第5話 姉と妹と魔法と冒険者ギルド


 音のする方を見ていると、俺たちの前に、黒い金属でできた大型ゴーレムが現れた。


「お姉ちゃん。私をほっといてずるいよぅ」


 ちょっとかわいい女の子の声が、黒いゴーレムから聞こえた。


「紹介が遅れてごめんよ。中から出てきて」


 トパズが黒いゴーレムに言うと、身体の中央がぱっかり割れて中から美少女が現れた。


「妹ですよろしくお願いします。マスター名前をつけてくださいませ」


 そう言って、俺の前まで来て両手を組んで上目遣いをする。これが自動人形かと思うほどかわいい。


「じゃあ、コハクはどう?」


「了解しました。妹自動人形改め、コハクですよろしくお願いしますマスター」

 

 そう言ってカーテシーをした。カーテシーもかわいくて、年齢に合ったお嬢様らしいかわいらしさがあるゴーレムだと思った。これはもう人間だと思えるほどだ。


「トパズ姉さん、私の作った戦闘ゴーレムの黒ちゃんも連れて行けばいいよ」


 コハクは、黒くて大きな金属ゴーレムをなでながら言った。

 

「そうだね。そうしようかな。それなら体を張って守れるからいいね、さすが私の妹ね」


「という事で、私もお役に立ちそうだから、お姉ちゃん、時々交代しようよ。私も外の世界をみたいもん。マスターもいいでしょう」


 またも上目遣いでお願いされた。


「お、おう。か、かまわないぞ……」


 俺がそう言うと、シルキラもあきれた顔をしてうなずいている。


 結局、2人が交代で俺たちの旅に付いてくることになった。やはり外の世界を知る事も大事だろう。

 でもどうやって交代するのか聞いてみたら、転移魔法だと言われた。魔法はやっぱり便利だ。


 ◇


 それから、俺たちは魔法の訓練を受ける事にした。


「シルキラ様とアルルス様、お二人に魔法の訓練をします」


 そう言われて付いて行った部屋にはベッドのような椅子があった。周囲に魔道具が並んでいる事からまるで研究室と医療室がいっしょになったような部屋だ。


「お二人はそこのイスに寝そべってください。安全のため、科学魔法によるイメージで魔法訓練を行います。基礎訓練から始めて、実戦的な応用訓練をします。最後は、ご自分の個性を生かす自由訓練へと進みます」


 俺にはトパズが付き、シルキラにはコハクが付いてくれて、訓練が始まった。

 背もたれのある大きな椅子にゆったりと寝て、手足と胸に器具を付け、ヘルメットのような物をかぶり、目にはサングラスのような物を付けた。目の前へ現れる指示通りにイメージして魔力を動かし、イメージを脳と身体にしみこませるそうだ。


 1週間は基礎訓練だった。

 まず、体内の魔力を練って魔法を発動する事から始めた。それから、火魔法、水魔法、風魔法、土魔法のボール系や壁系の発動まで訓練した。


「アル君。私もかなり魔法が使えるようになったよ。信じられないくらいうれしい」


 そう言って、シルキラは毎日の練習にとびきりの笑顔で取り組んでいた。魔力の強さが弱いという自分の欠点が克服できてとても嬉しかったのだろう。俺もシルキラの喜ぶ姿が嬉しかった。

 もちろん、魔法の事を何も知らなかった俺は、すべてが不思議で面白かったけれども。


 2週目は応用訓練だった。

 魔獣が出て来るのを、魔法でやっつけて、死んだらやり直しだ。やられると痛みを感じるようになっていて、本気で戦った。

 地形が変わったり、魔獣が変わったり、使える魔法に制限がかけられたりと、難易度を段々上げて訓練を受けた。とても大変な訓練だった。


「シルキラ、この練習めちゃくちゃ疲れるよ。やられると痛いし、やっぱり毎回死んで終わるから、精神的にもキツイ」


「そうね。私は似たような訓練をした事があるから、そんなに苦しくないかな。アル君は、記憶が無くなったから大変だよね。思い出せばもっと能力も上がると思うんだけどね」


 シルキラが、申し訳なさそうにそう言った。彼女は精神的に苦しくないと言うので驚いた。魔法科学が進んでいる『新世界』でのトレーニングはこうなっているのかと思った。


 最後の数週間は、自由訓練だった。


 俺は、トリプルホーンボアを倒す事を目標に訓練を開始した。

 1回目〈ウインドカッター〉で切り刻もうとしたが、身体に傷がつかなくて、すぐに詰んだ。

 2回目〈ファイアウオール〉で逃げ場を無くして〈ファイアボール〉で攻撃した。でも、〈ファイアウオール〉を楽々突き破られて、〈ファイアボール〉も突進速度が速すぎて当てられず詰んだ。

 3回目〈アースウオール〉で壁を作って止めようとしたが、一気に突破されて詰んだ。

 4回目〈アースランス〉で、下から攻撃した。足止めなって、移動速度が落ちたけれど、そこまでだった。〈アースランス〉もなかなか刺さらなくて詰んだ。

 5回目〈アースホール〉で大きな落とし穴を作って落としてから、ファイアボールをバンバンぶち込んだら何とか倒せた。

 6回目からは〈アースホール〉で足止めしてから、生き埋めにしたり、溺れさせたり、石の槍を刺したりと工夫した。

 巨大魔獣を倒すには、移動を止めてから攻撃する方が良くて、それには、土魔法が適していると分析した。

 シルキラの言うとおり、魔法の力を借りれば、俺は強くなれることを実感した。


 それから、土魔法の応用を訓練した。箱や家や堀、高い塔などを作った。俺は地味だけど応用の効く土魔法が面白いと思った。それに、イメージで魔法が工夫できる事を学ぶ事ができた。


「シルキラ、俺は、土魔法の可能性を感じるよ。それにいろいろなイメージで魔法が工夫できるってすごいよな。大きな魔力が必要だけど、大きな堀や塀も一気に出来るし、巨大魔獣でも倒せると思ったよ」


 強力で大量の魔力を持つ俺の率直な感想だった。


「私は、アル君よりどうしても魔力量が少ないから、それを生かしたいと思って、まず探知魔法を覚えようと訓練している所よ。繊細な魔力操作が必要だから、私に合っていると思うの。攻撃魔法も自由自在に動かせたら面白いと思って練習してるわ」


 シルキラは、繊細な魔力操作の方に魔法の可能性を見つけたようだった。


 こんなふうに、俺とシルキラは、お互いの特徴を生かせるように相談しながら魔法を学んでいった。


 ◇


 俺達が訓練をしているに、トパズとコハクには、俺たちの持っている魔道具のメンテナンスと魔道具の作成を依頼した。


「2人には旅用の魔道具を作って欲しいんだ。空が飛べるゴーレム馬と丈夫な服と簡易転移陣と連絡装置なんだけど」


 俺は、仲間との長い旅になるなら、移動手段と装備と連絡手段が必要だと考えて提案した。

 

「どれも可能ですが、ゴーレム馬が空を飛ぶのは技術的にも、発見された時にもやめた方がいいですね。空を飛ぶ時には別の乗り物にする手を考えたらどうでしょう。黒ちゃんを変形させて乗るならどうでしょう」


 ゴーレムづくりの得意なコハクが言うので俺はそれでもいいと答えた。

 それから、シルキラの持っている魔道具と同じ物の作成を頼んだら、コピーなら簡単だとあっけなく言われた。ここの魔法科学力は、新世界より進んでいると想像できた。


 その後、魔法訓練の合間に俺たちは何度も相談しながら魔道具の開発を進めた。


 ◇


 約1か月後、旅立ちの準備のために俺たちはイベリスの冒険者ギルドへ出かける事にした。


 素材を売って旅の資金を作るためと、俺のブルーボア討伐の報告と、トパズとコハクの冒険者ギルドカードを作って身分証明書にするためだ。

 

 ゴーレム馬で移動して来た俺たちは、イベリスの町の門で守衛に止められた。


「お久しぶりです。Fランク冒険者のアルルスです」


「おう。1か月ぶりだな。ブルーボア狩りに行くと言って出て行ったけれど、生きて帰ってこれて良かったな。それに、たくさんの美人さんを連れて帰って来るとは、なかなかうらやましいぞ」


 俺は守衛さんとは顔なじみだったので、とても気軽に話し掛けられた。


「私も久しぶりです。Fランク冒険者のシルキラです」


「お嬢さんも、見たことがあるな。通行許可だ」


「この二人は、トパズとコハクで、旅で知りあった仲間です。人物は俺が保証しますし、これから冒険者登録しますので大丈夫です」


「アルルスが保証人か。ならまあいいだろう。冒険者としてがんばりな。入っていいぞ」


 ということで、簡単に町に入れた。ゴーレム馬をすんなり通されたのも、今後の旅には収穫になった。


 町に入ると、俺たちは冒険者ギルドに直行した。


 ギルドでは、Fランクの俺が女性を3人も連れていたので、悪目立ちしてしまい視線が集中した。それで、さっさと受付のジェーンさんの所に向かった。


「ジェーンさん久しぶりです。1か月前のブルーボアの討伐依頼ですがいろいろあって1頭だけしか倒せませんでした。それから、この二人が冒険者ギルドに入りたいというので、お願いします。あと、俺とシルキラさんが倒した魔獣の買取をお願いします」


「冒険者ギルドへようこそ。アルルス君お久しぶりね。じゃあ、冒険者登録からやるわね」


 そう言って出されたギルドの登録用紙に、2人が記入を終わると、ジェーンさんは、四角い黒い箱を出してきた。


「この箱は魔道具なの。指を入れてちょうだい。血を1滴とるから少しチクっとするけれどいいわね」


 そう言って、黒い箱をトパズの前に置いた。

 トパズは、黒い箱に指を入れた。

 その時、コハクが何かを操作しているのに気付いた。すごくドキドキしたけれど、だけど黙って見ていることにした。

 結局、何事もなく、2人の登録が済んで、ギルドカードを渡された。


 俺はほっとした。本物の冒険者ギルドカードを手に入れるのが、一番厄介だと思っていたからだ。後は、気楽な作業になるなと、その時は思った。


「次は、討伐の話ね」


「あの、俺ブルーボアの討伐期限から、1か月ほど経っていますので、罰金なら払いますのでよろしくお願いします」


「私も依頼は受けてないのですが、1頭倒したのでお願いします」


「ブルーボアの討伐は、遅れても問題ないわ。それより、アルルス君、ブルーボアを倒せたの? あなた、Fランクになったばかりじゃない。シルキラさんも、Gランクよね。ギルドカードを見せてちょうだい」


 目つきが鋭くなったジェーンさんに俺達2人は、ギルドカードを渡した。

 ジェーンさんは、黒い魔道具にギルドカードを入れて、表示を確認している。


「えええっ! 何よこの記録! ありえないわ。ギルドマスター室へ行きましょう」


 予想外の展開に俺は驚き、大声で叫んだジェーンさんにつれられて、ギルドマスター室へ向かう事になってしまった。

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