第25話 オールレビュー⑦

 藍﨑藍「コールドスリープ、あるいはシュレーディンガーのドリーマー」https://kakuyomu.jp/works/16818093081950722100


 100年の眠りから目覚めたと言われた僕はいったい――。引用「「そう。あなたは2074年にコールドスリープの被験者として100年の眠りについた。そして、おめでとう。今日でちょうど100年が経った。今日は2174年7月30日」




 冷凍睡眠(コールドスリープ)。その言葉には覚えがある。それがきっかけとなり、抜け落ちていた記憶が少しずつ蘇る。脳裏に浮かんだモノクロ写真のような映像はきっと僕の過去だろう。」物語のプロローグのようにも読める。イメージを刺激する設定と内容でそうした仄めかしが上手いと感じた。僕は目覚めてこれまでのことを聞かされるのみで受動的に世界に気づいていく。タイトルも関係性を感じるけれど、関係ない読み解きで言えば、シュレディンガーの猫を題材として選んだ、夢見る者と捉えられる。波動関数の収縮をするまで事象と事象が確率的に重ね合わされている状態のこととも言える。この場合、観測者は誰かという問題があると感じます。また夢見るものは夢見られるものであるという仄めかしもこの話では重要で、古くは胡蝶の夢といったメタファーがあります。話を戻して量子力学では波動関数の収縮の際にその観測者の無限後退を阻止するためにフォンノイマン鎖の終点は意識としているので、意識状態の様子がSF的には重要だと感じました。なのでその意識状態がどういうものなのかの書き込みが欲しかったところです。


 蒼井どんぐり「じき生まれる」https://kakuyomu.jp/works/16818093081820419182


 二十年以上先の生まれの人物を示すスマートグラスAI、それはハルミネーションか? 引用「T大学の正門前に突然現れたその銅像は二宮金次郎像に似ていた。


 ただ、ところどころに違いが見受けられる。背中の薪は本のような形をしており、顔つきはどこか欧風で日本人には見えない。髪型は女性のように長く、結んだ先が顔の横から垂れていた。加えて、服装はおそらくアジアのものと思われる民族紋様の描かれた裾の長い服を着ている。よく言えば国際豊か、悪く言えばどこかチグハグな外見。


 しかし、見た目以上に人の注目を浴びたのは、彼(もしくは彼女)の生年月日が「2049年6月30日」だったことだった。銅像の製造日ではなく、元となった人物の誕生日だ。当時から見て、二十年以上も先、つまり未来だった。」小さな違和感を積み重ねていくことで不思議さやSF性を短いなかで立ち上げることに苦心の跡が見える作品です。いっぽう、その違和感が少し分かりにくさ、たとえば未来の人物の「情報」をAIが捉えたのか? 銅像に情報が書いてあったのか、といった部分での分かりにくさがあり、はっきりと叙述のなかで説明しきれておらず、少し起こっていることの整理が必要なように思いました。Googleレンズのようなイメージで臨みましたが、その盲点のようなところをついたのは発想の勝利で、星新一賞といったSFの賞でもその着眼点で賞を獲っている作品があるくらいです。

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