第4話 砂塵の中からこんにちは


「シールド」


 俺が走り込んだとたんに、シルキラが盾を作り構えた。

 すでに、全部の岩人形が俺たちの方に向かって歩いている。そのせいか、砂塵がもうもうと舞い上がっている。その中を亡霊のように歩いてくる姿が異様だ。


(やばい、囲まれた……どうしよう)


 俺は、恐怖と動揺で対抗策が思い浮かばない。


「アル君、あれはストーンゴーレムよ。まずは盾で防御しましょう」


 こんな時でもシルキラは冷静だ。


「わかった。俺も盾を作るよ。『シールド』」


 俺も盾を作り、シルキラの盾と合わせて二重にして構えた。


 その時には、一番近くにいた1体が俺たちの目の前まで迫っていた。

 そのゴーレムは、一度止まると、両手を前に突き出した。


(まさか、腕が飛ぶなんてないよな……)


 次の瞬間、ガギンという金属音とともに、ゴーレムのこぶし2つが盾にぶつかった。俺の1枚目が破られそうになっていた。


(あぶなかった……)


 背筋に冷たいものが流れた。


 このままじゃだめだ。俺は、魔力を最大限に発動する。俺の盾が分厚くなっていく。


 ゴーレム軍団から拳が連続して発射される。

 ズドン、ズドンと撃たれた何十発もの拳が盾にめり込んでくる。でもそこまでだ。拳は盾を突き破ることなくゴロリと落ちていく。できたへこみは、すぐに修復されていく。

 俺は必死で魔力を込めて耐え続ける。

 

 辺りは、砂煙で見えなくなるほどになり、転がり落ちたゴーレムのこぶしは、俺たちの前に山のようになった。

 

 その時だった。砂塵の中から人間らしい姿が現れた。

 

「マスター、ごめんなさい。大変失礼をいたしました」

 

 俺達の目の前まで歩いて来た人間は、美しい女性の姿をしていた。


「『ごめんなさい』と言われても、ゴーレムに攻撃させてから出て来るなんて信用できないな」


 カチンと来ていた俺は、女性をにらみながら答えた。


「岩人形は全員壁まで下がっていなさい。これではマスターにお話しができません」


 そう彼女がそう言ったとたんに、ズシン、ズシン、という音と共にゴーレムたちが壁の方まで下がって行てしまった。

 俺たちは、顔を見合わせて、立ち上がった。


「あなたは、ここで〈カギ〉を守っている方かしら?」


 シルキラは、俺とは違って冷静に質問した。


「はいそうです。私は〈黄色のカギ〉の番人をしている者です。お2人をお待ちしておりました」


「待っていたと言っても、あまりに手荒い歓迎だな。待っていたとは思えないけどな」


 俺は、女性が信用できなかったので、ぶっきらぼうに言った。


「失礼いたしました。お許しください」


「わかったわ。それはしかたないわ」


 シルキラは、それくらいはあるだろうとでも考えていたように返事をした。だが俺はどうにも納得できなかった。


「あんたは、人間の女に見えるけれど、特別に長生きだよな。魔女か?」


 俺はもう少し情報を集める事にした。

 まず、とてもつもない長い年月を生きている人間がいるなんて信じられないから、それから聞いてみた。


「いいえ、私は自動人形です。岩人形達よりは性能が高いですが、同じゴーレムの仲間です」


「私たちを待っていたというけれど、どうして来るのが分かったのかしら?」


「はい。台地の上で、私のマスターになる〈魔力の色〉を感じたからです」


「ふに落ちないな。だったらなぜ、ストーンゴーレムをけしかけた?」


「すみません。私は、〈魔力の色〉と〈魔力の強さ〉でマスターを判断します。私は〈魔力の強い方〉でないと、マスターと認める事ができないので試させていただきました」


「ゴーレムの拳から守れるほどの〈魔力の強さ〉があったから、俺をマスターと認めたって事か?」


「そうです」


「シルキラは、お前のマスターにはなれないのか?」


 俺は、シルキラの言った事を確かめてみた。


「シルキラ様は、マスターの資格の一部を持っていますが、〈魔力の強さ〉が足りないようです。アルルス様は、資格をお持ちです」


「それでも、おまえがシルキラも俺と同様に接する事はできないか」


「やはり同様にはできません。優先順位を付けさせて、ほぼ同様に接するすることは可能です。シルキラ様の〈魔力の色〉は純粋でとても美しいのでそうさせてください」


「わかった。ところでお前の名前はなんだ?」


「黄色のカギの番人とでもお呼びください」


「それならトパズでどうだ。黄色の宝石からとった名前だ。シルキラはどう思う」


「私もそれがいいと思うわ」


「了解しました。私はこれからトパズと名乗らせていただきます」


「ところで、トパズ。私たちを待っていたと言ったわね。もしかして、あのトリプルホーンボアを割れ目に落として、ここに誘導したのはあなたが仕組んだ事かしら」


 シルキラはとても冷静に質問した。


「その通りでございます。シルキラ様」


(え! そうなんだ……)


 俺はシルキラの洞察力に驚いた。


「それって、地割れを作って落としたのは、あんたって事かい?」


「はいそうです。アルルス様」


「まさかトリプルホーンボアまで出て来るとは思いませんでしたので、少し手助けをして、ここに導きました」


(どおりで、ちょうどうまい具合に、地割れが出来たわけだ……)


 俺は、トパズを信用してもいいなあと考え始めていた。


「トパズの力があって、トリプルホーンボアを倒せたのだから、感謝するよ」


 俺は正直に、自分の気持ちを伝えた。


「それでは、カギの場所にお2人をご案内いたします。こちらにどうぞ」


 そう言われて案内された場所は、部屋の真ん中だった。周りには魔法陣のような記号が書いてあった。でも、自分にはよくわからない。


「それでは移動します『転移』」


 トパズがそう言うと、一瞬の浮遊感があり、気持ちが悪くなった。

 次の瞬間には、別の部屋にいた。


 目の前には、黄色の台座があって、その上に黄色の球体が浮かんでいる。

 台座の前には、黄色の剣が置いてあった。


「アルルス様、黄色の球に『アレリウスの黄剣』を差してください。そうすれば、『新世界』の崩壊を遅らせます」


「わかった。やってみる」

 

 俺は、剣を逆手に持って、真上から球体に突っ込んだ。

 球体は、まるで硬いゼリーのようで、最初は刺さったが中に行くほどに硬くなり刺さらなくなった。


「うおおおお!」

 

 俺は魔力を最大限に発動するイメージで刺し貫こうとした。でも、最後の一歩が足りない。どうしても8割までしか刺さらないのだ。


(このままでは、だめだ……)


 俺は、一瞬思考した。


「シルキラ頼む応援してくれ! 魔力の色が同じなら行けるはずだ」


「分かったわアル君。やってみる」


「マスターお待ちください。2人でやるとは、想定外です!」


 その時トパズが、急に取り乱した。


「俺の言う事を聞け、トパズ!」


「仕方がありません。了解しました。やってください」


 トパズが静かになった。


 シルキラの手が俺の手に重ねられる。


「いくぞ!シルキラ。全力全開だ!」


「分かった。私も思いを込めるよ!」


「「いっけえええええ!」」


 その時、剣を取り巻く魔力が回転し始めた。


 俺のバリバリと貫くような白い魔力の奔流に、シルキラの虹色の魔力がぐるぐると取り巻いた。まるでドリルのようになった魔力が剣を少しずつ刺さっていく。


「マスターこれはすごいです。想定外です。計算できません」


 トパズが、ごちゃごちゃ言っているが最後まで刺さないといけないのだ。俺は集中を切らさず刺し貫く。


 球体を刺し貫いた剣が台座まで達した時、辺り一面が黄色の光に包まれた。


 剣から出た黄色の魔力が、つなみのように自分の身体の中に押し寄せてくる。


(すごいな。これは魔力の奔流だな、これは……)


「アル君、私の中にも強い魔力が入って来るよ。私も強くなっているかもしれない。でも、これ、アル君の分だよ、いいのかな?」


「そんなもん、いいに決まってるじゃないか。2人で強い魔法使いになろう。それに俺1人じゃ刺せなかったんだ。シルキラの魔力が俺の魔力を包んで後押ししてくれたんだよ。見ただろう『ぐるぐる』取り巻くシルキラの魔力。美しかったぞ」


「そうかな、ありがとう」


 俺たちはしばらく魔力の奔流がおさまるのを待った。


 すると、トパズが話し始めた。


「これで、私の務めは終わりました。それで、1つお願いがあります。私を旅に連れて行ってもらえませんか」


 突然だったが、悪い話ではなさそうなので理由を聞いた。


「なぜ付いて来たいんだ?」


「それは、マスターを危険から守るためです。今回のトリプルホーンボアの出現は異常です。マスターを狙った可能性が90%以上あります。私ならば危険回避のお役に立てます」


 トリプルホーンボアの出現が異常という事が俺にも気になった。そして、自分が『新世界』からの転移をしくじったのも同じ妨害にあったかもしれないと考えはじめた。


「トパズが付いて来た場合、ここの管理は大丈夫なのか?」


 俺は、この施設の事が心配になった。今後アレリウスの剣を抜かれたら困るし、地震も心配だ。


「ここには私と同じ型のゴーレムがもう1体いて、2体でこれまで管理してきました。私たちは姉妹のようなものです。妹がここの管理をしますし、いつも連絡が取れますので、大丈夫です」


 なるほど。安全のための仕組みがきちんと考えられていて納得した。

 

「よくわかった。一緒に付いてくるのもいいだろう。それで、トパズの能力を教えてもらえるとありがたいのだが」


 トパズが『マスターを危険から守るため』と言った事をもう少しはっきりしたくて聞いてみた。


「私は支援型の自動人形です。さまざまな知識と技能がありマスターの役に立ちます。例えば、魔道具の修理と作成が出来ます。武術や魔法を教える事も出来ます。知識と技術でマスターを危険から守り、マスターを強くする事で危険から守ります。ただ、戦闘は不得意です」


「アル君、武術と魔法を教えてもらえる事は私達二人にとってもありがたいわね。それに魔道具を作ったり修理してもらえるのもすごくありがたいと思うわ」


 シルキラもとても乗り気だった。そう言えば、彼女も強い魔力を手に入れたのだ。魔法が使えるようになるはずだから嬉しいのだろう。


「俺も同行に賛成するよ。いろいろ聞いて悪かったけど、トパズこれからもよろしくな」


「トパズこれからもよろしくね」


「シルキラ様、アルルス様、よろしくお願いします」


 その時「ズシン、ズシン」というまるで巨人でも動くような音が聞こえた。

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