第7話 魔獣の群れ


「何かいい作戦はないかな?」


 俺がみんなに意見を聞いた。


「黒ちゃんが前面に出て引き付けている間に攻撃しますか?」


 トパズが答えた。これは正攻法だ。でもこれは同数ならいいけれど、今の場合、圧倒的に数の差があるから危険だろう。


「すごく数が多いから、黒ちゃんも囲まれるし、私たちもやられてしまうかもしれないわ」


 シルキラも俺と同じように考えたのだろう。反対意見を言った。


「ファイアボールで遠距離攻撃を仕掛ける方法もあると思うんだけれど、どうかな。空からねらえば安全だろう」


 遠距離からの攻撃ならこちらに被害は無いから、数を減らすには最適だろうと思ったのだ。


「ファイアボールなどの火魔法だと、大規模な森林火災が起きるかもしれません。自然に影響を及ぼすので、それはおすすめしません。それに、周りが焼けると、遺跡に影響を及ぼすかもしれません。緑のカギは植物を大事にする番人がいると思うのです」


 すぐにトパズの反対意見が返って来た。

 周囲への影響はあまり考えていなかったし、カギの番人の事など知る訳がないから、どうしようもない場合の最後の手段にするしかないと考えた。


「………………」


「いい手が無いな……」


 しばらく無言が続いた。


「俺の土魔法で周囲に堀か壁を作る。出て来た魔獣をできるだけやっつける。その後、空中からウインドカッターを打ちまくるのはどうだろうか」


 俺は、多少の森への影響はあきらめるしかないと考えて、折衷案を提案した。


「分かったわ、それで行きましょう」


「了解しました」


 2人は納得してくれた。そこで、俺たちは、すぐ行動に移った。


 まず、シルキラと黒ちゃんが樹木を伐採しながら、丘から目的地に向かって一本道を作る。俺が道の両側を高い壁で囲んで、最悪、逃げるときに左右から攻撃されないようにしようと考えた。


 目的の遺跡の近くまで来たところで、遺跡を取り巻くように、横に壁を作り始めた。


 その時だった、


「アル君。魔獣に見つかったみたい。これを見て」


 そう言って、レーダーを見せられた。

 俺が見たら、大量の赤い点が、こちらに押し寄せてきていた。


「魔獣の大群が来る。作戦失敗だ! 戻るぞ!」


「アースホール」

「アースランス」

「ファイアボール」


 俺は、たて続けに3つの魔法を発動する。

 アースホールで穴を掘って、飛び越えられないようにした。

 超えて来た敵のために、地面から石の槍を斜めに生やし、穴を飛び越えて来た魔獣が刺さるようにした。

 最後に、ファイアボールで遠距離から攻撃して追って来られないように牽制した。


 それから、俺たちは、ゴーレム馬と黒ちゃんに乗って逃げだした。


 元の丘の辺りまで戻ったら、そこまで魔獣は追って来なかった。やはり、遺跡を囲んで待ち構えているように思えた。


 作戦失敗でまた振出しに戻ってしまった。でも、そのままというわけにはいかない。とりあえず、状況を確認する事にする。


「今来た魔獣はどういう種類だった?」


「オオカミ系の魔獣で、多分グレーウルフですね。集団行動をしていました。鳴き声で連絡を取っているようです。敏感でこちらの気配を読まれました。数は多いですが、1体の攻撃力は小さいと思います。ファイアボールは効果があったと思います」


 トパズが分析した様子を話した。一体の攻撃力が低くて、ファイアボールが効いたという所で思いついた事を言う事にする。


「囲むのが無理なら、今作った壁に誘い込んでファイアボールで通路の中で燃やすのはどうだろう。まずは数を少なくしたいから」


「それでいってみましょうか」


 シルキラも同意した。


「シルキラはレーダーに注意してもらって、サブの攻撃役でいいかな。トパズは黒ちゃんに乗って、前衛の壁役でどうかな。黒ちゃんの陰から俺がファイアボールで攻撃って感じでどうかな」


 俺が作戦を言って、そのままもう一度、遺跡を目指した。


 通路の途中でアースホールとアースランスを片づけて、ついでに倒した魔獣はブレスに収納して進む。


 やっぱり今回も出口付近に近づいたところで、シルキラから声がかかった。


「アル君、グレーウルフがこちらに動いた」


「じゃあ待ち構えて攻撃開始だ」


「ウオーン」という遠吠えが聞こえると、たくさんのグレーウルフが穴の中に殺到してきた。

 おれは、黒ちゃんの陰からその様子を見ていて、攻撃できる距離まで待っていた。じりじりと、汗が出て来る。


「ファイアボール」

「ファイアボール」


 俺の撃った2発のファイアボールが爆発してたくさんのグレーウルフを倒したようだ。グレーウルフの悲鳴が聞こえる。しかし、火だるまになっても飛び出してくる強いやつもいる。


「アースバレット」

「ウインドカッター」


 シルキラが、火だるまになったグレーウルフの急所を狙ってとどめを刺していく。


 その間にも後ろから次々にグレーウルフが押し寄せてきているのが分かる。


「後退するよ」


 俺はトパズにそう指示を出して、後ろに下がりながら、魔法で攻撃を続ける。


「ファイアボール」

「ファイアボール」


 トパズの乗る黒ちゃんの所へ来る前に、シルキラが魔法で攻撃を続ける。


「アースバレット」

「ウインドカッター」


 何度も同じ攻撃を繰り返しながら、俺たちは、どんどん後ろに下がっていく。


 すると、グレーウルフが攻撃をやめて、またも引き返しはじめた。

 俺は、もしかすると、引き返す場所が同じではないかと考えた。


「トパズ、もしかして引き返したのは、前回と同じなのかな?」


「そうです。同じ場所で引き返しました」


「だったら、ここまで引き付けておいて、ここで巨大ファイアボールを、通路に沿って打ち込んでいく方法がいいと思うんだがどうだろう?」


 ちょうど、両側は壁だから、谷間に沿って鉄砲水が流れるように、壁に沿ってファイアボールを打ち出してやろうと考えたのだ。


「ぜひそれでいきましょう。私に残った魔力はわずかになってしまったから、さっきと同じことは無理だわ。アル君の魔法で攻撃してもらいたい。最後は、剣で戦うしかなくなるわ」


「おいおい、剣で攻撃するのはだめだよ。俺も無理はしないし、俺の魔力量はまだまだあるから俺がやるね」


「アルルス様、了解です」


 2人の了解をもらったのでそれで進める事にした。


「トパズ、シルキラの魔力が少ないようだから、盾だけじゃなくて彼女の援護も頼む」


 そう言ってから、俺たちはもう一度前進を始めた。


 辺りに焼けて落ちているグレーウルフの魔石や、死体を片づけながら、左右の壁をストーンウオールで補強して、ファイアボールでも壊れないように厚くして進む。ただし、天井を作るのはやめておいた。もしもの時にはなんとかして、空に逃げようと考えたからだ。脱出口をふさいで、自分で袋のネズミ状態にはならないようにしたのだ。


 もうすぐ出口という所で、シルキラから声がかかった。


「アル君、またグレーウルフの群れが動き始めたよ」


「よしゆっくり下がるぞ。シルキラは群れの変化があったら言ってくれ」


 そう言って俺たちは、ゆっくり下がりながら、グレーウルフの群れを通路へ誘い込んだ。

 

「アルルス様、そろそろ、グレーウルフが下がる場所になります」


「了解」


 俺はそう言って、両側の壁いっぱいの大きさで、魔力をたっぷり込めたファイアボールを練り上げる。


「いけえええ『高火力ファイアボール』」


 俺の撃ちだしたファイアボールが高熱を出して通路を進んでいく。すると、グレーウルフは下がろうとするが、後ろがつかえていてすぐには下がれない。

 次々にグレーウルフが炎に飲み込まれていく。

 今回のファイアボールは思い切り魔力を込めてあり、速度はそんなに速くない。だから、進むにしたがって、グレーウルフが消し炭や灰になっていく。


「アル君のファイアボールの威力ってすごいね。全部燃えちゃう。壁も溶けてるくらいだよ」


「通路を通って、どれくらい生き残っているか調べたいんだけどな」


 ファイアボールの通過した通路の中を進んで、グレーウルフを追おうとしたけれど、壁がとても熱くて中に入れない。


「トパズ、黒ちゃんを飛行モードにしてくれないか。空から偵察したいんだ」


「了解です。飛行モードにしますのでしばらくお待ちください」


 俺たちは、黒ちゃんの変形が終わるまでしばらく待った。


「アルルス様、シルキラ様、飛行可能です。乗ってください」


 俺たちは、三角形の飛行モードになった黒ちゃんへ乗った。

 シルキラは、乗るとすぐにレーダーを取り出して確認している。


「アル君、濃い赤い点がところどころにある。あと、大きな赤い点がある」


「了解。トパズとにかく安全に飛んでくれ」


 俺たちは遺跡の近くまで近づいた。

 最初、うじゃうじゃいたグレーウルフはほとんど見えない。でもまだ、10匹くらいの大型のウルフが残っているようだった。


「大きな赤い点がこっちに向かってくるわ。トパズ気を付けて!」


 その瞬間、巨大な3つのツノを生やした白いオオカミ型の魔獣が、黒ちゃんめがけてジャンプした。トリプルホーンホワイトウルフとでも言うのだろうか。その時、トパズから声がかかった。


「反転、急上昇します!」


 黒ちゃんが急角度で上に向かって飛ぶと、俺たちの身体は反対に地面へ押し付けられるように引っ張られた。


「ううう……」


 出るのはうめき声だけだ。すごい急上昇と曲芸飛行で気が遠くなる。


 ジャンプした白いウルフは、空中で大口を開けて俺たちを狙ったが、空振りして、そのまま地面に落ちて行った。


「あぶなかった」


「空からウインドカッターで狙おうと思ったけれど、あのでかいホワイトウルフがいたら、とても近づけないな。それに、もう少し近づかないと、まわりのホワイトウルフも魔法攻撃は無理だな。当たる前に逃げられてしまうから。一度戻って作戦を立て直そう」


 俺はそう言って、黒ちゃんを最初の丘に戻してもらった。


 魔獣がここまで追ってくる事は無いと思ったが、いつもどおり、結界の魔道具を張り俺たちは、作戦を練った。


「上空から攻撃できないとすると、結局は地上から正攻法で攻めるしかないわね」


 シルキラが言った。俺も同意見だった。


「黒ちゃんの能力なら、あの大型ホワイトウルフを止められるかな」


 トパズに聞いてみた。


「やるしかないでしょう」


「よし、明日、決行だな。今日はとにかく休憩を取って明日に備えよう」


 そう言う事で、俺たちは眠りについた。


 ◇


 夜中になって、オオカミの遠吠えで目が覚めた。


「アルルス様、シルキラ様、ホワイトウルフの群れがすぐ近くに来ています」


 トパズの声に、俺とシルキラは飛び起きた。

 最初は信じられなかった。結界は完璧のはずだ。なぜこの位置がばれた。頭の中に恐怖と疑問でごっちゃになってくる。


「大声は出さないようにしてください。すぐそばにいるので、居場所を見つけられます」


 トパズの冷静なささやき声が、予想外の危険を告げていた。

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