Ep.2 -NPCのクエストを受けてみよう-
「まさか初戦がプレイヤーキラーだとはなぁ…」
「ね。でもお兄ちゃんすごく強かった」
「そう?」
「うん!」
そう大きく頷く渚。僕は渚の頭を撫でる。
「…ん♪」
そう声を零して、渚はにへらと笑う。
「…じゃあ、とりあえずイングリットまで行こう」
ここは平原。少し遠くに見える大都市。多分、あそこがイングリットだろう。
「うん」
「イングリットに着いたら…渚の装備を整えないとな」
「お兄ちゃんは?」
「僕は…初期装備で、行けるところまで行ってみようかなって」
というか、普通に装備買うのが面倒なだけだけど。
そんな事を話しながら街道を歩いていると、不意に声を掛けられる。
「あ、あの…」
「はい?どうかしましたか?」
「お願いしたいことがあるんですけど…いいですか?」
その人の話を軽く要約すると、『母親が病を患っていて、治すのに薬草が必要だけど、その薬草は洞窟の中じゃないと取れなくて、危険だから取ってきてほしい』というものだった。
「…分かりました」
「本当ですか!?お願いします!」
そうお願いされると共に、視界の右上に『新着クエスト:1件』というポップアップが表示される。
僕と渚は、イングリットへ続く道を暫く逆方向に進み、街道とは逸れた所にある洞窟に来ていた。
「ここが、その洞窟?」
「そうみたい」
右上に表示される、『クエスト進捗:1/4』というポップアップ。
いちいち表示されるのも何だか鬱陶しいので、メニューからポップアップの表示頻度を中に変更しておいた。
「…ちょっと怖いかも…」
そう言いながら僕の手を握る渚の手を、優しく握り返す。
「大丈夫だよ、渚」
そう言って、奥へ奥へと進んでいく。
「…あ、あれ」
「ん?…箱?」
暗い洞窟の中に、枠の一部が光っている長方形の箱が見える。近付いて触れると、箱が開いて、中にはライフルが入っていた。手に取ると、視界の右下にライフル銃の名称と残弾数、マガジンの数が表示される。
「スウィフトライフル…」
僕はナイフで十分だし、これは渚にあげよう。装弾数はマックス45発。替えのマガジンも無いわけだし、今は45発しか撃てないけど。
「渚、これあげる」
「いいの?」
「うん。僕はナイフで十分だから」
「…ありがと、お兄ちゃん」
そして、洞窟のさらに奥の方へと進んでいく。暫くすると、地面や壁に草の生えた大きな空洞へと到着した。
「…薬草って、これかな?」
「多分そうだと思う。余った分は使いたいし、いっぱい採っておこ」
「そうだね」
そんなこんなで、薬草採取を始める。
■
「…このくらいかな」
「そうだね」
「じゃあ、帰ろっか―――」
僕がそう言いかけた途端に、僕と渚の間に魔法が着弾する。
「…ちっ、外したか」
…プレイヤーキラー?…いや、流石に二回も狙われることはないと思うけど…。
そう思いながら、魔法が飛んできた方向に目を遣る。そこには、禍々しい人型の何か、恐らく悪魔が空中に浮いていた。
「人の言葉、話せるんだ…」
「まあな、私は貴様らとは違って、賢いのだよ」
「あぁ、そう」
賢いと言われてもなぁ、正直…何とも思わない。
「私に物理攻撃は効かないぞ?見たところ、お前は短剣のみではないか。そんなもので私は殺せないぞ?」
「そう?案外どうにかなると思うけど」
「…お兄ちゃん、頑張って」
「うん」
悪魔が僕の視界から消える。その直後、僕の背後から攻撃が繰り出される。
さらに、そのまま後ろに下がり、渚の首元に鋭い爪を当てる。
「…渚、当たったらごめんね」
「…うん!」
トンッと地面を蹴り、そのまま悪魔の横を通り過ぎる瞬間、悪魔の手首を切り落とす。
「なっ…!?」
物理攻撃が利かないなら、攻撃する瞬間に実体化する部分を狙えばいい。
「ベーシックナイフ、マナブレード」
刀身が蒼白く光りだす。本来、魔法剣でしかできないことだけど、これも初期装備の特権。
「バカな…私が…私が!」
そう言って、僕に向かって魔法を乱れ撃つ悪魔。直撃コースに入る物だけをナイフで弾き、悪魔に向かって刃先を突き立てる。
悪魔の胴体の中央に突き刺さった刃で、そのまま右へ切り、悪魔の胴体を大きく切る。
「私が…負ける…など…」
「…お兄ちゃんに勝てるわけないよ?だって、お兄ちゃん強いから」
僕の背後から聞こえる渚の声は明らかに、僕の勝利を喜んでいるように嬉しそうだった。
直後、悪魔は赤い破片となり砕け散る。
「…さて、じゃあ戻ろうか、渚」
「うん。…あ、でも人前ではちゃんと『ミズ』って呼んでよ?」
「まあ、努力してみるよ」
そう言って、渚と一緒に洞窟を出る。
そして、初めに困っていたNPCの元へと戻る。
「…ありがとうございます!これだけあれば…母の病気もきっと良くなります!本当…なんとお礼をしたらいいか…」
「いえ、大丈夫ですよ。…あ、でも、素人知識で薬を調合しないでくださいね」
「はい!ありがとうございました!」
視界右上に『クエスト達成』とのポップアップが出たのを確認して、僕たちはイングリットへの街道を進んでいく。
――――――――
作者's つぶやき:初期装備って、実は意外と強い時ってありますよね。彼方くんはどちらかと言うと、初期装備が使えるのならいちいち装備買わずにそれでいいじゃん。っていうタイプなだけなんですけどね。
それはそうと、実体剣でもマナブレードを展開できるのも、彼方くんの言う通り初期装備たる特権ですね。
運営がこういうプレイヤーを想定して、初期装備使いの称号とかあるんでしょうか。
――――――――
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