10 現世へ

「もう仮面による肉体と妖力の制御は必要なさそうだな、その仮面は別の事に使うと良い」


 そう言われて俺は目を覚ます。


 今のは月読様……七歳の誕生日の翌日にこんな事を言ってくるってことは肉体が俺の妖力に耐えられる程に成長したってことか。


 俺は、布団から身体を起こすと手で顔に触れた。


「ふぅ、肉体を縛る鎖が解けたような気分だ。微弱に身体から妖気が漏れ出ている」


 仮面を顔から引き剥がすと、透明だったのが解けて鬼の仮面が姿を表した。


『それずっと着けてたから何かと思えば、成長しすぎた身体と妖力を隠すためのものだったのか』


 あぁ、小さい頃に抜いた妖力の栓のせいで身体が無理やり成長させられて、妖力が溢れたんだ。

 あの時の身体は、七歳の身体だったんだな。


『どうりで、あの歳であんだけの妖力を持っていたわけだ。普通は、もっと大きくなってから抜くはずだ』


 仕方ないだろ、勝手に抜けたんだよ。


「そういえば、話変わるけどこの仮面どうしよう。別の使い方ってのも気になるし」


『ちょっとその仮面よく見せてくれ』


 ん? あぁ。


 俺は、魅玄を術式から出した。


「うぉ、またデカくなったんじゃないか? 最近良く外に出てるけど」


『私が、太ったって言いたいのか?』


「ちげーよ、体長や胴体の太さの話だよ」


 魅玄の体長は、どんどん伸びて5、6メートル以上に成長した。


『これでもまだ、前の肉体には遠く及ばない。そもそも、私は蛇ではなく龍なんだ。種族的にも成長する必要がある』


 本来のお前は、どんだけでけぇんだよ。ていうか、どうやったら蛇から龍になるんだ。


『歳を重ねるか、自分自身が大幅に成長するかだ。お前も身を持って知っているはずだ、過大な力を得て身体が強制的に成長させられる事を。まぁ、急激に過大な力を手に入れると死んでしまう事もあるが』


 今お前を成長させる方法は、何か強い魂を食わせるのが一番手っ取り早いか。


『早急に力が欲しいなら、そうなる。そうだな……龍の魂を喰らえば一気に、龍に近い所までは成長できると思うぞ。流石に一発で龍になる事はできない』


 龍の魂か、流石に難しいそうだ。     

 

『まぁ、基本的には妖怪に寿命という概念はない。妖魂さえ無事なら、肉体はいくらでも直せる。あの日からずっと通っている書庫でそのことは知っているだろう?』


 あぁ、そうだった。


『話が脱線した、仮面についての話に戻そう。見た所、前まで施されていた月隠れつきがくれが解かれて新たな術が施されたようだ。っ! あいつめ、私の術を応用したな。この仮面には、着けた者の魂を縛り付ける魂縛が施されている。それも、とびきり強力なやつを。恐らく月読と同じ位の神にしか解けない』


 まじか、そんなに強力な術がこの仮面に。


『それだけじゃない、吸力系の、着けた者の力を奪いこの仮面に溜め込む術も施されてる。おそらく、この吸力系の術で奪った力を、魂縛の維持に使い術が永続的に発動されるようになっている』


 すごい、これをつけられたら絶対に逃げれないってことか。


『そういう事だ、全くなんという物を作ったんだ。下手な封印系の術よりよっぽど強力だぞ』


 改めて、ここまでしてくれる月読様には感謝だな。


「さてと、そろそろ顔を洗いに……「んぅ」」


 そうだった、琴葉と一緒に寝てたんだった。父さんも昨日は酒をガバガバ飲んでたから、まだ寝てるかも。母さんも昨日は、朔奈さんに結構飲まされてた。

 もう少ししてから、顔を洗いに行くか。水の音で起こしたくない。

 でも、身体は動かしたいから庭で身体を伸ばそう。


 俺は、布団から出て、部屋を後にした。


「ん〜、晴れていて気持ちの良い朝だ。新たな人生にも大分慣れてきた。でも、やっぱりまだ前世の未練が消えないな。少しだけでも、現世うつしよに行ってみたい」


『ならば頼んで見ればいいではないか、そろそろ赦しが出るかもしれないぞ?』


 そんな事をいいながら、魅玄が部屋から這いずり出てきた。


「そうは言ってもなぁ。あの二人過保護だし……あ、肩に登るなら身体小さくしろよ」


『頼むだけ頼んでみたらどうだ、最悪父親が無理でも、琴葉とか言う小娘の母親も出来るだろ』


 そう言いながら、魅玄は俺の身体をスルスルと登り首に巻き付いた。


「確かにあの人も、十二妖将の一人って言ってたな。思ったり実現不可じゃない……の、か?」


『お前は、歳不相応の力を持っている。ある程度の事は自分で対処できるだろう。それに、いま手に入った切り札、神封の鬼面もあるし』


「神封の鬼面?」


『それは、月読、天照大神、須佐之男、この三大神と同等レベルの神より下の神であれば、神でさえも封じ込めてしまう仮面だからそう呼んだ』


「そうなのか。神封の鬼面……悪くない。俺もこれからはそう呼ぶことにしよう」


『もしなにかあれば、その鬼面で無理やり封じるといい。まぁ、強い力を持った善神なら破ってしまうかもしれんが、普通の神、悪神なら確実に拘束できる』


「はぁ? 全員拘束できるって言っただろ」


『拘束は、全員可能だ。だが、確実に抑え込むのはまた別だ。力を抑制するのは善神の得意分野だからな、悪神は力を奪うことに特化してるやつが多い』


 なるほど、そういう相性的なやつがあるのね。


『まぁ、ほとんどのやつはこれから逃れられない。善神と戦う事なんてないだろうから、大丈夫だ』


「う〜ん、一か八かで頼んでみるか。聞いてみないと分からないしな! ありがとう魅玄、助かったよ」


『そうか、それならよかった。さぁ移動するなら私を戻しておけ』


「わかった」


 俺は、魅玄を術式の中に戻した。 


「まずは顔を洗いに行こう」


 俺は、顔を洗いに行き、普段着に着替えた。 

 

 



「おはようございます、若様」


「おはよう、緋夏」


 普段着に着替えて、父さんの部屋に向かっていると廊下を歩く緋夏と出会った。


「何処か行くんです?」


「父さんの所に、ちょっとな」


「旦那様の部屋にですか?」


「あぁ、頼みたい事があって。あ、あと琴葉がまだ俺の部屋で寝てるから起こして着替えさせてくれ」


「分かりました」


「それじゃあ俺はこれで」


 そう言って俺は、緋夏との会話を終え父さんの部屋に向かった。


「おはようございます、若様」


「あぁ、おはよう」


 合う人合う人と朝の挨拶を交わしながら、父さんの部屋に向かう。


「お、部屋の中から声が聞こえる。父さん母さんと誰だ?」

  

 父さんの部屋から母さんの声と、知らない男の声が聞こえた。

         

「父さん、今忙しいですか?」


 俺は、襖越しにそう呼びかける。


「ん? 千弦? まだ刀の稽古をする時間ではないはずだが」


「今日は別の用件……いや、お願いがあって来ました」


「紫苑様、きっとあの事です」


「千弦、入りなさい」


 雰囲気が変わった。


「失礼します」   

  

 俺は、そう言いながら襖を開き中に入った。


「君が千弦ちづる君? 僕は賀茂 渡かもの わたる


 見知らぬ男がそう名乗る。

 男の容姿は、ボサボサの黒髪でよく見えなかったが、長い前髪の隙間から、垂れ目でメガネをかけているという事が分かった。


「あ、え、どうも」


 誰だ、初めて見る。容姿は、まんま人間だけどどんな妖怪なんだろう。 


「俺の友人で、今日は千弦の事で来てもらった」


「俺の?」


「君、幽世から出て現世に行ってみたいんだって?」


 どうしてそれを……緋夏か。昨日それとなく行き方を聞いたから、それを父さんと母さんに報告されたんだ。  


「ここは妖怪にとって、最高に居心地がいい場所だと思うんだけど。あっちでは、ここに住みたい妖怪がたくさんいる」


 確かにそれは俺も理解してる。    


「私は、危険だと思います。だって、まだ千弦は七歳になったばかりなんですよ!」


「その気持ちは俺も分かる。現世は、危険なところだ。霊能者や陰陽師、それに他の妖怪や悪霊、様々な危険がある」


「なら……!」


「お二人さんストップストップ! 確かに危険などを考えるのも大事ですが、それ以上に本人がどう思ってるかが重要では?」


「そうだな、千弦お前は現世に行ってみたいか? 現世には、先ほども説明した通りたくさんの危険が存在してる。ここのように、俺達がいつでも守れるわけではない」


「一人でも大丈夫だと、証明できれば行かせてくれますか」


「そういう問題ではなく……!」


「千弦、俺と試合をしよう。それでお前が勝てば現世に行くことを許す」


「紫苑様!?」


「綺麗にまとまりましたね、僕いる意味ありました?」


「ついてこい」


「はい!」


 俺は、父さんの後について歩いた。

  




「渡、もしもの時は頼む」


「わかりました」


「紫苑様! どういうことですか!」


「緋夏」


「はい、奥様こちらに」


 母さんは、いつにもなく取り乱して声を荒げる。それを、緋夏が宥めている。


「母さん……」


「知華は、お前が愛おしすぎるせいで過保護になっている。分かってやってくれ、俺も知華もただお前が心配なんだ」


「もちろん、二人がとっても優しいというのはずっと知っています」


「ありがとう。それにしても、千弦は小さい頃から外に強い興味を持っていたな。昔の俺を思い出すよ」


「昔の父さん?」


「あぁ、親父……お前にとっては祖父に当たる人からよく家を抜け出して、勝手に現世に行こうとしてよく怒られた。最初は、好奇心が大きくて親父の事なんてちっとも分からなかったが、こうして父親になってみて、親父の怒る理由がわかった気がする。心配、してたんだな、まぁいつもの鬱憤晴らしもしてただろうけど。ははっ!」


 良い家族だ、本当に俺にはもったいない程良い人達だ。

 俺の父さんも、すごく優しい人だった。母さんに俺がいたずらをして怒られた時でさえ、怒る母さんをなだめてくれていた。いたずらをした俺が悪いのに。

 母さんも、父さんのそのすごく優しいところに惚れたんだろうな。

 どうして結婚したのか、父さんのどういうところが好きなのか、聞いてみたかった。

 けど、それを聞くことはもう出来ない。


『千弦……』


「本気で来い! 父さんに全力をぶつけろ!」


「はいっ!!」


 俺達は、互いに構える。

 

「それじゃあ、父親対息子の試合…………初めっ!」


 ここで本気を出さないのは、駄目だ。今まで秘密にしてきた物、全部さらけ出す。 


「魅玄っ! サポート!」


『任せろ!』


 俺は、腕に刻まれた術式から魅玄を呼び出した。  


「術式? 妖怪? 一体なんだ!」


 月読様のくれた術式、使わせてもらいます!


月装神術ツクヨミ――纏月まといづき。真怪化!」


 俺は、今使える自己強化の術を全て発動させた。

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