第二章 少年期

06 子供

 月読様から、魂呑隻龍を受け取ってから四年の月日が経過し、俺は、四歳になり身体が大きく成長した。

 まず身長が110cmほどまで伸び、それに合わせて髪も肩まで伸び、角も数センチ程伸びた。

 更に、大きな変化が一つ起きた。


「ちぃ〜! わぁ!」


「琴葉、少しだけ待って」


 近々誕生日を迎えるから、誕生日に向けて今の自分の状態を整理していると、琴葉が元気に走ってきた。


「ちぃ、しっぽ!」


「はいはい、しっぽね。ていうか、琴葉にももふもふのしっぽがついてるでしょ。自分ので遊びなよ」


「やー! ちぃのがいいの! ざらざらでちべたい!」


 はぁ、琴葉も大分大きくなったな。髪も伸びて身長も伸びて、しっぽの毛も赤ちゃんの頃よりもふもふ度合いが増えた。 

 何でそんなしっぽを持ってるのに、俺のしっぽの方がいいんだよ。

 月読様から魂呑隻龍の魂を受け取って数日が過ぎた時、それは急に生えてきた。

 ある朝起きたとき、腰の付け根辺りに違和感を感じて触ってみたら……。


「ざらざら〜もふもふ〜」


 そうそう、そんな感触がしたんだよ。おかしいと思って部屋の鏡でみたら、白色の小さい尻尾が生えていた。

 それを見つけた時驚きで叫びそうになったが、堪えてこれを隠そうとした時、意外と尻尾は長くて、もたもたしてるうちにすぐ琴葉と母さん達が来てバレた。

 最初は、みんなびっくりしてたけど何故かすぐ落ち着いた。

 その事を俺は不思議に思ったが、その理由はすぐに分かった。

 母さんが、尻尾を必死に隠そうとする俺の手を優しく掴み、教えてくれた。

 実は、母さんは鬼じゃなくて、龍族の生まれだってこと。普段は、ここで目立たないよう尻尾を変化の術で隠しており、本当は、俺と同じ白色の綺麗な尻尾が生えていることを。

 だから、その血を継ぐ俺の身体に龍族の特徴が現れるのは必然で、尻尾を隠す必要はないと言われた俺は、隠すのをやめた。


「ちぃ! お庭行こ!」


「分かった」


 俺は、琴葉に手を引かれ、部屋を出ると庭へと向かった。


「ちぃ! コイ!」


「そうだな」


 俺は、適当に返事をして枝垂れ桜の元に歩く。


黒陽こくよう、いるか?」


 俺が、そう言葉を発すると高い木の上から、黒い大蛇が現れた。


「お、また大きくなったんじゃないか?」


 黒陽は、魂呑隻龍の魂を入れた黒蛇だ。魂呑隻龍とずっと呼ぶのは、少し言いにくいから黒陽という新しい名前をつけた。

 魂をそこら辺の黒蛇に入れたら、勝手にどっかいって、そこからは黒陽の好きにさせている。

 一応名前を呼べば、住処の木の上から降りてくる。


「サイズは、三メートル以上か太さもかなりのものだ。そういえば、こいつの知能はどれくらいあるんだ? 前の記憶を持ってたらかなり高いと思うが……」


 俺は、黒陽を見る。


「普通の蛇よりは高そうだ、こちらを認識して言葉も分かってる。ただ記憶を持ってるかは分からないな」


 黒陽は、こちらに鋭い視線を向けてくる。


「俺と黒陽は、この術式で繋がってるからある程度の意思は感じ取れるが、記憶までは分からない」


 そう言いながら俺は、腕にあるとぐろを巻いた黒蛇の術式をみる。


「まるでヤクザか厨二病だな、背中にも月読様の言った通り、月の術式が刻まれてたし。黒陽、一つ試してみたい事があるんだが、いいか?」


 俺は、ある検証をするため黒陽に尋ねる。

 黒陽は、軽く首をかしげたが、すぐに頷いた。


「よし、じゃあ行くぞ。隻神魂術アマノマヒトツノカミ――妖呑!」


 俺は、黒蛇の術式を発動し黒蛇を呑み込んだ。   

  

「出来た、そこらの虫を殺して試しておいて良かった」


 妖呑、この術は妖怪を呑み込める術だ。こんな妖力で満ちた場所なのに、黒陽が普通の蛇でいられるはずがない。

 黒陽を呑み込んだが、妖呑は呑み込んだ妖怪を術式の中に閉じ込めておける。

 つまり……。

 

『出せ! ここから出せ!』


 黒陽は、呑み込まれても死ぬ事はない。


『お前、私を騙したな!』


 実はな、月読様からお前に記憶がある事は教えて貰ってたんだよ。あと、お前は弱ってるから俺の術から出れないって。


『ぐっ、あいつめ! くそ、お前はいつも記憶があると分かってる素振りなんかしてなかった!』


 演技だよ、わからないのか? あ、でも最初の方はわかってなかったぞ、一歳になって少しした時に教えてもらったからな。


『今すぐお前の魂を喰ってやる!』


魂縛こんばく


『なっ、もう魂縛まで使えるのか!』


 たくさん練習したからな、今の妖力で使える技は全て覚えた。

 もしこれ以上騒ぐなら、あれを使うぞ。


『まさか、私に隷魂れいこんを使うつもりか? だが、残念だったな。お前程度では神格を持つ魂を隷属させる事は出来な……』


「隷魂」


 俺がそうつぶやいた瞬間、俺と黒陽の繋がりが強くなり、上下関係が確立された。


『なっ、ありえない! どうして……』


 今のお前は、ただの妖蛇だ。神格なんてもんはとっくに失ってんだよ。

 ただの妖蛇には、鬼と龍の血を引く俺の支配から逃れられない。


『そう、だった、私は今ただの妖蛇。昔の力はもう……』


 黒陽は、自分の状況を理解し絶望した。


 まだ話は終わってない、これは月読様に頼まれた事でもあるんだ。

 またお前に同じ過ちを繰り返させない為にって。


『アイツが? ふっ、こんなに縛り付けても意味などない。私は、変わらない。それに、この後貴様に喰われるのだろ? なら、こんな話聞いたところでなんになる』


 あ〜、一つ言っとくが俺はお前を喰うつもりは無い。


『ならなぜ、魂を縛り付け隷属させた!』


 それは、お前が暴れるからだ。それに、勝手にどっかいって騒ぎを起こされても困るからな。 

   

『抵抗出来なくし、喰らう為ではないのか?』


 その気なら最初に呑み込んだ時に、喰ってるだろ。 


『確かに、ではなぜ生かす? あいつに頼まれたとしても、お前にとっては関係ない縁だろ?』


 俺は、強くなりたいんだ。大切な家族や友人を守れる力がほしい。二度とあんな思いをしない為に。

 だから、俺にはお前の知識と力がいる。


『私にお前の師になれと? 確かに知識は豊富にあるが、力はお前の言った通りそこらに溢れる弱妖怪程度の力しかないぞ』


 俺が取り戻させる、いや、前以上の力を付けさせる。そして、俺の仲間として大切な人達を守るのに力を貸して欲しい。

 どうか、頼む! 魂を縛り隷属させて置いてどの口が、とは思うだろうが、この通りだ。


『お前…………転生者か。魂を見て分かった、そして何があったのかもな。魂は、そいつの生きた人生を記憶する。魂の情報に嘘偽りはない、お前はずっと苦しんで来たんだな。両親の死、周りからの圧力や期待、様々な裏切り、色んな物を諦め切り捨て生きてきた。そんな人生の最後は、親友の裏切りで幕を占めた。いいだろう、お前に力を貸そう』


 本当か! ありがとう!!


(こいつの魂を覗いて、私の印象は大きく変わった。最初は、ただの調子に乗った最悪なやつだと思った。だが本当は……孤独な子供だった。大切な物を必死に守ろうとする子供、何度も何度も、色んな物を失い、それでも諦めずに手に残った物を守ろうとしていた。だが、最後は今まで守ってきた物に刃を向けられ、殺された。なんて悲惨な人生だろう、子供一人が背負うものではない。私が今この子の為に出来ることは、側に居続けて、今生で得た新たな宝物を、守る力になることだ。きっと月読もそれを望んで、私に託したのだろう)


『私が、お前の力になろう』


 私は、小さくそうつぶやいた。





「どうやら、私の真意に気づいたみたいだな。どうかあの子を守ってやってくれ、かつて人々を優しく導いた善神のお前なら出来るはずだ」


 月読様は、黒陽と千弦を優しい眼差しで見守る。

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