第6話 ラッキーだったんです
ジェーンさんに案内されるまま、俺たちはギルドマスター室に入った。ギルドマスターは、金髪のオールバックで腕に傷がある筋肉もりもりの男性だった。顔は一見優しそうに見えるが、きっと実力のある人なんだろう。
席を進められて、俺たちが座るとすぐに質問が始まった。
「俺が、ギルドマスターのホルスだ。今回、アルルスとシルキラが、E級のブルーボアを倒した記録がギルドカードにあるが、これはまちがいないか?」
「はい、俺はブルーボアを倒しました」
「私も、ブルーボアを倒しました」
「そこまでは、まあ、いいとしようか。問題は次だ。お前たち二人のカードにA級のトリプルホーンボアを倒したと記録にあるが、これは二人で協力して倒したという事で間違いないか?」
「確かに二人で協力しましたが、ラッキーだったから倒せたと思います。自分の実力ではないです」
「私も、自分の実力ではなくてラッキーでした。もうちょっとで死ぬところでしたから」
俺たちは、魔道具の事は詳しく話せないから、言葉を選びながら答えた。
「じゃあ、そのラッキーというのを説明してもらおうか」
「ちょうど、俺が途中まで戦っていた時に地震があって、地割れにトリプルホーンボアが落ちて自滅したからです」
「アル君の言う通り、地震が起きたから倒せたと思います」
「なるほどなあ。確かに地震があったし、グリング台地の地割れも報告がある。嘘は言っていないようだなあ。他に証拠があればいいんだけどな」
「あの、俺のマジック収納に死体が入ってるので見せれば、証拠になりますか?」
その時、ギルドマスターの目が細められた。ぜひ見てみたいという顔だ。
「よし、見せてもらおうか。解体所に移動しよう」
俺たちは解体所に移動した。
「すみません。マジック収納持ちだと知られたくないので、信用できる人だけにしてください」
高機能のマルチタクティカルブレスを知られるのはまずいので、遠慮してもらった。
「わかった。ジェーンと、解体主任のハムレスだけ残れ」
周りを確認してから、俺はトリプルホーンボアとブルーボアを出した。シルキラもブルーボアを出した。ブレスレットから出したと分からないように、ポーチから出すふりをした。
そのトリプルホーンボアを見た瞬間に、ギルマスさんとジェーンさんとハムレスさんが、固まった。
「おいハムレス、その巨大魔獣を確かめてくれ。名前と死因を知りたい」
「ギルマス、こりゃあ確かにトリプルホーンボアでさあ。久しぶりに見ますけど大物ですなあ。足が刃物で傷ついているから、戦闘でつけたんでしょうな。ただまあ、生きていると岩のように硬いから、信じられませんがね。あと、頭がつぶれてるんで、地割れで頭から落ちたから死んだのでしょうな」
ハムレスさんが、死体をていねいに見ながら、結果を報告した。
「そうか……。ハムレスまでそう言うなら、2人の話を信用するしかないだろうな……。仕方ない、アルルスとシルキラは俺と一度戦え!」
「え! 俺が何で戦うんですか?」
「そうです。なぜ戦う必要があるのか私にも分かりません」
「悪いなあ、俺にはどうしても、FランクとGランクの2人がAランクの巨大魔獣を倒したという事が実感できないんだ。納得してランクを上げるためには、お前たちの力を知りたいんだ」
「分かりました。力を見せればいいんですよね。それなら、模擬戦ではなくて、魔法を見せるだけでもいいですか?」
俺は模擬戦を避けたかった。俺が倒せたのは、タクティカルブレスと魔剣シュナイツの力が大きかったからだ。そこで、魔法の攻撃力でびっくりさせて、煙に巻く事を考えた。
「お前、魔法を使えるのか?」
「ずっと訓練していたんで、そこそこやれるようになりました」
「わかった。それでよいから魔法を実演して見せろ!」
そんなわけで、ギルドの演習場に移動した。
演習場は、50m四方の壁に囲まれている空き地で、結構広かった。一方の壁の前に土の丘が作ってあって、そこに、人形が5体ほど置いてあった。
ギルド内にいた冒険者たちも、ぞろぞろと演習場にたくさんやって来ていて見物人がたくさんになった。
「お前たち、あの人形に魔法を当ててみろそれで判断する」
俺たちは人形から30mほど離れた場所から人形を狙うように言われた。
俺は、本気で実力を出すと、訓練場を破壊してしまうかもしれないので、狙いを変えた。
「じゃあ俺から行きます」
「ファイアボール」
俺は火球を頭の上に出してどんどん大きくしていき、限界が来たところで頭上に向けて放ち、空高くなった所で爆発させた。
火球が頭上で大爆発すると、ズッドオオンという大爆発の音と共に、衝撃波がすぐにやって来て、冒険者ギルドの施設がビシビシと音を立てた。訓練場に砂塵が舞った腰を抜かす冒険者もいて、大騒ぎになった。
「ギルマス、あの人形だと辺り一面吹き飛ぶので上に向けましたが、いいですよね」
「ああ……わかった……お前の実力は俺が認める。ランクアップだ」
ギルマスの額に汗がにじんでいた。
「じゃあ私も行きます」
「ファイアボール」
シルキラは、小さな火球を身体の左右に出して、人形に向けて思い切りカーブをかけて放った。
2つの火球は右向きと左向きに、ぐるっと半円を書いて演習場を半周してから、左右両方から同時に人形に当たって大爆発した。
次に火球を4つ出した。
「ちょっとまて、シルキラも認めるからやめろ! ギルドが壊れるわ!」
ギルマスが叫んだ。
それで、シルキラは4つの火球を空に向けて放った。4つの火球が追いかけっこをするように、ぐるぐる回りながら空に登って行き、爆発した。
俺は、シルキラの魔力操作に感動しながら、真上に上がっていく火球を見ながら思った。しかし、ギルマスを見ると、あっけにとられている様子だった。
「疑って申し訳なかったな。実力は認める。ただ、アルルスはFからDランクに昇級、シルキラはGからEランクにする。ギルマスの権限だと、いっぺんに上げるのは2段階までだからそれでいいにしてくれ」
そう言ってギルマスは、苦い顔をして俺たちの前からいなくなった。ギルドの建物が壊れなくてよかったと思っているように見えた。
俺たちは、受付カウンターで冒険者カードの更新をしてもらった。
ギルドの中にいる冒険者たちの俺たちを見る視線が、強い冒険者を恐れるようにチラチラと見る視線へと変わっているのが面白かった。
それからトリプルホーンボアとブルーボア2頭を買い取ってもらった。買い取り額は、金貨10枚と銀貨2枚になった。トリプルホーンボアの3本のツノが高かったので高額になった。お金は3つに分けて持つことにした。別れ別れになるかもしれないからだ。ただ、魔石はシルキラとトパズとコハクが使うというので売るのをやめる事にした。
ギルドを出て、町を出てから、コハクは、黄色のカギの封印場所へ戻って行った。先にトパズが旅へ同行するようだ。
「じゃあ事前の予定通り、緑のカギをめざそうか」
町から離れて人気が無くなったところで俺は言った。事前の作戦会議で決めてあったことだ。
シルキラは、レーダーを出して方向を確認した。
「ここからだと、西の方角に2日ほど馬で進んだ森の中になるわ」
そう言って、目の前に広がる森を指さした。
「それなら、森の中で夜を待って、空を飛ぼうか」
森の中の道がない所を馬で走るのは困難だ。一気に進むなら、空を飛ぶのがいいだろう。そう思って提案した。
「夜なら、空を飛んでもゴーレムの黒ちゃんなら、黒いから多分見つからないですし、いいと思います」
話がまとまったので、俺たちは、早めに森の中に入って食事をして、早めに寝てしまう事にした。
結界の魔道具を使えば、昼間でも見つからないので、とても便利だ。
俺たちは、食事をして睡眠をとって夜中を待った。
「アルルス様、シルキラ様、起きてください」
夜中に、トパズに起こされた。
「トパズは寝なくていいのか?」
「はい、問題ありません」
自動人形は、寝ないでずっと見張りをしてくれるという事だ。それだけでも、トパズに付いて来てもらった事がとてもありがたいとなった。
「黒ちゃんを飛行モードに変形しますから周囲の監視をお願いします」
そう言って、トパズが収納ポーチからゴーレムの黒ちゃんをだして変形させていく。
ガチャン、ガチャンと金属音を鳴らして黒ちゃんが三角形に変形していくのを見ているとつくづく便利だと思う。黒ちゃんは立方体が集まって出来ているゴーレムなので、ブロックを組み合わせれば、変形は自由自在なのだ。
「私が周囲を監視するわ」
そう言って、シルキラが目をつぶって魔力を練り始めた。1か月の訓練で、彼女は周囲の魔力探知が出来るようになったからだ。特に強力な魔獣は、魔力が強いからそれを探知できれば安全だ。
「じゃあ、俺は片づけをするよ」
そう言って、テントと結界の魔道具を収納した。
「じゃあ乗ってください。」
トパズの案内で、黒ちゃん(飛行モード)に乗った。
席が3つあって、トパズは一番前、その後ろに俺たち二人が並ぶ感じだ。席に座ると、ゴムのようなベルトで、身体を固定された。これなら怖くないなあと思った。シートも柔らかくて座り心地がいい。
「離陸します」
トパズがそう言うと、ゆっくりと上昇を始めた。
「西に向かいます」
トパズの言葉で水平飛行を始めた。だんだん加速しているのが分かるけれど、風が来ない。それに、結構速度が出ているので不安になる。
「かなり速いけど、大丈夫なのか? それに風が来ないけど、どうなっているんだ?」
「私は自動人形なので、暗闇でも見える能力がありますから、大丈夫です。それから、黒ちゃん全体を、透明なサンドウオールの魔法で覆っていますので大丈夫です」
なるほど。得意な土魔法で風を防ぐというのもあるのか。そう思いながらしばらく飛ぶと、目的地の上空に着いた。
目的地は、岩でできた砦のような古代の建造物だった。
「広い所へ着陸します」
そう言って、黒ちゃんが森林の中の小高い丘に降りた。俺たちは、黒ちゃんから降りて、周囲を警戒した。シルキラがレーダーを出してカギの位置を確認している。トパズはゴーレム人形モードに黒ちゃんを変形させている。
「アル君、トパズこれを見て」
シルキラの見せてくれたレーダーには、カギの緑の丸を取り巻く赤い丸がうじゃううじゃいるのが見えた。
「緑のカギの周りに、魔獣がたくさんいるわ」
「確かにすごい数だな。やっぱり妨害する奴が操っている気がする。罠を作って待ち構えている所へ飛び込む事になるからかなり危険だな」
俺は、うじゃうじゃ見えるレーダーの赤い点が、獲物に襲い掛かるハチのように見えて、巨大魔獣とは違う恐ろしさを感じた。
――参考――――――――――――――――
小銅貨 一枚 1円 1マルク
銅貨 一枚 10円 10マルク
大銅貨 一枚 100円 100マルク
小銀貨 一枚 1000円 1000マルク
銀貨 一枚 1万円 1万マルク
大銀貨 一枚 10万円 10万マルク
小金貨 一枚 100万円 100万マルク
金貨 一枚 1000万円 1000万マルク
大金貨 一枚 1億万円 1億マルク
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます