第50話:ロストフィールド侵攻①


 ロストフィールドから帰還した三人は、ネフェルト少佐を交えての情報共有を行うことになった。


「これで全員よ。着席して。ブリーフィングを始めるわ。事前に説明を受けているけどね。再確認よ」


 エクシアが手を叩いて各員を座らせる。彼女が登壇し、モニターを指し示した。都市の空撮写真が写る。


「これはロストフィールド。過去に高濃度高圧縮された魔力爆弾が直撃し、その際に出来たクレーターと汚染地域。上空からは魔力汚染のせいで詳しく見ることはできないけど迷宮都市の名の通り、地下にはダンジョンがある」


 ダンジョンというのはモンスターが湧いて出る地下迷宮の事だ。モンスターは基本的に殺したら消えるが、ダンジョン産のモンスターは魔石と呼ばれる貴重な資源を落とす。なので重要施設として様々な国が奪い合い、そして最終的に「奪われるくらいなら」と爆弾によって破壊した、という流れだ。


「神聖防衛王国がロストフィールドの辺縁沿いに防衛線を敷いているのを確認したわ。何かを守ってる。恐らく迷宮都市の下にある地下迷宮……の更に下にある最深度地下施設カーパルスだと情報部門は結論付けた」


 迷宮都市、地下迷宮、最深度地下施設カーパルスの順番に映し出される。


「カーパルスは迷宮都市が現役だった頃に築かれた人類統一軍の研究施設よ。対モンスター兵器を開発していたわ。モンスターとの戦時に人類軍の自律兵器を統括する『自律分散型量子演算並列処理戦略軌道兵器ジェネシス』が設置されているわね」


 最深度地下施設にあるとされる『自律分散型量子演算並列処理戦略軌道兵器ジェネシス』のスペックが表示される。


「長らく正確な場所は不明だった、地図に記載されていない地下路線に通じているの。今回はロストフィールドの迷宮都市を攻略、データを奪取し、爆破する」


 エクシアは続いて、戦力の配分の画像を映し出す。


「参加兵力は主に三つの部隊。地上で陽動を仕掛ける役目は、神聖防衛国の捕虜で構成された部隊に担わせる。その後方支援にあたるのはメーテルリンク率いるアーキバス軍事部門、地下路線から侵入するのはラスティ、エミーリア、私で構成されるラスティ小隊。陽動部隊はすでに展開しているからここにはいないわ」


 エクシアは端末を操作してマップ上にラインを表示させる。


「アーキバス軍事部門は最前線の後方に設定した防御ラインを守って。ここよ」


 ロストフィールドのかなり後方に線が現れる。それを見ているエミーリアは少し妙だと思う。主力からあんなに離れて何をするのだろう。しかもわざわざアーキバス軍事部門を使って。攻勢に出るというのに彼女たちを加えなくてどうするのだろうか。攻勢が失敗して突破されることでも見越しているのだろうか。

 ラスティは興味深そうにモニターを見つめ、シャルトルーズはどうでも良さそうに首を鳴らしている。


「ジェネシスの位置特定、およびシステムへの侵入に関してはシャルトルーズを使うわ。彼女は古代の技術で製造されていて、生命には任せられない仕事をお願いするわ。神聖防衛王国の通信傍受、偽装命令の送信、古代規格の施設の利用など役目は多岐に渡るわ。今回の作戦の要ね」

「紹介。私は古代の技術で作られています。オーパーツの名に恥じぬ活躍を見せましょう」


 シャルトルーズは立ち上がって綺麗な一礼をした。


「地下トンネルでの戦闘は遮蔽物が無い。だから新開発された可動耐魔装甲盾を装備する。ラスティ小隊が、敵陣を突破、地下迷宮に侵入する。陽動部隊が地上の敵を拘束し、増援が最深度地下施設にやって来ない内に撤退する。作戦名はオペレーション・ブレイクダイブ。迷宮都市は敵地よ、中で遭遇するものはすべて殺害すること。例外はないわ。顔合わせが済んだらすぐに出発する。重要な作戦よ、気を引き締めていきなさい」


 ブリーフィングが終わり立ち上がる中、ラスティ小隊のメンバーは自然と集まっていた。そして他にも後方で待機するメーテルリンクも集まっていた。

 そんな顔見知りの仲に、知らぬ顔が入ってきていた。


「アーキバスの設立メンバーだと聞いています。皆さんと同じ作戦に挑めることをとても光栄に思います!」

「はは、私は違うんですけどね」


 エミーリアは居心地悪そうに呟いた。


「エミーリアさんも、国家成立前に起きた『大混乱』で活躍されたと聞いています。既存のアーキバスのメンバーを治療して生き延びさせた功労者だとか!」

「間違ってはいませんが……あの時はラスティさんに救われて流れだったので」

「行動こそ真実です。エミーリアさんはアーキバスの人々を癒した。どんな裏事情があろうと、それが事実です」

「……真っ直ぐだなぁ」


 エミーリアに尊敬の眼差しを向ける少女を、ラスティはしっかりと見る。青色を基調とした洋服に、オレンジ色の小物がいくつかある。

 ラスティは問いかける。


「君の名前は?」

「ヴレイヴです。エミーリアさんを尊敬しています!」

「それは凄く伝わる。エミーリアさんのどこが好きなんだい?」

「人を癒すところです」

「聖女時代からのファンってことかな」

「はい。まだ教会の巡礼者という存在があった頃、聖女の皆さんに私は救われたんです。争いが絶えない地域にも、傷を癒しに来てくれて……だから私はアーキバスに入ったんです」


 輝くような笑顔で言うヴレイヴに、ラスティは微笑みを浮かべて言葉を返す。


「私達アーキバスは慈善活動国家だ。今は戦い続きだが、その本質は人を助けることにこそある。君なら、その想いが遂げられるかもしれない。一緒に頑張ろう」

「はい! 頑張ります! ラスティ様! それでは作戦がありますので失礼します!」


 そう言って走り去っていく後ろ姿を見つめながら、ラスティはポツリと呟く。


「元気な良い子だ。ああいう子を見ると元気が貰える」


 

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