09 書庫

「ふぅ、美味しかったですね〜」


「あぁ。ところで、最初の目的を忘れちゃいないだろうな?」


「わかってますよ、ちゃんと案内します」


 俺達は、花楽茶屋を後にし書庫を目指して歩いていた。


「若様、書庫が見えてきました」


「おぉ!」


 結構大きい、もうちょっと小さいと思ったが、二階はないようだから横に広いみたいだ。


「受付済ませてきますね」


 そう言って緋夏は書庫の中に入りカウンターで受付を始めた。


 俺も中に入っとこう。


 俺も緋夏に続き室内に入った。


 すげぇ、めちゃくちゃ本がある。月読様に基礎知識は貰ったけど、細かい所は自分で学ばないと。特に妖術なんかは、師匠がいないから独学で頑張るしかない。


『お前さえ良ければ私が教えてやってもいい、お前の身体に刻まれた術……元はといえば私の術だからな。それに、月読の術もある程度は知っている。基礎妖術も一通り習得ている』


 いいのか、魅玄。 

 

『お前が自分で言ったではないか、私にお前の師になれと。忘れたのか?』


 そうだったな、ならすべての事を余すことなく教えてもらおう。


『ひとまずは、ここの書物を読み漁り、ある程度の知識を身に着けろ。実践はそれからだ』


 分かった。


「若様、受付が終わりました。行きましょう」


 俺は、緋夏の後を追い本格的に書庫に足を踏み入れた。


「まずは、どんな本を読みますか? 興味のある本を持ってきてくれたら読み聞かせてあげます」


「ありがとう、探してくる」


「私は、この辺をぶらぶら歩いていますので」


 俺は、緋夏の元を離れ自由に書庫の中を探索する。  


 まずはどんな本から探すべきか……。 


 そんな事を思いながら、俺は本に目を通していく。


 たくさんの本があるが分からない事だらけだ。

 そういえばさ、幽世から現世に行くにはどうすればいいんだ?


『突然どうした』


 俺の記憶を見たお前なら分かってるだろ、行かなきゃ行けないんだ。

 書庫なら、現世に行く方法が載った本があると思って。

 でも、なかなかそれっぽいのが見当たらないから直接聞くことにした。


『そうか。幽世から現世に行く方法は至って簡単だぞ、幽世に存在する現世に繋がる鳥居をくぐればすぐ現世だ』


 は? そんなんでいけんの? てっきりもっと手間が掛かったり、数年おきとか一定の期間しか行けないと思っていた。


『簡単に行けるし、いつでも行き来できる。だが、少しの手間は掛かる。人間を阻んだり、悪意ある妖怪を現世に出さない為に、鳥居をくぐるためには開閉の術が刻まれた物を持っていないといけない。術さえ刻まれていれば、物は問われない』


 そうなのか、ちなみにその術は誰に刻めてもらえるんだ?


『ふむ、お前の父親がしてくれると思うぞ。この街で一番偉いのはお前の父親なのだろう? 術は、他者を保証出来るほどの身分を持っている者が許可を出し、妖術に優れている者に刻ませる』

 

 今すぐにでもその術欲しいけど、流石にまだ五歳だし許可してくれないだろうな。もうちょっと大きくなってから相談してみよう。

 それまでは、自己強化に専念しよう。


 俺は、引き続き本棚に並ぶ本を眺めて歩く。


 今の俺に必要なのは、どんな知識だ。妖力の操作は問題なく行える。

 体力も筋トレと父さんの指導で充分に鍛えられる。

 俺に必要な知識は……。


『今のお前に必要な知識は、力の応用だ。つまりは、様々な状況への対応力』


 俺に必要な本は、妖術や武術などの事が載っている本。 

 

 俺は、今自分に必要な本を探した。


「若様遅いですね、気になる本がなかなか見つからないのでしょうか」


 緋夏は、出入り口近くの椅子に座り千弦を待っていた。



 

 

『まだ読むのか? 少し休んだらどうだ。あれから一時間ほど、ずっと本を読んでいるぞ』


 分かってる。

 けど、本の内容をここで実践するわけにはいかないだろ。だから、本の内容をしっかり暗記しないと……。


『別にここに来る機会はまだあるだろ、それに実際に試してみないと、自分の認識が本の内容と違う事もある。まずは今記憶したものをしっかり理解する事から始めるんだ。焦っていざという時、発動しなかったら本末転倒だ』


 ふぅ、わかったよ。今日はここまでにする。


(力に囚われ、大事なものを失う奴らを私は何人も見てきた。師として、そうならないようしっかり導かねば)


 俺は、適当に本を選びそれを持って緋夏の元に向かった。


「緋夏、これ読んで」


「あ、やっと来ましたか。どれどれ〜」


 緋夏は、俺の持ってきた本を確認する。


「百鬼夜行についての本ですか、また変わったものを持ってきましたね。まぁいいでしょう」


 百鬼夜行、名前は聞いたことがある。


「本の内容をそのまま伝えても分かりづらいと思うので、私なりに簡略化して伝えます」


「あぁ、わかった」


「まず、百鬼夜行とは一人の妖怪を基準に強いつながりで繋がれた妖怪達の集りの事を言います。またこのときの妖怪が強くある必要はありません。様々な妖怪がそれぞれの百鬼夜行を率いる事が出来ます。旦那様も、妖王様の百鬼夜行に所属しています」


 妖王、前に聞いたことがある。妖怪の王ってことは、相当強いんだろうな。

 そして、そんな妖怪の百鬼夜行に父さんは所属していると。


「妖王様の百鬼夜行はとても大きく強力で、特に旦那様を含む十二妖将と呼ばれる十二の妖怪はとても強い力を持っている大妖怪です。旦那様は、若様を妖王様の百鬼夜行に加え、十二妖将の座を継がせたいと思っているそうですよ」


「そうなのか。父さんの気持ちはありがたいけど、まだ十二妖将の座をつぎたいとおもわないな」


 俺は、誰よりもどんな妖怪よりも強くなりたいんだ。全ての者から、大切な人達を守れるように……。


「まあ、まだ子供ですからね。旦那様も今すぐ入れるわけではないので」


「ところで、最初に言った百鬼夜行の強い繋がりってなんだ?」


「それは、御神酒を使った親分子分の契りの事で、契りを結ぶには御神酒を使い七分三分の盃を交わす必要があります。七分三分の盃は子分が親分に忠誠を誓うという内容の物です」

 

「そんなのがあるのか」


 百鬼夜行か、悪くないかも。一人で戦うのはいずれ限界がくる、信頼出来る仲間は一人でも多くいたほうがいいかもしれない。

 これから、出会う奴らの中で背中を任せられるような奴がいれば誘ってもいいな。

 それこそ、緋夏や琴葉を百鬼夜行に加えられたらいいのに。


「どうしましたか? 私の顔に何かついてます?」


「いや、少し考え事をしていただけだ」


「そうですか。今私にできる百鬼夜行の説明は以上です、読みたい本がまだあればどんどん持ってきて下さい。私がいくらでも読んであげます」


「分かった、また探してくる」


 俺は、緋夏の言葉にそう答えると再び本を選びに戻った。

 その後、また適当に本を選んでは緋夏に読んでもらいたくさんの知識を得た。


 若様、そろそろ夕方なので帰りましょう」


「そうか、わかった。今読み終わった本を棚に戻してくる」


 俺は、読み終わった本を本棚に戻した。


「戻してきた。帰ろう、緋夏」


「はい」


 俺達は、書庫を後にし屋敷に帰った。





「ふぅ〜、今日はたくさん動いたなぁ。書庫には、たくさん有益な知識があった。出来たらこれからも、定期的に通いたい」


 屋敷に帰り着いた俺は、緋夏の勧めにより風呂に入り汗を流していた。


「風呂から上がったら、父さんと母さんに今日の事を報告して、本を読んで得た知識を試してみよう」


 そんな事を呟きながら、俺はゆっくりと湯船に体を沈める。

 

「………………よし! 上がろう」


 俺は、湯船から出て風呂から上がった。


「ふぅ、良い湯だった。今日の夕食はなんだろう」


 風呂から上がった俺は、今日の夕食の事を考えながら自分の部屋に向かって歩く。


「ふんふ〜ん」


 俺がご機嫌に、夕食の事を頭に浮かべ鼻歌交じりに歩いていると……。


「いたっ」


「おっと、すまん不注意だった。大丈夫……って、琴葉じゃないか。最近あんまり見ないから少し気になってたんだ」


「ち、千弦。えっと……」


 朔奈さんと一緒に来てた琴葉と廊下で、軽くぶつかった。


 前見たのは、誕生日会の時が最後、か? 前より髪が伸びたな。妖力の量も大幅に上がっている。

 それに、なんだか尻尾の数が増えてるような……1、2……やっぱり一本増えてる! そういえば、朔奈さんも尻尾が九本ぐらいあったっけ。

 そういう妖怪なのか? 


「あ、そういえば、これから晩御飯なんだ。一緒に食べに行こう」


「あっ、えと…………うんっ!」


 俺は、琴葉の手を引き食堂に向かった。

 

「おかえりなさい、千弦。初めての街はどうだった?」


「夕食の準備が出来ているよ」


「琴葉様もこちらにどうぞ」


 食堂につくと、既に父さん母さんと緋夏が待っていた。

 俺は、琴葉と一緒に座布団に座り食事の準備を整えた。


「こうして二人が一緒にいるのは久しぶりですね。誕生日からずっと二人でいる所を見てませんでした」


「若様、琴葉様の事を心配していたんですよ?」


「え!? ち、千弦が……?」


「し、心配はしてない! ただ、少し、気になっただけだ!」


「まぁ、照れちゃって可愛いですね」


 俺は、母さんと緋夏にからかわれた。


「すまない、遅くなった。琴葉がどこかに……って琴葉!?」


「今さっき、千弦が手を引いて連れてきたところだ」


「お母さん……」


「は〜ん、そうなのか。なら、良かった」


 朔奈さんは、何故かニヤニヤしながら座布団に座った。

 琴葉も何故か顔を赤らめていた。


 ? まぁ、いいか。


「それじゃあ、みんな揃った事だし……手を合わせて……」


 父さんがそう言いながら、手を合わせて、俺達も同じように手を合わせる。


「「「「「いただきます!」」」」」


 俺達は、食事の挨拶を済ませると夕食を食べ始めた。


「「「「「ごちそうさまでした」」」」」  


 俺達は、再び手を合わせ夕食を終えた。

 

「もう修行はいいのか琴葉」


「うん! もういい!」


「そうか」


 修行なんてしてたのか、道理で合わない訳だ。


「千弦、寝る前に街の感想を聞かせてくれ」


「はい、分かりました!」


「私と紫苑様は、残りの仕事を終わらせてから部屋に行きます。その間は、緋夏お願いしますね」


「はい、お任せください」


「琴葉も頼む」


 三人は、そう言って食堂を後にした。


「私達も部屋に行きましょう」


「「は〜い」」


 俺達も、食堂から出ていつもの部屋に向かった。        





「ちぃ〜ちぃ〜」


「すぐ寝転がると、消化に悪いぞ」  


「ちぃのしっぽ〜」


「いつもの二人に戻りましたね」


 部屋につくと、琴葉は前と同じように甘えてきた。


「あぁ……」


 自分でも無意識のうちに、あの生活が気に入ってたんだな。

 妙にこの状態がしっくり来る。三人でこの部屋で過ごしている時間が……。


「千弦、待たせたな。さぁ、街の感想を教えてくれ」


「私もすごく気になるわ」


「父さん、母さん! もちろん、全部話すよ!」


 俺は、みんなに街の感想を話した。みんなが眠くなるまで。

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