11 先祖還りと魂の契約

「千弦、お前は一体いくつのものを隠していたんだ」


 シャラン、シャラン。


 俺は、変わり果てた姿で月光の下舞い踊る。


『この姿の千弦は、性格が大きく変わり、月の神性を身に纏い、妖怪という枠組みから外れる』


 俺の姿は、大きく変化した。まず纏月によって、髪色が白一色になり、腰に届くほどに髪が伸びる。

 身体も180cmほどまで成長し、色んな装飾品が着いた白い和服を身に纏う。尻尾も、大きく伸び、白黒半々だったのが完全に真っ白になった。

 頭には、額に月の装飾品があり角も白く変色し大きく伸びている。

 耳には、月と鈴の耳飾りがつき、綺麗な音が身体を動かす度に鳴り響く。


「綺麗……」


 服によって隠れ見えないが、身体の大部分には白い龍鱗が身体を覆っている。


「さぁ、始めましょうお父様」


「今までずっと隠してたのか、この力を」


「以前私が暴走し、強制的に真怪化した時がありましたよね。あの時から、少しずつ自分の力を自覚し始めました。そして、書庫に行き力の扱い方を知り、自分なりに修練し妖術を取得しました」


(この子はやはり天才だ、いや天才なんて言葉では言い表せない。この子は、いずれ数多の妖怪を従え、妖王となるかもしれない……怪物だ)


「なるほどな」


集月しゅうげつ――月刀げっとう」 


 私は、月の力を一点に集め、一本の刀を作った。


基礎鬼術きそきじゅつ――鬼火おにび


 お父様は、青色の鬼火を出し私を攻撃する。


「火力が低いっ!」


 私は、生成した月刀で鬼火を切った。


「刀が触れた場所から、鬼火が凍りついていく……!」   

  

 月刀には、月の強い冷気が纏われている。妖力を凍らせる事の出来る程の冷気が。


凍月蓮花とうげつれんか


 私は、氷の蓮を複数形成し、それをお父様に飛ばした。


「こんなもの……! 鬼焔おにほむら!」


 お父様は、先程よりも数倍は大きい青い炎で凍月蓮花を掻き消した。

 辺りは、蒸気が広がり二人の視界を覆った。


「お父様、背中がお留守です」


「奇襲で声は出すな。霊焔神術カグツチ――神燃の産霊しんねんのさんれい


 私の刀を防いだ木刀から、焔で出来た人形が現れ私を焼き殺そうとしている。


 いきなり、大技!?


護身の牢月ごしんのろうげつ


 私は、急いで身を守る術を発動させる。

 しかし……。


「千弦!」   

 

「旦那様、これ以上は若様の身が持ちません」


「あぁ〜もう、自分の息子相手に熱入り過ぎだ」


 みんなが声を上げ二人の試合を止めようとする。


 くっ、熱風が鱗を貫通して身体を焼く……! これは、まだ身体の負担がでかいから出来るだけ避けたかったんだが、これを直で喰らうのは駄目だ!


「魅玄ぉぉぉ!!」


『まだあれは未完成だ! 身体が壊れる!』


「いいから、黙って来い! 魂縛、妖呑、魂融!」


『寄せ、よすんだァァ』


 私は、魅玄を鎖で手繰り寄せ、妖呑で飲み込み、自分の魂と魅玄の魂を融合した。


「ぐぁぁぁ!」


 私の身体に、炎が直撃する。衝撃で辺りは砂埃で包まれた。


霊符れいふ――生風符せいふうふ


 渡さんが、何かを使い風を発生させ煙を消した。 


「グルォォォ」


 消えた煙の中から現れたのは、白と黒の混じった鱗を持つ一匹の龍だった。

 体長は二十メートル以上あった。


「なんだあれは、混血の千弦が龍の姿になる事は出来ないはず……!」


 私は、意識を失い暴れ回る。




 

 うぅぅ。


『『誰だ、の血を目覚めさした者は』』


 だれ……?


『『を知らないと、申す抜かすか』』


『我は、数多の者を喰らいその果てに、神に打たれし者、祟り龍八岐之大蛇ヤマタノオロチ


『俺は、数多の鬼を纏め上げ、数多の戦果を上げた、最強の鬼神、酒呑童子しゅてんどうじ


 意識空間で二人の妖怪が名を告げる。

 一人は、八つの首を持つ巨大な祟り龍。

 もう一人は、紅蓮の角と強靭な肉体を持つ鬼神。


 名の知れ渡る大妖怪がどうしてここに。


『ここはお前の意識空間、我らはお主に流れる血に眠っていた力の欠片じゃ』


『お前には、俺と親父の血が流れている。まぁ、代を得て大分薄まったと思ったんだが、まさか先祖返りとはな』


『今までお前の血が稀に目覚める事はあったが、我まで起こされるとは思わなかった。それもこんなに濃ゆく強い形で』


『かつてこんな事があったか親父よ』


『いやなかった、我の力はお前が目覚めさせて以降一度も目覚めた事はなかった。きっとコヤツの母方が龍だったからだろう。それにコヤツの父親は、わずかながらお前の血を覚醒させている。そんな間に生まれて、高純度の魂と無理やり融合しようとしたから、それに刺激され目覚めさせられたのだ』


『偶然に偶然が重なった結果っつう事か。まぁ、今はまだ力を目覚めさせただけだ。俺達の力を自由に行使するには不十分な器だ』


『今は自分の状態を落ち着かせることを、優先するのだ』


 八岐之大蛇がそう言うと、酒呑童子が俺に近づき額にデコピンする。


 いたっ、なにす……。


 そこで俺は、意識空間から目を覚ました。


『千弦、千弦っ! あれほど、龍化はまだ未完成で危険だと説明しただろ!』


 うぅ、魅玄……?

 

『千弦! 良かった、目覚めたようだ。性格や身体に異変はないか?』


 あれ、八岐之大蛇と酒呑童子は……。


『何を言ってるんだ、急に祟り龍と鬼神の名前なんかだし……』


『お、ちゃんと魂は分離出来たみたいだな』


『こやつ、同族か。我より後に生まれた存在みたいだが、かなりの魂を喰らっておる。今は神に力を奪われた状態みたいだが……』


『な、なぜ大妖怪である二人がここに!?』


『落ち着け、我はとっくに死んでおる。今はこやつの血に流れる力の欠片でしかないわ』


『俺も、本体は神社で祀られているからな。あの忌まわしき人間共め。よくも俺を騙しやがって……本体を取り戻したらまた暴れてやる』


『力の欠片、つまりは桜木一族に伝わる血の覚醒!』


『違う違う、こいつの場合は覚醒なんてもんじゃねぇ。先祖返りだ、俺達の血が物凄く色濃く出ている。八岐之大蛇と酒呑童子様の血が混ざった最強の血がな!』


 なぁ、混乱してるとこ悪いんだが一つ提案いいか?


 寝ぼけた頭で俺はある事を思いつく。

 

『ん? なんだ』


 鬼面の使い道ここじゃね? 酒吞童子、今お前の本体は首塚大明神にある、間違いないか? 妖魂も。


『あぁ、間違いねぇ。最後の抵抗でずっとあそこに留まった。今の俺は力の欠片だが、本体と妖魂の位置を感じる事は出来る』


 ははっ、じゃあ一つお前に提案だ。俺がお前をそこから自由にしてやる。


『ほんとか! まったく俺の子孫は優秀だ』


 その代わり、助けが必要になったときに手を貸してくれ。


『そんな事ならお安いごようだ、任せてくれ。この酒呑童子様が最大限力を振るってやる』


 よし、じゃあ魂の契約をしよう。


『千弦、お前まさか……!?』


 魂の契約の契約内容は、こうだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

【壱】酒呑童子の封印を解き自由にする事。

 これは俺が絶対に守らないといけない事だ。


【弐】俺が封印を解いたら、俺が助けを求めた時には必ず来ること。また、呼ばれた時は俺に逆らわないこと。

『ん〜、ちょっと気に食わねぇがまぁいい。どうせ一時的なもんだろ』


【参】この契約を絶対守る事、もし契約が守られなかった時は守れなかった方の魂が守った方の魂に永久的に隷属する事。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 以上だ。


『守れない事はねぇから大丈夫だ、この契約を了承す『ま、まて、酒呑童子……』る!』


 隻神魂術――魂の契約

  

 契約成立だ、絶対この契約守ってくれよ?


『あぁ、任せてくれ!』


『遅かった……こいつかなり狡猾な奴だな』


『この契約は、実質的な奴隷契約だ』


 すまんな、八岐之大蛇。お前もどうにかしてやりたかったんだが、なんせ肉体と魂の在り処が分からないからさ。


『その顔をやめろ、我はいらぬ。そのような契約は』               


 大丈夫、そのうち見つけてやるから。探せばこういうのはいくらでもわかるんだよ、今の時代。


『こ、こやつ、まさしく鬼だな』


『鬼よりも恐ろしい、私も以前こいつに騙された』


 ハッハッハッ! 寝起きに労せず、最強の仲間が手に入ったぜ!!


 俺は、酒呑童子を言葉巧みに騙し魂の契約奴隷契約を結んだ。


『生きていた頃は頭の周るやつだったんだが、欠片だからか知能も大幅に落ちてしまった』


 さてと、強力の仲間も手に入った事だし周りの状況を確認するか。  


「痛っ。そうだ、父さんのあの技を食らって……」


「千弦! 目覚めたか、よかった。すまない、試合に夢中になるあまりつい技を出してしまった」


「いてて、流石は父さんですね。俺が本気を出しても敵わないなんて」


「いいや、お前は十分強かった。お世辞じゃないぞ? ちゃんと強かった。同じ歳の子達と戦えば、間違いなくお前が一番だ。少し上くらいの子でも圧倒出来る」


「千弦!」


「若様!」


「大丈夫? 怪我は……あぁ! 火傷してるじゃない! もう紫苑様、少しは加減をしてください。まだ七歳の子供なんですよっ!!」


「そうですよ、旦那様。今回ばかりは私も文句を言わせてもらいます! 若様は……」


『今七歳といったか? あの知能で?』


『あなた達は、見ればわかるでしょ』


『こいつ転生者か、前世は人間。道理で色々知ってるわけだ』


『この記憶は、月読! なるほど、この転生には三大神が関与してるのか』


「父さん、結局俺は現世に行ってもいいんでしょうか?」


「あぁ、大丈夫だ。だが、行く前に傷をすべて癒やしてから行きなさい。色々準備もいるだろうから」


「衣類と自分が持っていきたい物だけ用意してくれたら、いいですよ。あとはこっちで用意しますんで」


「どうして渡さんがそんな事を……」


「説明し忘れてたな、お前があっちで暮らす間面倒を見てくれるんだ。渡は、人間の陰陽師で仕事用の家に泊まらせてくれる」


「えぇぇぇ!? 渡さんは人間? それに陰陽師って妖怪を祓ったりしてたっていう」


「僕は、妖怪を悪と決めつけ全員祓うって言う硬い考え方が嫌いなんです。そこで、たまたま現世に来ていた紫苑と出会い友人になりました。今までも定期的に会っていました」


「そうだったのか、初めて知った。現世では、お世話になります!」


 俺は、渡さんに頭を下げた。


「はい、こちらこそ。あ、そういえば期間はどうします? 一週間……は、流石に短いか。では、大体一ヶ月程にしましょう。どうです?」


「それで大丈夫だ」


「千弦、本当に行っちゃうの? もう少し大きくなってからでも」


「大丈夫、心配しないでください母さん。ずっと帰ってこないわけじゃないので、それに先延ばししても俺はまた行きたくなるも思います。今も楽しみで仕方ないんです」


「千弦…………わかったわ、じゃあせめて緋夏を連れていきなさい」


「え、わ、私ですか…?」


「分かりました」


「ならよろしい」


「俺も賛成だ、緋夏は最も千弦に信頼されてる。万が一の時に、千弦を守れるだけの実力も持っている」


「わ、分かりました。旦那様と奥様の命とあらば」


「よろしくね、緋夏」


「はい、よろしくお願いします若様」


「それでは、準備をしましょうか。荷物をまとめてください」


「はい」


 俺達は、出発の日に備え準備を始めた。

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