07 誕生日
「みんな、急いで!」
「若様は?」
「着付け中です」
侍女や従者達が、大慌てで屋敷内を走りまわる。
俺はと言うと……。
「若様は、身体の成長が早い分、髪も伸びるのが早いですね」
「えぇ、軽く後ろで結びましょうか」
昔にあった誕生の宴同様、侍女達に着物の着付けをされていた。
「それにしても、若様は特殊な髪色をしてますよね。黒と白の混じった、旦那様と奥様の髪色を綺麗に継いでいて」
確かに、自分でも二人の特徴を綺麗に継いでると思う。
角や目の色もそうだ、二人の色を綺麗に継いでいて、年を重ねる事にその色が徐々に混ざって俺だけの特徴になってる。
「はい、これで終わりです」
やっと終わったか、毎年そうだが結構時間がかかるんだよな、着付け。
でも、自分でやるってなったら、もっと時間が掛かりそうだから、大人しくされるがままになるけど。
『なかなか似合ってるな』
おはよう、黒陽。
『あぁ、おはよう。あの少し言いづらいのだが、黒陽と呼ぶのはやめてもらえないか? これでも女なんだ』
そうなのか、そこまで男っぽい名前ではないと思うが……まぁ気に入らないならしかたない。
前の名前は何だ? 魂呑神龍は名前じゃなくて呼び名だろ?
『あぁ、みながそう呼んでいるだけだ。本当の名は、
また龍、俺含め周りに龍多くないか? 正直元々人間だった身からすれば、存在自体が信じられなかったんだが。
『まぁ、お前の一族は龍と深い縁があるから、仕方のないことだ。それに、人間は龍どころか妖怪すら見えない奴らがほとんどで、信じられないのは当然だろう』
その言い方を聞くに、見える奴もいるってことか。
『あぁ、陰陽師という悪しき妖怪や霊を払う奴らがいる。そやつらは、妖怪の持つ妖力とは別の霊力という人間独自の力を扱う』
陰陽師……存在自体は知っていたが、本当にいるんだな。
『人間は、霊符や形代、加えて式神や占術など様々な術を使う。昔は、かなりの人数がいたが、私はずっと月読に封じられていたから、今はどうなっているのやら』
気になるな、一度見てみたい。
でも、ここから出る方法は知らないから見るのは当分先になりそうだ。
ここが、人間のいる現し世の裏、幽世だってのは把握してるけど。
『私も気になるが、先に私の呼び名を考えてくれ』
それならもう話している時に、考えてある。
『ふむ、魅玄か…………及第点ってところだな。だが、しっかり考えてくれたし、これで満足してやろう』
じゃあ、お前の事はこれから魅玄と呼ぼう。
『あぁ、そう呼んでくれ』
俺は、黒陽の名を変更し新たに魅玄と名付けた。
「まぁ、いつにも増してかっこよくなりましたね千弦!」
「母様、おはようございます」
「もう、そんなにかしこまらなくてもいいのに。もっと甘えて、ママとかお母さんって呼んでくれてもいいのよ?」
「ですが……」
「ママは今じゃなくていいから、せめてお母さんって呼んでくれないかしら? それぐらいならいいでしょ?」
うっ、砕けた呼び方は恥ずかしいんだよ。でも、あんな風に頼まれたら呼ばない訳にはいかないな。
「お、お母さん…」
俺は、恥ずかしがりながらボソッと言葉を吐いた。
((((か、かわいすぎる!))))
「い、いつもは見せない恥じらいの表情…!」
「いつもしっかりしていて、滅多に表情を崩さないあの若様が」
「みて、若様。尻尾がすごく揺れているわ!」
俺の滅多に見せない砕けた表情を見た、侍女達がヒソヒソと話をする。
うわぁぁ、だからやりたくないんだ! ところで、母様は? 反応がないけど。
「………………」
「か、母様? 大丈夫……うわぁ!」
俺が母様の顔を覗き込もうと近づくと、母様は力強く俺を抱きしめた。
「もう〜〜〜、千弦ちゃんかわいすぎるわ! 千弦ちゃんがあまりにもかわいい過ぎて、立ったまま気絶しちゃった! もう本当に大好き!」
「え、え、か、母様ぁ」
そうまっすぐ言われるとすごく照れるんだが……。
それにしても、こうやって誰かに強く抱きつかれるのは久しぶりだ。
最後にハグされたのは、母さん達にあの事故前に行ってきますって言われながら、ハグされた時いらいか。
俺は、昔の事を思い出し母様からのハグを受け入れる。
「奥様、若様、大広間の準備が出来ました」
「分かりました、すぐに行きます」
「おはよう、緋夏」
緋夏が、大広間の準備が終わった事を伝えに来た。
「とても似合っていますね、若様」
「ありがとう」
「どうして……どうして、母さんにはタメ口で話してくれないのに。緋夏は、タメ口でしかも呼び捨てなの!」
緋夏と、軽く話していてると母様が嫉妬したのか、先程よりも力を強めながら抱きしめてきた。
し、しぬ! 龍の力で思いっ切り抱き締められたら、折れる!
「か、母様は、すごく美人だから緊張して、上手く喋れないんです…!」
嘘は言ってない、本当に綺麗な人だと思ってる。
「そうなの? もう〜! 本当に大好き! 産まれてきてくれありがとう!」
よ、良かった、力が少し緩んだ。
「奥様、そろそろ……」
「えぇ、大広間に移動しましょうか」
母様は、俺からゆっくり離れると俺の手を握り、大広間に向かった。
✿
「お母さん、お腹すいた。それに、れおがいな〜い」
「もうすぐ来るから、それまでは我慢だ。あの子は……あ、来たぞ」
俺達は、襖をゆっくり開き大広間の中に入る。
「おまたせして申し訳御座いません」
「いや、全然待っていない。千弦、その着物すごく似合っているぞ」
「ありがとうございます、父様」
「皆様方、今宵は千弦の為に集まってくださりありがとうございます」
そう言って、母様は頭を下げる。
「いやいや、こんなめでたい日に集まらんでどうする。頭を上げなさい」
「はい」
母様は、頭を上げる。
「それじゃあ、全員揃ったことだしそろそろ誕生日会を、始めよう! 千弦、五歳の誕生日おめでとう!」
「「「「若様、おめでとうございます!!」」」」
父様がそう言うと、みんなも一気に俺の誕生日を祝う。
「ありがとうございます」
「おめでとう、千弦! 本当に時の流れというのは早いですね。あんなに小さかった千弦が、今ではこんなに大きく……」
母様は、そう言って俺の頭を撫でる。
「さぁ、皆の者! 千弦の誕生日を祝して、乾杯だぁ!」
「「「「かんぱ〜い!!!」」」」
父様がそう言葉を上げると、みんなもそれに合わせて、盃を上に上げ、飲み始めた。
「あら? もしかして、もう紫苑様飲んでらっしゃる?」
「はい……、実は早朝から少しずつ」
「ふふっ、毎年そうですね。千弦の誕生日は、朝からお酒を飲んで」
流石鬼、すごい酒好きなんだな。今日来てる妖怪の中にも、鬼がいるが、総じてみんな酒を浴びるように飲んでる。
✿
「私も今日は酒を飲もう。そういえば、琴葉はあの子の元に行かなくていいのか?」
「………………」
「ん? どうし……あぁ、あの子の整った姿に見惚れておるのか。それで、恥ずかしくて近づけないと。ふふ、いつもは抱き着いたり一緒に風呂に入ったり、してるのにな。まぁ、私から見ても今のあの子は、かなり魅力的だ。まだ子供だっていうのに、あそこまで人を惹きつける才を持っているとは」
朔奈は、盃を片手に琴葉を見やる。
琴葉は、頬を赤く染めじっくり千弦を見る。
✿
あれから数時間が経過した、未だ妖怪達は酒や食事を楽しんでいる。
だが、少しずつ人数が減ってきていた。
「すぅーすぅー」
「琴葉が寝てしまった。まぁもう夜中だから、当たり前だな」
「千弦も、すごく眠たそうにしてます」
「ふぁ〜あ」
眠い。
「そろそろ、二人を部屋に寝かしましょう」
「あぁ、その後またここに戻ってこよう」
俺と琴葉は、抱き上げられいつもの部屋に連れて行かれた。
「子供達は、すぐに大きくなる。生まれた時はあんなに小さかったのに」
「えぇ、そうですね。毎日、愛おしくて堪りません。この日が来るたび、本当にうまれて来てくれありがとう、と思います」
そう言いながら、母様は眠っている俺の頭を優しく撫でる。
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