第2話: 彼女は一体……

「はぁ~~~~」


 俺は今、猛烈に疲れている。

 なぜならば、あの後、わざと俺の後ろに周り、追っかけられたり、逆に追いかけたりして、体力を使いすぎたからだ。


「飛脚って体力もそこまでないんだ。ふ~ん。

 まぁ私も素の私だったら、ここまで体力は持たないんだけどね」


 何やら意味ありげな顔をして話すその少女は、不気味であった。

 そう、とにかく不気味だったのだ。


「君って、ちょと怖いよね。初めはあんなにもゆっくり走っていた。

 なのに一度立ち止まって走り始めた時の君は、まるで風のようだった。

 君の中で何が起こったんだい?」


 気づけば緑色に変化していた髪は、元通り白に戻っている。

 早苗は何か悩んでいる様子だったが、しばらくすると、不安そうな声で


「このことを聞いて一緒に行動してくれる人って少ないんだけど……」


 どうやら、昔何かあったらしい。けれど、俺の答えは決まっている。


「俺はそんなことで去ったりはしないよ。俺はもう、一緒に行くって決めたんだ」


 その言葉を聞いてもなお悩んだ様子の早苗は、やがて、ゆっくりと話し始めた。


「私は、本当は人間とはいえない存在なの」


 その言葉に衝撃を受ける。

 人間ではない?それはどういうことだ?

 まさか妖怪?それとも霊の類なのか?

 様々な考えが頭をよぎっては消えていった。


「やっぱり…。そんな反応はするよね。私は、半妖なの」


 半妖?それがその言葉の通りなら、彼女、早苗は半分は妖怪の血が流れていることになる。


「正確には、母親が九尾で、父親が陰陽師。その間に生まれたのが私。

 けど今は私一人。母は亡くしてもういないし、父も、今はどこにいるかわからないわ」


 悲しそうに話すその姿を、俺は忘れないだろう。


「今は、とある人の家に住まわせてもらいながら、もののけ退治を仕事にさせてもらっているわ。あとで紹介するわね。

 それで、話を戻すと、さっきの走りに関しての話に戻すと、あれは私の特性。私は九尾の血を引いているから、自在に人格を変えられるのよ。

 今のこの状態が、『白崎早苗しらさきさなえ』と言われる第一の人格。

 そして、さっきの人格が『緑川風月みどりかわかづき』と言われる第二の人格。

 今の二つの人格の他にもあと七つの人格があるの。

 状況に合わせて切り替えないと大変なことになるから、今は見せられないけど。

 それと、風月ちゃんがなんか変なことしてない?

 私たちって、他の人格になると、その時点で、その人格者の記憶に入れ替わるから、風月ちゃんだった時の自分の記憶がないの。

 何か失礼なことはしていなければいいのだけれど」


 走っている時に、名前を名乗っているのにも関わらず、「飛脚」としか呼ばなかったのは、人格が変わったことにより、名を名乗ったという過去をも全て入れ替えるものだったらしい。


 にわかには信じられないが、自分を半妖だと言ったこの少女の瞳を見れば、それが真実だということはわかる。

 だからきっと、このことも真実なのであろうと信じることにした。


「それで、この私、第一の人格である白崎早苗しらさきさなえは名前に白が入っているでしょう。

 私は、どの色の人格にでも染まれるの。

 だから、行動するときは基本、私が人格の保有者になるわ。

 このことは、風月ちゃんたち他の人格者と相談した結果なのよ」


 そう言って微笑む早苗に、俺もつい笑みがこぼれた。


「そうなんだね。まあ、その風月っていう子は大丈夫だったよ。

 ただ、俺は君に翔太っていう名前を話したけど、風月には飛脚と呼ばれた。

 けど、その時は他のことばかり考えていたから、そんな細かいとこになんて、注意して聞く暇なんてなかったよ」


 実際あの時俺が考えていたことといえば、どうやったら追いつくことができるか、ただそれだけだった。

 けれども早苗は俺が飛脚と言われたことでダメージを受けたと取ったようで、


「すみません!すみませんでした‼︎今度風月ちゃんや他の人格になる時は、この紙を見せ、二度と無礼の無いように指導しますので‼︎」


 そう言って、紙を俺に見せてきた。


 その紙には、「次にあなたが人格者になった時、隣にいる男性は朝倉翔太あさくらしょうたという名前で、行動を共にする人です。」と書かれていた。


「これを懐に入れておけば、次に人格が変わった時に、確認できるはずです。それに、風月ちゃん以外の子たちにも、説明ができます。私たちはいつも、こうして連絡をとっていますから」


 この小さな子に、九つもの人格があり、その人格同士は記憶が同じではないことは、とても辛いことだっただろう。

 自分の意識がないうちに、他の場所へと移動させられていたこともあっただろう。


「まぁ、俺からも名前は名乗るようにするよ。そうでないと、その文の信憑性にも関係してくるだろうし」


 こんな会話をしながら、俺たちは京の都についた。

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