第21話 オールレビュー③

 鍵崎佐吉「囚人13番」https://kakuyomu.jp/works/16818093080855576807


 元死刑囚が集められて記憶編集に拠る矯正が行われている。俺は囚人13番と共に時間を過ごすようになるが――。引用「ここにいる者は元死刑囚で、本来であれば全員処刑されている人間だ。だが人道的配慮と社会貢献の観点から、俺たちには一度だけチャンスが与えられた。それは記憶編集による人格の矯正、つまり自らの記憶を消去して別人として生まれ変わり、一生を労働奉仕に捧げるという選択だ。俺たちは法的に決定した死から逃れるために、自ら同意してその道を選んだ。


 俺の記憶はその同意書にサインしたところから始まる。その記憶だけはあえて消さずに残してあるのだ。吐き気を催すほどの焦燥と恐怖の中、俺は震える手で自らの指紋を同意書に押し付ける。そして、それ以前のことは何も思い出せない。自分の名前も、仕事も、どんな罪を犯したのかも。そうやって俺は死刑囚からただの27番になった。」 記憶編集による矛盾をついたミステリーとも取れる。一方で未来の刑務所の暗い側面を映し出すSFとも。いつかだれかに出会ったかもしれないデジャブがここではキーになりそうな主題のように感じたが、それを語るにはもう少し大きな字数が必要だったと感じる。


 rei「2084年」https://kakuyomu.jp/works/16818093081046040366


 監視社会を笑う小説ですかね。被疑者植戸はある嫌疑をかけられている。取調官は小原である。その一幕である。引用「「お前は自分が何をやったかわかってるのか」


 ステンレス製の机を何度も叩く当局職員─小原円(おばらえん)の唾が顔にかかる。頬に当たった唾は冷たくなって気持ち悪い。


「それだその顔だお前は考えるヤバいやつだ」


「そんな大げさな」


 小原はヤバいやつと僕を指差した。」小説というよりこれはショートコントみたいな内容でした。面白さと笑いにすべて全振りしたような話で大いに笑いました。ヤバいという言葉を連呼することによってその言葉がある種のルール性を持っているというSF性は意外と気づかれないのではと思います。今回は笑いに焦点が当たりましたが、未来の監視社会の背筋が凍るような展開も見てみたい気がします。


 秋待諷月「アイの代名詞」https://kakuyomu.jp/works/16818093081110616971


 セミインプラント技術によってコミュニケーションのコストが下がった時代、テレパシー世代の若者とその親のちょっとした行き違いのお話です。引用「時代はウェアラブルからセミ・インプラントへ。頭蓋に穴を開けることなく正確に脳波を読み取ることが可能になった非侵襲型デバイスは、ついには通信機能も兼ね備え、今や一人一台の常時装着が当たり前だ。」説明パートの前半とドラマパートの後半に大別されるような構成になっています。説明パートで劇を回すことも挑戦して見て欲しいと思えました。父親が結果あのような態度になってしまったことをアイロニカルに語るのは上手いです。描写で設定を語りつつドラマを進める方向性もありえたと思います。

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