クラスで人気の陽キャな俺の幼なじみギャルは、陰キャな俺の部屋で人生最大級にデレる。

空豆 空(そらまめくう)

第1話 クラスで人気のギャルと今、俺の部屋でふたりきり

 俺は今、クラスで人気のギャルと俺の部屋にふたりきりでいる。


 そう聞くと、俺も陽キャな勝ち組に聞こえるかもしれない。けれど実際は、俺はただの地味で目立たない普通の男子高校生、またの名を陰キャ。


 対して部屋に来ている乃愛のあは、明るい髪色のロングヘアに、色白な肌に長いまつげ、ピンクのマニキュアをした、誰がどう見ても陽キャなクラスで人気の可愛いギャル。


 そんなクラスで人気のギャルが、どうして冴えない俺の部屋なんかにいるのかというと。……俺と乃愛は、小さい頃からの幼なじみだから。


 子供の頃からきょうだいのように育った俺達は、良く俺の部屋でゲームをしている。


 そして今日、たまたま学校の帰り道で会った乃愛の元気がなかったから、気晴らしにゲームでもするかと誘って今に至っている。


 高校生の男女が部屋にふたりきり、そう聞くと甘い関係を想像する人もいるかもしれない。けれど俺と乃愛に限って言えばそんな事はあり得ない。きっと乃愛は、俺を男として意識したことすらないんだろうな。


 だって……


悠生ゆうせい、今日は格闘ゲーム格ゲーやろー? ぶっ飛ばしてボッコボコにしたい」


 乃愛は短いスカート丈を気にすることなく床に膝をついてゲーム機に格闘ゲームのソフトを差し込んだ。


 俺、格ゲーでいいなんて言ってないんだけど。

 スカート丈、少しは気にして欲しいんだけど。


 ――スカートの裾から覗く乃愛の白い太ももに、つい目が行ってしまう。


「悠生ー? ねぇ、聞いてる?」


 ふいに乃愛がこちらへ振り返ったから、俺は思わずよこしまな視線を逸らして体裁ていさいを繕った。


「んあ? ごめん、聞いてなかった」


「もー!! 悠生の方から誘ったんだからちゃんと聞いててよね。今日は悠生ボコボコにしたい気分だから、格ゲーしよって言ってんの。いいよね!?」


 乃愛はそんな俺の顔にぐいっと不機嫌そうな顔を近づけて言う。


「あ? ボコんのは俺の方だから」

 

 負けじと俺も言い返す。相変わらずの会話。


 もしも乃愛が俺のことを男として意識しているとしたら、スカート丈くらい気にするだろうし、こんなに至近距離まで顔を近づけないだろうし、間違っても『悠生ボコボコにしたい』だなんて言わないだろう。


 だから――俺はいつの間にか芽生えてしまった乃愛への気持ちを、ずっと胸の奥に仕舞い込んだままでいる。



「望むところだし! 今日は出す。悠生覚悟!」


 そして乃愛は制服のジャケットを脱いで腕まくりをして、俺のすぐ隣に座った。



 ……どうして女って生き物は、いい匂いがするのだろうか。

 ……どうしてギャルって生き物は、第2ボタンまで開けるのだろうか。


 そして乃愛は、どうしてこんなに育ってしまったのだろうか。


 などという邪な気持ちを悟られないように、俺もしっかりと言い返した。


「ふん。じゃあ俺は、で返り討ちにしてやるよ」



 売り言葉に買い言葉。いつも通りだ。こんなんだから、いつまで経っても俺と乃愛は幼なじみのまんま。男女の仲に進展するはずもない。――そう思っていた。


 でも、それでいいとも思っていた。俺にとっての乃愛は、唯一の悪態をつける女子であり、きっと乃愛にとっての俺もその逆で。その関係が心地いい、そう思っていたから。


 ――なのに。


「おっしゃ、俺の勝ちー! 俺のことをボコボコにするとか言ってたのはどこの誰だっけー?」


 ゲームで俺が圧勝して、いつも通り悪態をついてみれば。この日の乃愛はなんかいつもと様子が違った。


「……ムカつく。今日は絶対勝ちたかったのに」


 言葉はいつも通りだけど、乃愛の声がどこか元気ない。


「なんだよ、乃愛。やっぱり今日は元気ないな。なんかあったのか?」


 聞いてみると。


「…………風紀の田中に髪色注意された」


 乃愛はボソッと答えた。けれど。


「……そんなの、いつものことじゃん」


 これが乃愛の元気がない理由とは到底思えなかった。


「……後、こないだのテストで赤点取って数学の先生シゲルに呼び出された」


 するとまたボソッと乃愛は言葉を追加する。

 けれどそれもいつも通りの事で。


「うん、それもいつもど……」


 俺が言いかけると。


「うっさい。後、体育の時に走って転んで青あざできた」


 俺の言葉を遮るように乃愛から発された言葉もまた、いつも通りの事だった。まるでいつも通りの事なのに、なぜ乃愛は元気がないのだろう。


「………………」


 そう思ったから、俺は言葉が出ないでいたのだけど。


「これもいつも通り、って思った?」


「………まぁ」


 なんて答えるのが正解だったのだろう。

 

 もしもこんな時、陽キャなイケメンだったらうまく乃愛から理由を聞き出して、励ましてやれるのだろうか。


「そう、いつも通り。いつも通りなんだよねー。好きな髪の色にしたら怒られて、勉強もダメ、運動もダメ。ダメな事ばかりで自分が嫌になっちゃう。だからせめていつも通り悠生とゲームしたら、私が勝ってスカッとするかなって思ったのに」


 乃愛は不満そうに唇を尖らせた。


「……格ゲーで手加減される方が嫌だろ」


「うん、嫌。本気で来たところをボコボコにして勝つのがおもしろい」


「……お前、言い方な。なんだよ、だったらもう一戦するか?」


「んーん。いい。悠生最近強くなってきて勝てないから」


 乃愛はふいっと顔を逸らしてボソッと言った。元気がないから誘ったのに、さらに機嫌を損ねさせてしまったのかもしれない。


「んあー、ごめんって。あ、他のゲームする? 対戦とかじゃなくて、RPGとか!」


 くっそ。これでは男女の仲どころか、幼なじみの仲という関係ですらなくなってしまいそうだ。それだけは避けたいと思う。


 そんな焦りにも似た気持ちを抱いていると、乃愛がこちらに振り返って伺うような上目遣いで話し掛けてきた。


「ねぇ、悠生。幼なじみのよしみでさ、お願いがあるんだけど……」


「なんだ。勉強でも教えて欲しいか」


「うん。それもあるけど、違う」


「なんだよ、欲張りだな」


 一体乃愛は、俺にどんなお願いをするというんだ。


「…………あのさ」


「…………うん」


「…………抱きしめて?」


「…………は?」


 乃愛は、あまりにも俺の想像になかった言葉を言った。



――――――――――――――――――――――

次話で完結です!!

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