛び込んでくる。バックステップで渚を受け止めながら勢いを殺し、ゆっくりと着地する。

「…ミズ、いきなり飛び込んでくるのは危ないって言ってるでしょ」

「だってぇ…お兄ちゃん成分が不足してるんだも~ん…」

「…いや、リアルで僕に抱き着きながらログインしてるでしょ」

「感覚無いからやってないのと一緒なの!お兄ちゃんにくっつきたいの!抱き着きたいの!匂い嗅ぎたいの!」

「…分かったから、取り敢えず今は待って。シルヴァさん達に迷惑掛かるから」

 僕に抱き着く渚の頭をそう言って撫でながら、今の順位を確認する。

「…もう50位…?」

「え?本当だ」

 始めた時、確か400位ぐらいだった気がするんだけど、一瞬にして順位が上がってる。

「…あ、もうこんな所まで…ケイさん!ミズさん!」

 そんなシルヴァさんの声が聞こえ、後ろを向く。

 そこにシルヴァさんとアドラスさんが立っていた。

「よぉ、無事だったか二人とも。まあ、聞く必要はないか」

「そちらも、無事で何よりです。…あ、そうだ」

 僕はインベントリを開いてアドラスさんにCEEAPシープ軽機関銃を渡す。

「これ、アドラスさんに」

「良いのか?」

「はい。僕も渚も扱えませんから」

「そうか。んじゃまあ、貰っておくぜ」

「さて、それじゃあ中層に向かいますよ」

 そう言って転送ポートへと向かうシルヴァさんに付いて行く。そして、僕たちは転送ポートで中層へと移動する。


――――――――

作者's つぶやき:アドラスさん、何と言うか軽機関銃を乱射している姿が何となく目に浮かぶんですよね。

あ、そう、因みになんですが、スコアアタック中は経験値が入らず、スコアアタックが終了してから順位に応して経験値が与えられる感じになります。

――――――――

よろしければ、応援のハートマークと応援コメントをポチッと、よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る