第19話 オールレビュー①

 カクヨムSF研4に寄せられた短編SFのレビューを掲載するコーナーです。


 紫陽_凛 「兄と皮」https://kakuyomu.jp/works/16818093080274408678


 安部公房に連なるような幻想、シュールレアリスム的な作品。兄の皮が落ちているという一見意味不明な状況から転がり出し、皮というペルソナを用いたミステリーでもある。冒頭は特に状況が大事なので引用したい。「夜の七時、家に帰ったら兄の皮が落ちていた。双子の兄の皮である。この世に自分と同じ顔をした男は兄しか居ないのだから自然この皮は兄のものと決まっている。私も皮を脱いだ覚えはないのでおそらくいや確実にこれは兄の皮である。兄はリビングでさして面白くもないお笑い番組を見ており、私に気づくや、「お帰り」と首を上向けた。」タイムパラドックスに挑戦したかったという向きを感じられて印象はよく、兄が殺しを行うことでなんらかの私の事情が変質するというようなSFストーリーの形に落とし込めると尚良いと感じる。タイムパラドックスというと親殺しのパラドックスが有名。また兄というものを悪のペルソナと置いたとき、古典的な怪奇小説メアリー・シェリー「変化」のような小説構造を導き出せている点も良いと感じた。


 八田部壱乃介 「エクスバディ」https://kakuyomu.jp/works/16818093080395010669


 電気信号を筋肉に対して微弱に流して、身体感覚を増強させるエクスバディ。その試験のため、弓道場に赴く。SFの基本形が発明ものならば、古式ゆかしいSFである。身体感覚の微妙な動きを弓道というテーマを選ぶことから立ち上げるところが上手いと感じる。引用(「そう言えば何故、弓道なんだ?」という疑問が再起される。


「筋肉を用いない武道だからです。最近は義手や義足などの発展が目覚ましく、場合によっては肉体をも凌駕しているのではないかとすら目されていますね?」


「オリンピックよりパラリンピックの方が人気なのも同じ理由からだろう。アクロバティックだからだ」


「その通りです。しかしどうでしょう、義肢は力を増幅させる方向にシフトしています。いわば骨や筋肉の代替品として」


「うん」大原は腕を組み、目を閉じると、「それで?」


「弓道(ジャパニーズ・アーチェリー)とアーチェリーとでは決定的に異なるところがあります。それは弓を引く際、筋肉によって──つまり力で引っ張っているわけではない、ということです。肩甲骨を開くことで引き分けているのですが……それは、実際に試して頂く方が早いでしょう。話が長くなってしまいましたが、つまるところ力を抜かなければない、これは義肢では再現の難しい動きである、ということなのです」)こういうSF的な理屈付け、義肢との違いの見せ方がすごいと思う。弓道をするという場面が人機一体となる小宇宙。

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